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代替材調達を巡る承認遅れで顧客に損害を与えた場合の補償問題

目次
はじめに:製造業のサプライチェーンは今、何が起きているのか
2020年代に入り、世界の製造業を取り巻くサプライチェーンは、大きな変動期を迎えています。
長引くコロナ禍や地政学的リスク、さらには原材料価格の高騰、物流の混乱など、これまで前提としていた安定調達の常識が崩れつつあります。
こうした中、とくに現場で深刻化しているのが、「材料調達部門による正規材の入手困難化」と「やむを得ない代替材使用に関する承認遅延」です。
今回は、この問題が実際に顧客への損害につながった場合の補償問題について、私自身の工場勤務・マネジメント経験を踏まえ、現場実態と法的側面、今後の対応策まで包括的に解説します。
バイヤー志望者・調達担当者の方はもちろん、サプライヤーの営業担当や現場責任者の方にもご一読いただきたい内容です。
なぜ代替材調達が増えているのか
現場のリアル ― 予見困難な調達リスクが日常化
近年、発注どおりに正規材を調達できることは「当たり前」ではなくなっています。
特定原料の世界的争奪や、突然の輸出規制。
輸送コンテナ不足による納期遅延。
原材料メーカーの火災・爆発事故。
こうした要因が複雑に重なり、ラインへの供給がストップするリスクが現実化しています。
この状況下で、工場が生産を止めず納期を守るための最後の手段が、「代替材」の緊急調達です。
「顧客への事前承認」― なぜそこまで重たい決裁プロセスになったのか
しかし、顧客サイドの品質要求レベルはむしろ年々高まっています。
サプライヤーが、性能や品質が同等と判断した場合でも、「正規指定材」以外の使用は、必ず「顧客の正式承認」を得ることが、契約上求められるのが一般的です。
この承認プロセスは多層的で、品質・技術・経営層による複数段階審査を要し、昨今のデジタル化の波にも乗り切れていない昭和的な「紙・ハンコ文化」が色濃く残っています。
緊急時にこの「承認リードタイム」がネックとなり、その遅れが被害に直結する―これが現場の切実な課題なのです。
代替材承認遅延による損害例
具体的なシナリオ ― 実際の製造業現場から
・半導体樹脂部品メーカーで、主材料の入手不可となり、調達部が推奨した代替材での生産着手を要請。
・製品仕様が顧客の設計認証を受けているため、代替案は書類・サンプル評価を経て、顧客本国本社での承認が必要。
・日本と欧州をまたいだ決裁フローで承認プロセスが約1か月に及ぶ。
・その間、生産は停止。顧客の最終製品の量産計画に遅れが発生。
・納期遅延により、最終組立メーカーから損害補償(違約金)を求められた。
このような「代替材承認の遅れ」が引き金となる納期トラブルは、あらゆる現場で起きています。
データでも裏付けるリスク
日本機械工業連合会や中小企業庁の調査でも、2020年以降のサプライチェーン断絶(サプライチェーン・ディスラプション)による調達遅延が、実際にバイヤー⇔サプライヤー間のトラブル・交渉長期化の主因の一つとなっていると指摘されています。
契約・法的観点からの補償問題
基本は「契約書の合意内容がすべて」
企業間取引では、契約書が全ての大前提です。
製造委託契約や納入契約書では、
・使用原材料の明示(指定材であること)
・やむを得ない場合の代替材使用時、顧客事前承認が必要
・未承認利用時のリスク分担、及び納期責任
・不可抗力条項(Force Majeure)
などが記載されています。
そのうえで、代替材承認遅延によって顧客が損害を被った際、「誰がどこまで補償するのか」については、契約毎に細かく異なります。
バイヤー・サプライヤー双方の責任範囲
・サプライヤーが正規材入手不可能と判断した時点で速やかにバイヤーに通知し、代替案を提案している場合、サプライヤーの通常の善管注意義務は果たされていると見なされます。
・逆に、バイヤー側での承認決裁が遅延し、その間に生じた損害は必ずしもサプライヤーの責任とはならないケースが多いです。
ただし、日本独特の「お付き合い文化」「長期取引関係」を重視する現場では、実質的に補償を求められることや、原因分担に関して交渉の余地が大きいのも事実です。
不可抗力条項(Force Majeure)は万能ではない
新型コロナウイルス・戦争・自然災害など、全く回避不可能な事案であれば、多くの場合「不可抗力」として責任免除される条文が存在します。
しかし実際には「代替材が本当に市場から消失していたのか」「なぜ早期に見つけていなかったのか」「他の顧客向けには調達できていたのではないか」など、細かく事実認定が争点になります。
現場・実務における補償交渉のリアル
補償内容は千差万別
現場でのトラブル対応では、以下のような補償案がよく協議されます。
・納期遅延に伴う違約ペナルティ払い(事前契約によるもの)
・追加便による輸送費用の分担
・値引き・次回発注時の条件変更
・サンプル・検証コストの一部負担
・瑕疵担保期間の延長
などです。
これらは必ず、事実経過・責任分担・損失金額の明細化を詳細に行い、「落としどころ」を見つけ出すための交渉が続きます。
昭和的現場では「持ちつ持たれつ」も依然根強い
特に日本のアナログ的製造業現場では、
「通算でどちらが貢献してきたか」
「一時的な損失は、今後の取引で補填する」
といった、長期関係重視の“義理人情”が残ります。
これが、良くも悪くも契約・損得勘定だけで割り切れない現実的な「補償交渉」に影響します。
今後求められるトラブル回避・短縮のための実践策
1. 代替材リストと事前承認枠構築の重要性
サプライヤーとバイヤー双方で、
「この品種なら、即時使用可」という“事前承認型 代替材リスト”を作成し、契約書や品質保証協定書に盛り込む企業が増えています。
現場担当者も、
・主要材料のリスクマップ化
・随時の共同レビュー
・サンプル・プロセス変更履歴のクラウド共有
などを徹底することが、今後の混乱防止策となります。
2. 承認フローのデジタル化―電子承認プロセスへの転換
紙・電話・FAXから、ワークフローシステムや電子サイン・オンライン会議を併用した「迅速な決裁体制」が不可欠です。
現場からの要望がダイレクトに経営層まで届くよう、ボトムアップとトップダウンの連携設計が急務といえるでしょう。
3. 契約の見直しと“フェアなリスク分配”文化醸成
サプライチェーンの混乱が長期化する今、
・納期・品質・代替材使用時の通知期限、承認期限
・損害発生時の責任分担、補償範囲の透明化
・外部要因による免責条項の具体化
といった、「実態に即した契約書改革」も必要です。
そのためには、調達担当は常に「最悪の事態」を想像・想定し、相手企業の立場や現場工程も理解したうえで合意形成を目指すラテラルな交渉力が不可欠となります。
まとめ:これからのバイヤー・サプライヤーに求められるもの
現場が想定する以上に、「代替材調達」と「顧客承認」の遅延は、重大な損害・補償問題に直結しています。
その損失を減らし、トラブル時でも“相手の現場状況を想像し、歩み寄れる”ことが、今後の製造業において本当の競争力となるでしょう。
バイヤーを目指す若手の方も、サプライヤーの支援担当の方も。
実際の現場を知り、「契約も人間関係も含めて守りきる」ための知見と行動力を持つことが、これからのキャリアにおいて必須になります。
混乱の時代は“新しい地平線”を開拓できる好機でもあります。
ぜひ、業界の進化を実現する実務家としての一歩を踏み出してください。
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