投稿日:2025年6月29日

接着剥離問題を防ぐ表面分析と強度評価の総合対策

はじめに ― 接着剥離問題が製造現場にもたらすリスク

製造業の現場では、接着剤や溶接などによる部材の結合作業が多く存在します。

しかし、現場が抱える課題のひとつに「接着剥離問題」が挙げられます。

一度組み上げた製品が使用中や輸送時に剥離し、クレームやリコールへ発展するケースは、品質管理部門だけでなく、信頼性やコスト管理に深刻な影響を及ぼします。

特に自動車、家電、精密機器、電子部品のような多様な部材が使われる現場では、「なぜ剥離が起きるのか」「どう対策すべきか」を正しく理解し、具体的な評価手法でリスクを未然に防ぐことが不可欠です。

本記事では、四半世紀にわたる現場経験から、表面分析技術・強度評価のポイントと、アナログ的な業界慣習から一歩抜け出すための総合的な対策について、現場目線で詳述します。

接着剥離のメカニズムと現場トラブルの実態

接着剥離の主な発生要因

表面的には「接着剤が弱いから剥がれる」の一言で済まされがちですが、現場で発生する剥離問題の多くは、単純な接着剤選定ミスだけが原因ではありません。

主な要因としては、

– 接着面の表面汚染(油分、離型剤、埃などの残留)
– 表面粗さ、表面エネルギー不足
– 材質そのものの相性問題(金属と樹脂、異種金属どうし等)
– 加工条件(温度、加圧、硬化時間管理不良)
– 接着剤自体の経時変化、そもそもの選定ミス

などが複雑に絡み合っています。

現場でよくある“昭和的”思考とその落とし穴

多くの製造現場では「昔からこのやり方でやってきたから大丈夫」といった暗黙知や慣習に頼る傾向が強いです。

応急的に脱脂剤を多く使ったり、接着面をヤスリで粗くするだけの“場当たり的”品質管理では、たまたま不良が出にくくなることはあっても、根本的対策にはなりません。

「なぜその手順なのか」「どのくらい強度が確保されたか」といった科学的根拠が希薄なため、現場の担当者が変わると突如不良率が跳ね上がるといったトラブルにもつながります。

剥離問題ゼロを目指す表面分析技術の重要性

表面分析とは何か

表面分析とは、目に見えないレベルで接着面の状態(汚染物質の付着、表面構造、官能基の有無など)を詳細に調査・定量評価する技術です。

代表的な手法には、以下のようなものがあります。

XPS(X線光電子分光法):数nmレベルでの表面元素分析が可能
FT-IR(フーリエ変換赤外分光法):有機物汚染や樹脂成分分析
SEM(走査型電子顕微鏡)/EDX:表面の微細構造や付着異物観察
接触角測定:表面の親水・撥水性、エネルギー状態の評価
AFM(原子間力顕微鏡):ナノオーダーの表面粗さ評価

これらの分析結果を活用することで、「希望した工程・洗浄・前処理で本当に十分な接着性が得られる状態か」を数値として可視化できるため、再現性・信頼性が格段に向上します。

なぜ表面分析が“買い手と売り手”双方に有益なのか

バイヤー(調達購買)は、納入品にめくら判を押して不良発生を許せば、自社ブランド価値低下というリスク直結になります。

一方、サプライヤーにとっても表面分析データをもとに納入品質を説明・証明できれば、“感覚”や“信頼”に頼るアナログ調達から一歩抜け出し、科学的な信頼関係を築くことができます。

表面分析は、ある意味「バイヤーの武器」であると同時に、サプライヤーの“説明責任”や差別化武器にもなり得るのです。

強度評価が必須な理由 ― 実用環境での“真の安心”確保

強度評価の主な方法と実例

表面がどれだけ美しくても、実際の使用環境(温度差、荷重、振動、湿気等)で剥がれやすければ意味がありません。

そのためには強度評価――すなわち、実際に剥がして数値化する「引っ張り(Tensile)」「せん断(Shear)」「ピール(Peel)」などの試験が必須です。

現場で実践される試験方法としては、

– ラップジョイント試験(JIS K 6850等)
– T型剥離試験
– 引き剥がし荷重測定
– サイクル耐久試験(温冷・湿度・振動複合)

