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開発プロセスが複雑化し若手が育たない悪循環

目次
はじめに:製造業の開発プロセスと育成のジレンマ
製造業の現場では、デジタル技術の進化とグローバル競争の激化により、商品の開発プロセスがかつてなく複雑化しています。
この潮流は技術革新や効率化の恩恵をもたらす一方、現場の人材育成、とりわけ若手技術者の成長に逆風となりつつある現実があります。
ここには、昭和時代から続く“現場主義”やアナログな風土が根強く残る日本独自の課題も影響しています。
本記事では、製造業の現場で20年以上経験を積んだ立場から、なぜ開発プロセスが複雑化するのか、なぜ若手が育たないのか、悪循環から脱却するヒントはどこにあるのかを、現場目線で具体的に解説します。
開発プロセス複雑化の背景
1. 顧客要求の多様化とカスタマイズ志向
かつての製造業は、「とにかくいいものを大量に安く作れば売れる」時代が長く続きました。
しかし、グローバル化と市場の成熟により、ユーザーのニーズは細分化され、製品への要求が高度化しています。
たとえば、自動車なら環境対応や安全性能、エレクトロニクスなら小型化やIoT対応、食品ならアレルゲンフリーやパッケージ種類の多様化など、開発すべき仕様が一気に増加しました。
この「一品一様志向」が、設計・購買・生産管理などあらゆる部門に日常的なカスタマイズ対応を強います。
2. サプライチェーン再構築と部品点数の爆増
グローバル調達の進展に伴い、サプライヤーの選定や原材料調達の「調達購買」業務が、戦略性と同時に複雑性を増しています。
サプライヤーごとに品質基準や納期対応、適用規格も異なり、それが生産工程や品質管理の手間やコストに直結します。
加えて、同一機種でも仕様ごとに部品が変わることが珍しくなくなり、製品の部品点数そのものが昭和時代の数倍に膨れ上がっています。
一つひとつのモノの繋がり・変更が、すべて開発現場の判断や調整を複雑にしています。
3. デジタル化投資の“両刃の剣”
AIやIoT、クラウドといったデジタル技術の導入により、「設計変更の柔軟さ」や「進捗・品質の見える化」などは進んでいます。
しかし、工場ごとの古いシステムや紙ベースの運用と新システムの“すり合わせ”、IT知識の多寡による現場格差といった問題が顕在化しています。
一方でシステムに任せきり、他方で昭和の紙管理も残る、いわば“デジタル・アナログ混在工場”の現場では、標準化や効率化が逆に遠のいていると感じる方も多いのではないでしょうか。
なぜ若手が育たないのか?
1. 業務の断片化・部門分断化の弊害
従来の現場には「一通り工程を経験して一人前」というキャリアパスがありました。
しかし現在は、開発プロセスの複雑化・多層化により、一つの職種でも職域が狭くなりがちです。
たとえば、生産管理は生産計画と調整だけ、購買は部品手配のみ、といった具合です。
若手は自分の担当業務以外の全体像を見づらく、「なぜこの作業が必要か」「工程と工程がどうつながっているのか」を肌感として学ぶ機会を失っています。
この結果、思考に“横串”が刺さらず、変化やトラブル時の応用力が身につきません。
2. 属人的スキルのブラックボックス化
現場では多くの“匠”や“番頭さん的存在”が暗黙知・経験知で業務を回しています。
たとえば、図面にないノウハウ、サプライヤーとの“間合い”の取り方、不良発生時の現場判断などです。
この“匠の知恵”が、可視化・標準化されないままベテランの中に閉じ込められてしまうと、若手は山ほどマニュアルや資料を渡されながらも“現場の勘所”を実感しづらくなります。
OJTで教わるにしても、担当領域が細分化されているため一連の流れが見えない――そんな現状も珍しくありません。
3. 教える側の余力不足・育成サイクルの崩壊
開発プロセスが複雑化する背景には、納期短縮・コスト削減・グローバル対応といった“努力目標”が常態化していることも無関係ではありません。
指導役となるべき中堅・ベテラン層に余裕がなく、「丁寧に育成する」「失敗も成功も体験させる」といった先輩の経験主義が徐々に失われています。
若手は日々のルーティンに追われるだけでなく、チャレンジや失敗から学ぶ機会、上司や先輩と“腹を割って語る”機会さえ失いがちです。
育成サイクルが崩壊すれば、またさらに若手の成長が遅れ、現場が疲弊する悪循環が加速します。
業界の「昭和」からの脱却が進まない理由
1. 「現場に答えあり」の文化の強さ
多くの日本の製造現場は、「やっぱり現場を知らなければモノは作れない」という信念が根付いています。
