投稿日:2025年12月15日

調達プロセスが煩雑すぎて担当者が疲弊する悪循環

はじめに 〜調達プロセスの混沌と疲弊の現場〜

製造業において調達プロセスは、単なる物の手配だけでなく、コスト競争力や品質確保、納期遵守を実現する“生産活動の生命線”です。
しかし、現場に目を向けてみると、昭和時代から続くアナログな商習慣や、各部門のサイロ化、複雑化した書類業務や承認プロセスによって、担当者の疲弊が進んでいます。
調達担当者は常に納期、コスト、品質、各種社内調整のはざまで苦しんでおり、その心労は想像以上です。

この記事では、筆者自身の20年以上に渡る現場経験をもとに、なぜ調達プロセスはここまで煩雑になったのか。
そして、悪循環から脱却するために何が必要なのか。
バイヤー視点とサプライヤーの期待、業界の習慣と時代の変化を交えながら、実践的な打開策もご紹介します。

調達プロセスはなぜ煩雑化するのか

1. 昭和的アナログ文化の残滓

多くの日本の製造業現場では、今なお「FAXによる注文書送付」、「紙ベースでの社内承認」、「ハンコ文化」が根強く残っています。
システムを導入しても全てがデジタルに移行できていない現場も多く、担当者はアナログな手続きとデジタルのギャップに板挟みです。

また、“失敗を恐れる”企業風土から、新しい手法やシステム導入への心理的なハードルが高く、現状維持バイアスが働いています。
その結果、業務の非効率部分が温存され続け、担当者への負担は減りません。

2. 広がり続ける“サイロ化”の弊害

調達は品目特性や取引先によって担当部署や担当者が細分化されていることがよくあります。
結果的に「資材は資材調達部門」「設備工事は工務部門」「間接材調達は別担当」といった具合に、部門間でシステマチックな情報連携が取りきれません。

全体最適よりも部分最適が優先され、結果として同じサプライヤーへの依頼でも情報が分断され、非効率な調整・再手続きが発生します。

3. 書類・承認地獄〜“業務プロセスの迷宮”

調達案件には見積書、発注書、契約書、検収書、支払依頼書、各種稟議書が付随します。
「1枚の注文書を出すだけで7つもの関係書類」といったことも珍しくありません。

また、上長や関連各部門の承認が複雑になりすぎて、1件の調達案件の進行に数日〜数週間のタイムラグが発生。
現場では、急ぎの納期やイレギュラー対応に追われ“走りながら書類を整える”という疲弊サイクルが常態化しています。

調達担当者の“疲弊”がもたらす悪循環

1. 業務効率の低下と“先送り”文化

煩雑なプロセスにより、担当者は本来の“戦略的購買活動”よりも日常の事務処理や調整で時間を消耗します。
その結果、「コスト削減提案」「新規サプライヤー開拓」「品質問題の予防」などへの投資的アクションが後回しになりがちです。

また、担当者が疲れ果てることで判断力やコミュニケーション能力が低下し、トラブルの未然防止どころか、問題の“先送り”が横行します。

2. サプライヤーとの関係性悪化

調達側の内部手続きが煩雑だと、サプライヤーへの発注が遅れ、無理な納期短縮要求や急な変更依頼が多発します。
「なぜもっと早く連絡できないのか」とサプライヤーも疑心暗鬼になり、信頼関係が揺らぐ原因となります。

取引先から見ても、“顧客の段取りが悪い”という印象はその後の協力体制や価格交渉、品質対応にも大きく影響します。

3. 人材流出・属人化の危険性

調達プロセスが複雑な状態が続くと、担当者にとって大きなストレス原因となります。
慢性的な残業や業務過多は離職リスクを高め、“優秀なバイヤーほど現場から去っていく”という悪循環を生みます。

さらに、個々人の経験則や暗黙知でプロセスが運用されると、担当者交代時にノウハウ継承が困難となり、引き継ぎのたびにゼロからの手探り対応が続く事態に陥ります。

変わるべき調達現場の“思考と仕組み”

1. 調達を“戦略業務”に昇華させる

調達活動は単なる受発注ではありません。
サプライチェーンの上流から工場現場まで、「QCD(品質・コスト・納期)」の最適化をリードする戦略機能です。

担当者一人ひとりが“戦略的バイヤー”として、自分の時間を「仕入・納期調整」から「改善・新規提案活動」へとシフトできるよう、業務プロセス全体の棚卸しと再設計が必要です。

2. “脱アナログ”は段階的に進める

一足飛びに全てをデジタル化するのは現実的ではありませんが、たとえば注文書・承認の電子化、見積もりのWeb化、稟議フローのオンライン化のように、“小さなDX”から着実に広げていくことが重要です。

現場の困りごとや実態を正面から拾い上げ、「今一番ムダの多い部分」を特定し、そこからピンポイントで“脱アナログ”に着手しましょう。

3. 部門横断の情報共有と手続き統一

調達、品質、生産管理、工務など関連する全部門で業務フローの見直しワークショップを設け、“誰もが同じ情報を見て、同じ手順で進められる”共通ルールの整備がカギです。
情報を分断する“部門の壁”を少しずつ崩していく意識改革が求められます。

4. サプライヤーと“共創”する姿勢を強化

調達側の都合だけを優先するのではなく、サプライヤーからの声に耳を傾け、双方の現実課題をオープンに共有するパートナーシップ形成が不可欠です。
「急な発注変更はできる限り減らす」「納期や仕様・コスト情報をリアルタイムに共有する」など、“取引先を巻き込んだPDCA”が今の時代は必須となります。

バイヤー志望者・サプライヤー向けの視点

バイヤーを目指す方へ

バイヤー職は日々の手配業務だけでなく、会社全体の原価率・利益・仕入れ安定性を左右する重要なポジションです。
“煩雑さに巻き込まれる”のではなく、その根本原因を見抜き、変革する力・主体性が強く求められます。

また、社内外の多様な関係者の立場を想像し、全体調整をリードする“ファシリテーター的”な役割も担うことをお勧めします。

サプライヤーが知っておきたい“バイヤーの内情”

サプライヤーの立場で重要なのは、「バイヤー側がなぜ急な発注やイレギュラー要望を繰り返すのか」と背景にある業務難や苦労を理解することです。
もしかすると、あなたの担当バイヤーは、社内手続きの迷宮でもがいているのかもしれません。

そうした現実を踏まえ、情報の前倒し提供、過去トラブル事例のヒアリング、納期短縮提案など、“お互いに助け合う”スタンスを持つと、新たなビジネスチャンス・信頼獲得が期待できます。

まとめ 〜抜け出すべきは“煩雑さの悪循環”〜

日本の製造業は、技術力・現場力において世界トップクラスですが、“調達プロセスの煩雑さ”という足かせを未だ多く残しています。
担当者が疲弊しながらも“今までのやり方”にしがみつく悪循環から脱却するためには、まず現状の“見える化”と“小さなDX”“共創マインド”の導入が大切です。

製造業の繁栄には、現場で汗をかく調達担当者、サプライヤー、そして経営層が一丸となって“変革の第一歩”を踏み出すことが不可欠です。
今を変える勇気こそが、未来の競争力を大きく左右します。
ぜひ、あなたの現場から“風穴”を開けてください。

You cannot copy content of this page