などが挙げられます。

現場が陥りがちな“強度評価の抜け道”

昭和的な現場では、「一応ピール試験はやってますが、それほど重視してません」といった意識の現場も多く見受けます。

現物合わせや現場感覚頼みで強度管理が進めば、“たまたま良品”の大量生産と、突然の大規模クレームの同居というギャンブル的な運用に陥るリスクが高まります。

科学的強度評価に基づく「責任の可視化=設計・生産・品質管理各部門でのリスク分散」が、企業体質強化の第一歩です。

表面分析×強度評価のシナジー効果で実現する次世代の接着管理

工程ごとに生まれる“見落としポイント”を可視化

例えば、溶剤脱脂工程の良否を表面分析で評価し、その結果が強度試験(ピール強度)に直結するかを数値で管理すれば、「どこで・誰が・なぜ不良を生んだか」が明快になります。

実際の例では、以下のようなフローが考えられます。

1. 表面分析(接触角/FT-IR)で、適正な前処理状態=基準確立
2. バラツキや異常パターンの可視化
3. その状態ごとにピール強度評価を実施し、閾値設定
4. 毎ロットごとに両輪で管理することで未然に不良発生を抑制

このように、表面分析と強度評価をセットでPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルに組み込むことで、“なんとなく安心”から“科学的安心”に進化できるのです。

バイヤーとサプライヤーの垣根を越えた「共同開発型品質保証」

これまで多くの現場では、バイヤー(調達担当)は「不良が出たらサプライヤーの責任」と押し付けがちでした。

逆にサプライヤー側も「あちらが検査しているから大丈夫」と受け身の姿勢で、両者が真の意味で同じ課題に取り組めていませんでした。

ですが、表面分析・強度評価の両輪を「共同の品質保証活動」として推進すれば、成果を共有し、課題の“見える化”から“共に考え・共に解決する”関係構築が可能です。

これが、グローバル化が進む中で生き残るための“新・サプライチェーン戦略”ともいえます。

デジタル×アナログ融合―昭和の現場から抜け出すための実践TIPS

Iot・デジタルデータ活用による品質管理高度化

画像解析AIを活用した表面検査、各工程での測定値自動記録、異常時のアラーム発信など、DX(デジタルトランスフォーメーション)の恩恵を最大限活用しましょう。

例えば、過去の表面分析データと強度評価結果を紐づけて蓄積すれば、どんな材料・部品でも“データから原因特定”が可能になります。

アナログな現場力だけでなく、“モノづくり現場の知見×データドリブン”な品質保証が競争優位の源泉です。

“現場の声を聴く”ヒューマンセンスの重要性

デジタル化が進んでも、現場で材料に直接触れる作業者の「違和感の察知」「経験値からのフィードバック」は、極めて重要なファクターです。

データ偏重に陥らず、“違和感を感じたらすぐ分析→評価”のサイクルが動く、風通しの良い現場づくりが、時代が変わっても不変の基本です。

まとめ ― 表面分析・強度評価こそ製造現場の希望の光

接着剥離トラブルは、単なる作業ミスや偶然の産物ではなく、工程全体の科学的管理・現場との連動・バイヤーとサプライヤー双方の歩み寄りが求められる“組織的課題”です。

表面分析と強度評価の技術を現場に根付かせ、高度なデジタル活用でムダなくスピーディーな改善サイクルを回すことで、「不良品ゼロ・クレームゼロ」の新しい地平線が見えてきます。

これからの製造業は、昭和の勘と経験を捨てるのではなく、科学と融合させていく時代です。

バイヤー志望の方は現場品質の可視化こそが“武器”になることを知り、サプライヤーも昨日までの感覚的品質保証から“エビデンスで語る関係性”への進化を目指しましょう。

現場主義とサイエンスの化学反応による新たな製造業品質管理が、日本のものづくりを次の時代へと導いていきます。

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