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輸送容器の強度不足での破損を避ける圧縮・落下試験の簡易判定

目次
はじめに―なぜ輸送容器の破損が問題となるのか
日本の製造業において、輸送容器の破損は依然として現場レベルで大きな課題です。
製品の不良やお客様への信頼失墜、コスト増加、さらにはトレーサビリティや在庫管理にも影響を及ぼすため、一度のミスが企業全体に大きなダメージを与えかねません。
私自身、20年以上現場で調達購買や生産管理、品質管理を担ってきた中で、輸送容器の破損トラブルがいかに現場のスムーズな活動や経営数字に直結するか、痛感してきました。
製造業の現場ではいまだに「昭和のやり方」が根強く残り、古い容器を使い回したり、設計根拠も曖昧なまま運用され続けていることが少なくありません。
一方で、現代は製造拠点の分散化や、サプライヤー・バイヤー双方のグローバル化も進み、従来の「勘と経験」だけに頼れない時代となっています。
こうした状況下で、輸送容器の強度を圧縮・落下試験によって簡易的に見極め、破損リスクを管理する重要性はかつてないほど高まっています。
今回は、その現場でできる実践的な強度確認の考え方や、簡易判定方法について、現場目線で整理してお伝えします。
輸送容器の破損がもたらす5つのリスク
1. 損害品・品質不良の発生
輸送時の破損で製品が潰れたり、部品がバラバラになることがあります。
これにより再生産や再検査が必要になり、納期遅延や修理コストが発生します。
2. 顧客クレーム・信頼失墜
容器破損が繰り返されると、顧客からの取引停止や信頼性低下に直結します。
場合によっては訴訟問題にまで発展します。
3. サプライチェーン全体の混乱
容器破損による部品供給の遅れが、全工程の停滞や生産ライン停止につながることも珍しくありません。
4. コスト増加
直接的な破損品交換だけでなく、間接的な物流コストや二次対応コストも跳ね上がります。
5. 社内のモラル低下・業務負荷増
繰り返されるトラブルは、現場・管理部門ともにストレス要因となり、人件費や疲弊による離職率増加にもつながります。
業界に根付く“アナログ運用”とその限界
属人的な「感覚評価」への依存
「今まで大丈夫だったから」「この容器なら問題ない」という、根拠の薄い慣習がいまだにはびこっています。
例えばフォークリフトでの積み重ね現場では、「だいたい自分の腰くらいまでOK」など経験則のみが頼りとなり、本質的な強度確認は後回しになりがちです。
設計根拠の不明確さ
容器自体の設計仕様書が見当たらない、または古い図面が独り歩きし、現実の運用や物流環境に即していないケースも多く見受けられます。
現場改善が進んでいる企業ほど、定期的な容器の強度見直しやリニューアルを進めている一方、「前例踏襲」が常態化している企業では、何十年も同じ容器を使い続けていることもあります。
バイヤー・サプライヤー間の認識ギャップ
サプライヤーである部品メーカー側からみれば、「バイヤーが何を重視しているか」が見えづらく、無用なコスト突合や納期要求に振り回されがちです。
一方、バイヤー側も「容器破損=サプライヤー責任」と一括りにしがちで、最適解を見失いやすい構造になっています。
輸送容器の強度確認―なぜ圧縮・落下試験が重要なのか
強度設計の“見える化”が品質の基礎となる
輸送容器の適正な強度を確保するためには、「定量的な指標=データ」に基づくことが大前提となります。
どんなに現場が経験豊富でも、設計や購買の段階で「荷重をどこまで許容できるか」「何回まで落下に耐えられるか」といった数値根拠がないまま運用されては、再発リスクをゼロにはできません。
そこで重要なのが、圧縮試験と落下試験です。
この2つの試験を簡易的でも実施できれば、現場単位でスピーディに容器の見直しや改善が進みます。
現場でできる!圧縮試験の実践ポイント
圧縮試験とは
容器の上に荷重をかけ、潰れや大きな変形が生じるまでの強度を評価する試験方法です。
通常は専門の圧縮試験機を用いますが、現場レベルでも以下のような簡易試験で、ある程度の目安はつけられます。
簡易圧縮試験の進め方
