投稿日:2025年11月7日

製造業の現場で重視される“段取り時間短縮”の具体的手法

はじめに 〜なぜ“段取り時間短縮”が重要なのか〜

製造業の現場では「段取り時間短縮」が長年の課題として重くのしかかっています。

近年では自動化やDXの波が工場にも押し寄せていますが、現場を知る人なら分かる通り、いまだに昭和の手順やアナログな慣習が根強く残っている現場も少なくありません。

それでも競争が激化し、納期短縮や多品種少量生産への対応が求められる中で、段取り時間の短縮は避けて通れないテーマです。

この記事では、製造業の現場で「段取り」と呼ばれる作業は何を指すのかという基本から、時代遅れと言われがちな業界でも役立つ具体的な短縮手法、バイヤーやサプライヤーの目線も加味しながら、実践的かつ現実味のある解決策を解説します。

段取り作業とは? 現場での具体例と課題

段取り作業(セットアップ作業)とは、生産ラインや機械設備、治具、工具などを“次の生産に備える”作業のことです。

例えばプレス加工の場合、金型の交換や位置合わせを行う作業。
組立ラインではラインへの部品供給や治具類の変更、作業者の配置換え。
ロット切り替え時の清掃や記録簿の更新も段取りの一部です。

段取り作業が長引けば、実際の製品生産を止める「非稼働時間」が増えます。
これが、いわゆる「ダウンタイム」と呼ばれ、工場の稼働率や生産効率を低下させてしまいます。

その一方で、段取りを疎かにすれば品質不良や重大な事故を招きかねません。

アナログ現場あるあると “昭和の常識”の壁

現場でよく耳にするのは、「昔からのやり方で」「ベテランの勘頼み」という言葉です。

設備メーカーが配布するマニュアルが埃をかぶったまま、熟練工が「俺のやり方で」と手順を変えてしまうケースも珍しくありません。

また、「段取り部品がどこにあるか分からない」「前工程が終わるのを待つだけ」「治具・工具の選別に毎回時間がかかる」といった、“段取りの段取りで戸惑う”といった非効率も多いのです。

このようなアナログな現場こそ、具体的な段取り短縮手法が大きく効果を発揮します。

段取り時間短縮の代表的な手法

現場で結果を出す段取り時間短縮の手法には、大きく以下のアプローチがあります。

1. 外段取り化と内段取り化(SMED手法)

SMED(Single-Minute Exchange of Die)とは、「金型交換作業を10分未満で行う」というトヨタ生産方式発祥の段取り短縮手法です。

その基本は「外段取り化(外作業化)」です。

内段取り:機械やラインを止めている間しかできない作業
外段取り:生産を止めずに並行してできる作業

例えば、金型交換時に必要なボルトや治具を事前にそろえておく。
作業手順を紙で書き出し、前倒しで準備できることを見極め、内段取り自体を減らす工夫をします。

意外に見落とされがちなのは「段取りのマニュアル化」や「作業標準書の写真による明確化」です。
アナログ現場では、ベテランの知識が暗黙知になっているケースが多く、“見える化”するだけで大幅に効率が上がることも珍しくありません。

2. 治具・工具の配置最適化(5S活動との連動)

「段取りに使う工具やパーツが見つからない」という現場は、意外に多いものです。

工具置き場の「見える化」、エリアごとに区分管理、作業者1人1セット原則(パーソナル治具)の推進。
5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)活動の徹底で「探す時間」を減らせば、段取り時間も短くなります。

