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部品トレーサビリティシリアル追跡でリコール時の影響範囲を即特定

目次
はじめに:部品トレーサビリティとシリアル追跡の重要性
製造業において、品質保証とリスクマネジメントは常に最重要課題です。
多くの業界でIoTやデジタル技術の導入が進むなか、昭和の時代から続く“勘と経験”に依存しがちな現場も、徐々に変革の波にさらされています。
特に自動車や電機、精密機器など、複雑なサプライチェーンを持つメーカーでは、部品トレーサビリティ――すなわち「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」部品が作られ、使われたのかを把握することが、信頼性維持のカギとなります。
本記事では、製造業界で20年以上の経験を基に、現場目線でトレーサビリティ、特に「シリアル追跡」を中心に深く掘り下げて紹介します。
そしてリコールが発生した際にいかに被害を最小限に抑え、迅速な対応の実現が可能になるか、新しい視点で解説していきます。
トレーサビリティとは何か?現場感覚で解説
トレーサビリティの言葉の意味と製造現場での解釈
一般的な辞書的には、「追跡可能性」「履歴の追跡性」を意味します。
しかし製造現場で本当に求められているのは、「トラブルが発生したときに、部品レベルで起点から終点まで素早く問題を特定できる力」。
これが本質です。
品質問題や法規制対応だけでなく、納品先や顧客からの問い合わせ対応、共同開発先への説明責任など、「説明責任のための証拠集め」も含まれます。
なぜシリアル追跡がここ数年急速に脚光を浴びるのか
かつてはLOT(ロット、ある範囲の数量をまとめる単位)管理が主流でした。
同一工程で一括して生産し、まとめて一つの番号で管理する方式です。
しかし製品バリエーションの増加、個別カスタマイズやグローバル調達化が進む昨今、1個単位でも「どこから・どこへ」「どの部品が含まれているか」を遡れるシリアル番号管理が不可欠となっています。
例えば、自動車部品の一部で異常が発見された場合、ロットトレースだと「工場2号ラインで作った10日分、全部アウト!」となり、数万台という規模で回収(リコール)になりがちです。
ところがシリアル追跡があれば、該当工程、該当日、該当シリアル番号の“あの製品”だけを限定的に特定できます。
この差は“数十億円規模”の出費を左右するほど重大です。
従来型アナログ現場の壁:シリアル追跡が普及しなかった理由
昭和的な「紙管理」の限界
古き良き製造現場では、日報や検査記録、工程指示書などを紙で管理してきました。
作業者は手書きの伝票や、時には“現物確認”でLOTを追いかけます。
確かに柔軟で臨機応変な対応が可能ですが、情報の粒度が粗く、部品レベルの履歴までは把握が困難でした。
また、作業者の勘やノウハウに大きく頼るため、属人化が進みます。
これがDX推進の妨げになっていたのです。
「工数増大」と「現場の反発」
新しい管理システムを導入しても、シリアル管理は工程ごとに「貼付」「読み取り」「記録」といった作業が追加で必要です。
現場の従業員にとっては「やることが増える」「ミスが増える」「手間が増える」と感じやすく、定着化に時間がかかります。
「何でもかんでもIT化すれば良いわけではない」という声には、一定の説得力もあります。
ですが、ここ数年のサプライチェーン混乱や、全世界規模でのリコール事例の増加、法的規制の強化など、外的プレッシャーが大きくなっています。
結果として、「今やらなければ危険」という危機感が広がりつつあります。
シリアル追跡システム導入の最前線:現場が直面する課題と解決策
実際の導入現場での課題
1. コストとROIの問題
シリアル番号印字装置や読み取り端末、管理システムの導入には、初期投資や維持コストがかかります。
とくに「薄利多売」型産業では導入効果を実感しづらい場合も多いです。
2. 作業負荷の増加
ラベル貼付やバーコード読みといった作業が現場作業者の負担となり、モチベーションや生産性に影響することもあります。
3. データの連携や運用ルール作り
工程ごと、部門ごとに異なるやり方が存在し、システム連携やデータ統合が困難な場合があります。