現場感覚そのものは非常に大切ですが、現場経験至上主義が強すぎるあまり、「見て覚える」「盗んで学ぶ」という非体系的な育成が続いてきました。
その結果、全体最適を目指した仕組みづくりやシステム化が遅れ、ベテランが退職するとノウハウが失伝するというリスクが増しています。
2. “紙文化”と“Excel文化”の根強さ
開発プロセスの多層化・複雑化に対して、現場では依然紙やExcelベースの管理・連絡が大半を占めている工場も多いのではないでしょうか。
生産計画、部品調達、工程進捗、品質記録など、どれもアナログなままExcelファイルとにらめっこ。
最新の情報共有が遅れ、ミスやダブリ、伝達のすれ違いが常態となりがちです。
システム導入の必要性は誰もが感じていますが、「今のやり方が一番安心」「変えるリスクが怖い」という“昭和的安心感”が変革を阻んでいます。
3. 失敗許容度の低さ・新しい挑戦への萎縮
日本の製造業は、ちょっとした品質問題や納期遅れが大きな叱責や減点の対象となりやすいという文化的傾向があります。
結果として、若手・中堅に「失敗して学ぶ」機会や、新しい挑戦を任せる余裕がなくなっています。
こうした環境では、若手も「自分から挑戦したくない」「怒られたくない」という防衛的な思考に陥りがちです。
悪循環的に、縮こまった挑戦・限定的な視野のままキャリアを積むことになります。
悪循環を断ち切るヒント:現場×ラテラルシンキング
1. 分断を越えて、“横断型学習”を推進する
職場ごとの縦割りや業務の断片化を打破するためには、現場体験の“横断”を積極的に設けることが重要です。
短期間でも構いません。
例えば調達業務の若手を生産現場や品質保証の現場に同行させたり、逆に生産管理側が購買部サプライヤーと直接協議してみる機会をつくったり。
経歴や部門の枠を超えたジョブローテーションやワークショップによって、「全体の流れ」「他工程の苦労」を自分ごととして体感させる土壌づくりが効果的です。
2. 答えを教えるのでなく、“考える手法”を育てる
現場の知恵やノウハウを若手に引き継ぐ際、ただ「こうしろ」と手順化・マニュアル化するだけでは、ラテラルシンキング(水平思考)は育まれません。
「なぜこの手順なのか」
「背景にどんな理由があるのか」
「他部門が困るとしたら何が一番の問題か」
「自分が購買・バイヤーだったらどこにコスト・品質リスクを感じるか」
こうした思考を育てるための“問いかけ”や、“実体験型の教育”が何より重要になってきます。
3. IT・デジタル化を現場主導で再設計する
システムやデジタル化は、導入して終わりではありません。
現場が「自分たちの課題をどう解決するか」を起点に、自律的かつ現場主導で仕組み化を進めることがカギです。
紙・Excel至上主義を乗り越え、日々の業務効率や情報共有の“実利”を自ら実感できる仕組み導入を目指すべきです。
IT部門と現場、開発と購買、品質保証と生産…といった“縦割り”を横断するプロジェクトが、悪循環断ち切りの第一歩となります。
バイヤーとサプライヤーそれぞれの立場で大切なこと
製造業に携わる方、これからバイヤーを目指す方、またサプライヤーの立場でバイヤー心理を知りたい方にとって、開発プロセスの複雑さや業界動向はますます“知っておかねばならない現実”です。
バイヤーは、調達コストや納期、品質のみならず、技術の全体最適やラテラルシンキングに基づくリスク管理が問われます。
サプライヤーは、単なるコスト競争から脱却し、バイヤーと一緒に設計開発プロセスに入る“パートナー化”がますます重要です。
「なぜこの要件なのか」「工程の全体最適は何か」を“共通言語”で話せることが、これからの競争優位を決定づけます。
まとめ:突破口は“現場発”と“横断思考”にあり
日本の製造業現場は、アナログな慣習や属人主義、失敗を恐れる文化、“見て覚える”育成など、昭和的な流れがいまだ根強く残っています。
そこにプロセス複雑化・分業深化・デジタル対応という新しい波が加わり、若手が育たない“負の連鎖”が起きています。
突破口は、やはり「現場発」で“横断思考”を育むことです。
自職場・自業務に閉じず、他部門やサプライヤー、時にはバイヤー的な視点も持ち合わせる。
思考と経験の横串を刺す仕組みと、自ら考える力の育成が、悪循環からの脱却の第一歩となります。
未来の製造業を担う皆様が、“新しい地平線”を自分で切り拓いていけることを心から願っています。
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