これらはIoTやDXといった最新テクノロジーが入らなくても、現場ですぐ実践できます。

3. 治具・設備の自動化、クイックチェンジの導入

半自動・自動の段取り治具を使うことで、人の手作業を大幅に削減できます。

例えば、複数点を同時に締められるクランプや、治具交換をワンタッチで行えるクイックチェンジ機構の導入です。

これは初期投資がかかりますが、イニシャルコストとランニングコストを天秤にかけた場合、多品種少量・頻繁な切替がある現場では十分に投資回収できる手法です。

4. 段取り作業の標準化・教育の強化

作業者に“段取り専任担当(セッター)”を任命し、手順を標準化したり、タクトタイム管理表を作ったりすることで、属人化を防ぎます。

また、新人・パート・技能実習生でも“正しい段取り”を実現できるよう、動画マニュアルや手順写真、リーダーによるOJT強化など現場目線の教育を徹底します。

5. デジタル活用による可視化・平準化

近年では、スマートファクトリー推進の流れでIoTやMES(製造実行システム)を使い「段取り進捗」や「作業待ち時間・要因」を見える化することも増えています。

生産板やライン管理アプリでは、直近の段取りリストを見せたり、アラート通知を飛ばすことで“段取り忘れ”や“段取り渋滞”を防げます。

デジタルとアナログの良いとこどりで、現場のストレスを減らす工夫が有効です。

段取り短縮の波及効果 〜現場・バイヤー・サプライヤーの視点から〜

段取り時間短縮のメリットは、生産効率や人件費低減だけにとどまりません。

1. 多品種少量生産・短納期再対応の実現

サプライヤーの立場でも、段取り時間が短い工場は緊急対応や量産ロット割り振りが柔軟で、バイヤーに信頼されやすくなります。

小ロット多品種への切り替えも「段取り負け」しにくいので、顧客の注文変更・イレギュラーオーダーにも迅速対応でき、新規需要の取り込みやすさにつながります。

2. 品質・安全の向上

段取り作業を標準化・見える化することで、「うっかりミス」や「やり方忘れ」など人為的なトラブルの削減や、ヒューマンエラー・置き換え時の事故防止にも寄与します。

また、段取りの手順ごとに点検リストを設けることで、設備故障や寸法狂いの発生源も減らせます。

3. バイヤーから見た「安心・信頼・競争力」の向上

調達バイヤーの目線でサプライヤーを評価する際、「短納期対応」「生産ラインの柔軟性」「突発トラブルのリカバリー力」が非常に重視されます。

段取り時間が長い会社は、「繁忙期に生産が遅れるのでは」「試作や特注品の納期対応が遅いのでは」と敬遠されがちです。

逆に、段取り短縮が実施できている工場(またはそれを可視化できる工場)は、“改善力”が高く、“現場体質がアップデートされている”と見なされやすいため、新規ビジネスや量産案件の打診も増えます。

古い体質の現場で段取り短縮を根付かせるには

昭和時代から続く「勘と経験」「慣習優先」の職場風土の中で、段取り時間短縮を進めるには、いくつかの現実的なポイントがあります。

現場の反発・属人化への対処

ベテラン作業者にとって“手順変更”や“標準化”は反発されやすいテーマです。

この場合、いきなり全体を変えようとせず、
・一部署ごと ・モデル工程での先行トライ
から優先着手し、具体的な“成果”や“数字の見える化”で抵抗感を減らします。

属人化が進んでいる場合は、ベテランを「段取りマイスター」として称え、手順を体系化して次世代に伝える“先生役”として動機づけするのも有効です。

導入は小さな改善から積み重ねる

現場で成果を出すコツは、いきなりフルオートメーションやIT導入に頼らないことです。

「工具置き場の固定配置」や「段取り作業のストップウォッチ計測」「写真付きの手順書作成」など、アナログながら即効性がある改善から積み重ねて、徐々に標準化や自動化へと発展させるアプローチがおすすめです。

まとめ 〜“段取り上手”な現場が今後勝ち残る理由〜

段取り時間の短縮は、単なる効率化やコストダウンだけでなく、「現場が変わる起爆剤」でもあります。

現場の見える化や作業標準化、設備の自動化やデジタルツールの活用まで、段階的に手法を導入することで、古いアナログ体質の現場でも十分に変革は可能です。

また、段取り上手な現場は、短納期やイレギュラーに強く、品質向上や顧客満足度アップにも直結します。
特にバイヤーやサプライヤーの視点では、“段取りスキルの高い工場”ほどビジネスチャンスや競争力が拡大します。

製造業の現場には多くの「余地」が残されています。
段取り短縮は、現場の可能性を解き放つ第一歩です。

これを機に、一歩踏み出した現場主導の改善で、アナログ業界にも新しい風を起こしてみてはどうでしょうか。

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