また、ルールを現場に浸透させるのも大きなチャレンジです。
解決策:現実的ステップで進める
1. トップダウン+現場巻き込み
経営層による「ビジョン提示」と、現場リーダーが率先してプロジェクトを進める“現場巻き込み”が最重要。
従業員の「なぜやるのか」「それで何が良くなるのか」を明確に伝えることが、共感醸成のカギになります。
2. 小規模パイロット導入→順次拡大
最初から全数管理・全工程導入を目指すと、現場の混乱や反発を招きます。
まずは1つの製品、1ラインでテスト運用を行い、問題点を洗い出して徐々に適用範囲を広げることが成功の秘訣です。
3. IT・自動化を活用
最新のQRコードやRFID、画像認識技術を駆使することで、“人手でチェック”の限界を補えば、作業負荷も低減できます。
IoT機器やMES(Manufacturing Execution System:生産実行システム)と連動させることで、自動的に履歴が蓄積される仕組み作りも進んでいます。
リコール対応を根底から変革するトレーサビリティの力
リコール時の影響範囲特定作業、そのリアルな舞台裏
実際にリコール対応が発生した現場では、次の流れで対応が進みます。
1. 問題の連絡を受け、自社のどの製品、どの部品が対象か情報収集
2. 該当ロットまたはシリアル番号を抽出
3. 対象となる製品が「いつ・どこに・どれだけ出荷されたか」調査
4. 顧客への通知、回収、社内外への報告、再発防止策検討
“LOT管理”だけだと、2番で「該当期間の部品は全数」「該当工程のもの全部」となりがちです。
一方、シリアル追跡が厳密にできていれば、「何番から何番までの基板搭載製品」「この供給先だけ」「この出荷ロットのみ」など、極めて限定的に影響範囲を特定できます。
これによって、
・影響を受ける顧客への素早い連絡
・対象範囲を極小化による無駄な回収・顧客混乱の回避
・回収・対応工数や費用の大幅削減
が実現できます。
最新トレンド:AIによるトレース範囲自動特定
いま注目されているのが、AIやデータ解析によるトレースパターンの自動特定です。
何千、何万という膨大なデータの中から「パターン化された共通因子」を抽出し、人手では見逃しがちな“隠れ不良”や、“再発リスク”も洗い出すことが可能です。
これにより、より科学的に、よりスピーディに、抜け漏れのないリコール対応が可能になっています。
バイヤー・サプライヤー双方に求められる「新しい調達マインド」
バイヤー視点:サプライヤー選定の新基準
これからの時代、単に「価格」や「納期」だけでなく、「情報の透明性」「トレーサビリティ対応力」が、サプライヤー選定の重要な指標となっています。
製品への“安心・安全”需要が高まるなか、「トラブル時にどこまで遡れるか」の仕組みがなければ、大手メーカーとの取引継続はますます難しくなるでしょう。
サプライヤーの心得:バイヤーが本当に求めていること
一見、トレーサビリティ対応は「大手メーカーの押し付け」と思われがちですが、実はサプライヤー自身を守る保険にもなり得ます。
トラブル時に「どこに・どれだけ・どんな原因で発生したのか」を明確に証明できれば、「無関係な範囲まで回収」「一時的な納入停止」といった理不尽な被害を回避できます。
また、トレーサビリティ強化は“ブラックボックス取引”の排除、取引関係の透明化、ひいては信頼関係の強化にもつながります。
まとめ:現場から始めるシリアル追跡革命
部品トレーサビリティ、シリアル追跡は「面倒だから」「コストが…」と敬遠されがちですが、これからのサプライチェーン全体の競争力、ひいては日本の製造業の信頼性維持のために欠かせない取り組みです。
昭和から続くアナログ現場でも、「小さく始める」「現場を巻き込む」「データ連携と自動化」を意識すれば、無理なく着実にステップアップできます。
リコールや品質トラブル発生時の“即対応”が、「現場の地力=企業体質の強さ」を決める時代です。
今こそ、自社ならではの「現場目線のトレーサビリティ強化」で、一歩先を行く取り組みを始めてみませんか。
日本の製造業全体の信頼と競争力向上に、現場から貢献していきましょう。
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