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設計手戻り防止のための構想設計力養成講座

目次
設計手戻り防止のための構想設計力養成講座
はじめに:なぜ設計の手戻りが多発するのか
製造業の現場に身を置いていると、多くのプロジェクトで「設計の手戻り」が頻発している光景を目にします。
例えば、部品の寸法が合わない、現場から「組み立てづらい」とクレームが出る、バイヤーが調達先に再度仕様交渉せざるを得なくなる…。
こうした問題のほとんどは、初期段階の「構想設計」がおろそかになっていることに起因します。
なぜ昭和から続くアナログ体質の現場で、今なお設計の手戻りが繰り返されるのでしょうか。
そこには、部門間の壁、属人化したノウハウ、曖昧な要件定義、断片的な仕様伝達など、複雑に絡んだ構造問題があります。
この記事では、私が20年以上の現場経験を通じて痛感した「設計手戻り撲滅」のための構想設計力の鍛え方を、最新の業界動向も交えながら実践的に解説します。
現場エンジニア、バイヤー志望者、サプライヤーの皆様まで幅広く役立つ視点をお届けします。
そもそも「構想設計」とは何か
構想設計の定義とその重要性
「構想設計」とは、製品や設備の具体的な形状設計や図面化よりも前段階で行う、製品コンセプト・構成要素・技術的課題・仕様全体を包括的にまとめる設計活動のことです。
要件定義から原理選定、主要レイアウト方針決定、リスクポイントの抽出などが含まれます。
実は最終成果物の品質・コスト・納期の8割以上は、この構想段階で決まるといっても過言ではありません。
現場を知る者が語る構想設計のリアル
私が工場長職で携わった大型設備の新規導入プロジェクトでは、現場の要望と設計陣の指針が何度もすれ違いました。
「このままだと現場で巨大ジャッキを使わないと組み立てできませんよ」、「配線がメンテ通路を完全に塞いでいる」など、現場視点が十分に反映されないまま設計が進行すると、立ち上げ時に膨大な修正作業を強いられます。
こうした“後戻りコスト”は、全体予算の数割にも膨れ上がります。
設計手戻りの根本原因を探る
断絶されたコミュニケーションと情報の分断
設計部門と生産現場、そして調達バイヤー間のコミュニケーションが十分に取れていないことは、設計手戻りの最大要因です。
現場に落ちている「暗黙知」は設計図面や仕様書に十分盛り込まれず、バイヤーがサプライヤーとやり取りする際の“抜け漏れ”や“誤解”を生みます。
また、要件が初期にうやむやのまま進むこともよくある問題です。
アナログ業界に強く残る「属人化」の弊害
これまでベテランエンジニアの「勘と経験」に頼ってきたツケが回り、“その人がいないと進めない設計”が温存されています。
業界全体の高齢化・人材不足も相まって、この属人化による手戻りリスクはいっそう高まっています。
調達・バイヤーとサプライヤーの視点のズレ
設計意図を正確に理解できず、コストや納期の観点ばかりが強調されがちな現場もあります。
バイヤーがなぜこの仕様・納期・価格を求めているのか、サプライヤーがその背景意図までくみ取る意識がないと、実際の納品時に「あれ?こんな仕様だったっけ」とトラブルが発生します。
構想設計力を鍛えるための現場流アプローチ
1. 「初期要件」の徹底的な見える化とドキュメント化
現場の声、営業の顧客要望、バイヤー視点での調達制約、生産工程のリアリティなど、関連部署全員が顔を突き合わせて“本当に必要な要件”を洗い出し、それを文章で見える化します。
会議は「その場限り」でなく必ず議事録化し、イメージ図・フローチャート・QCD(品質・コスト・納期)表などで明文化。
この“共通言語”を作ることが、属人化や思い込みによる手戻りを防ぐ第一歩です。
2. 早期化・頻繁化された部門横断レビュー(DR:デザインレビュー)の導入
製品の3Dモデル段階や構造レイアウト設計の初期段階で、現場担当・バイヤー・設計・生産管理・品質保証といった「多視点」を持つチームによるレビュー会議を実施します。
レビューでは“違和感”を遠慮なく指摘し合える環境作りが重要です。
ここで出た指摘事項は全て設計ドキュメントにフィードバックします。
3. 技術ナレッジの体系化とデジタル化
個々人のノウハウ・失敗事例・過去の改善事例を、社内ナレッジベースや設計支援ツールに蓄積します。
今ではAIやBIM/CADシステム、IoTデータと連携した「設計支援DXツール」も急速に普及しており、属人ノウハウを誰もが利用できるようにする取り組みが進んでいます。
4. 調達・バイヤーも巻き込む「共創型」構想設計フロー
従来、設計-調達-製造のタテ割りが一般的でしたが、最近は初期段階からバイヤーや主要サプライヤーを「共創パートナー」として構想設計チームに組み入れる企業が増えています。
仕入れ先選定、原材料調査、工程委託のマッチングなど「調達知」で設計案が大きく変わる余地があるからです。
初期段階でバイヤーの調達目線・サプライヤーの製造視点が入ることにより、後工程での手戻り激減が期待できます。
アナログ体質の業界でも“構想設計力”は育てられる
ITツール未導入工場でもできること
「あの部門はデジタル化が進んでいないから…」と諦める必要はありません。
私が長くいた昭和型の工場でも、ホワイトボードや紙大判図を全員で囲んでディスカッションし、「現場視点メモ」「部門間のQCDマトリクス」などを貼り出すだけで設計手戻りが激減した例もあります。
重要なのはツールよりも「プロセス」と「風土」です。
大手から中小企業まで、構想設計力は競争力そのもの
海外勢やIT系新興企業が台頭する今、いかに「後戻りせずに、早く正しいものを作れるか」は企業アイデンティティに直結しています。
限られた人員・予算でも、全体設計・要件可視化・多視点レビュー・ナレッジ蓄積が根付けば、十分勝てる余地があります。
これからのバイヤー・サプライヤーの新しいスタンス
バイヤー:調整役から価値創造パートナーへ
これまでの「価格交渉・納期管理」のみに留まらず、設計初期から自社工場の製造上の制約やベストプラクティス情報を設計陣と共有し、「一緒に最適解を見つける」スタンスが求められます。
海外の調達プロフェッショナルは、サプライヤー候補への現場見学やワークショップへの参加提案など、「共創的な調達」を武器にしています。
サプライヤー:組立屋から技術提案パートナーへ
「言われた通りに作る」から「こうすればもっと現場にやさしく、コストも落とせますよ」といった“現場提案力”が強く求められます。
設計意図の汲み取りと提案により、サプライヤー自身が“切り替えの効かない戦略パートナー”として評価される時代です。
まとめ:新時代のものづくり現場を切り拓く構想設計力
設計手戻りを未然に防ぐ構想設計力は、技術的な専門性だけでなく、多様な人材によるオープンな対話と知の融合から生まれます。
デジタルかアナログか、企業規模の大小に関係なく、初期設計プロセスの見える化、全体最適化、多視点レビュー、ナレッジ活用、そして共創型プロジェクト推進力こそが、製造業の“次の地平”を切り拓くカギです。
かつて経験した「何度やり直しても現場に刺さらなかった設計」から、「初期段階の徹底対話と知恵の集約で一発OKとなったプロジェクト」に至るまで、その違いを痛感している私だからこそ伝えたいのは、現場発の構想設計力こそが日本の製造業の競争力を根本から底上げするということです。
明日から実践できることから、まず一つ現場で試してみてはいかがでしょうか。
設計・調達・製造の垣根を超えて「最高のものづくり」を追求する皆さまの一助になれば幸いです。
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