1. 倉庫のパレットやフォークリフトの荷重計を活用し、実際に積み重ねる最大段数+安全率(例:3段×1.2倍)だけの重量物を容器の上に積載します。
2. 数十分間そのまま放置し、容器に目立つ沈みや割れ、ヒンジ部分の変形等がないか目視確認します。
3. 移動や揺れによる追試も行い、実用上の荷重対策を検証します。
注意点とポイント
・「安全率」を必ず設定(通常1.1〜1.3倍)
・容器自体に既に劣化や亀裂がないか事前チェックを行う
・樹脂製容器には紫外線劣化も考慮
・積み重ね以外の“部分圧力”(例:片持ち状態)にも留意
現場でできる!落下試験の実践ポイント
落下試験とは
容器を一定の高さから自由落下させて、破損や内容物損傷の有無を確認する試験です。
輸送時のハンドリングミスやフォークリフトの落下事故など、現場で実際に起こる事象を想定した評価ができます。
簡易落下試験の進め方
1. 輸送現場でよく起こる「腰の高さ(約1m)」やトラック荷台高さ(1.2〜1.5m)を基準に、容器を空積みか内容物入りの状態で自由落下させます。
2. 容器が地面に接触した際の破損や変形、ヒンジの損傷等を観察します。
3. 場合によっては、複数方向(天面・側面・角など)の落下試験を繰り返して実用剛性を確かめます。
注意点とポイント
・「一度で全壊しない」ことを安全系の基準とする
・内容物が壊れないか、容器の開口部が勝手に開かないかも観察
・再利用容器の場合、経年劣化の影響も意識
・現実的な落下高さは職場環境に合わせて設定
バイヤー・サプライヤー双方におすすめの簡易判定シート運用
強度チェックを「見える化」するメリット
現場で圧縮・落下試験を実施した後は、その結果を簡便にまとめられる強度確認シートを用意しましょう。
チェックリスト化により属人的な評価を排し、「バイヤー側の求める強度条件」と「サプライヤー側の提供している実態」を透明化できます。
簡易判定シート例(項目)
・試験日、担当者名、試験場所
・容器型式・材質・生産ロット
・積載荷重(kg)、積載段数
・圧縮試験結果(変形・破損有無、数値メモ)
・落下試験結果(高さ、方向、破損状況)
・再利用品の場合、使用年数・回数
・現場の実際の運用環境コメント
・総合判定(合格/要改善)
こうしたシートの共有と運用により、取引先との「あいまいな責任の押し付け合い」から抜け出し、双方が納得のいく容器強度マネジメントへ移行することが可能となります。
ラテラルシンキングで考える!今後の強度確認の新たな地平線
昭和の現場力を活かしつつ、簡易判定の運用をデジタル化やIoT連携と融合させれば、さらに一歩進んだ強度管理が可能です。
デジタル活用のトライ案
・スマートフォンで試験動画を記録・保存し、工程内教育やエビデンス化に活用する
・試験結果を写真付きでクラウド共有し、設計・購買・現場がリアルタイムで評価
・バーコード管理と連携させて、容器ごとの経年劣化データを蓄積
また、DR(デザインレビュー)時にサプライヤーとバイヤーが早期段階から簡易圧縮・落下試験の基準をすり合わせることで、容器破損の“事後対応”から“未然防止”へのプロアクティブな対応が実現できます。
まとめ―昭和の現場力と新時代の簡易判定で、破損ゼロへ
輸送容器の圧縮・落下試験は、専門知識や高価な設備がなくても、現場の工夫と簡単な判定シートだけで一定レベルの強度確認を実現できます。
バイヤーを目指す方には、こうした現場ベースでの簡易評価やデータ運用視点を持つことがワンランク上の調達スキルに直結します。
また、サプライヤー側にも「ただ従う」のではなく、自ら強度判定に取り組み、積極的に事実で交渉できる立場を確立してほしいと思います。
輸送容器の強度管理は、品質・コスト・納期すべてに関わる重要なファクターです。
昭和から引き継いだ現場の観察眼と、簡易だったとしても科学的根拠に基づく判断基準、その双方を磨くことが、これからの製造業で生き残るための秘訣だと断言します。
この記事が、破損トラブル撲滅&信頼あるサプライチェーン構築の第一歩となれば幸いです。
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