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高精度な時間測定を可能にするTDC回路の構成と設計実装のノウハウ

目次
はじめに:高精度な時間測定技術の進化の背景
近年、ものづくりの現場では「1秒をいかに分割できるか」という視点が、計測や制御の分野で非常に重要になっています。
IoTや自動化、半導体製造、ロボット制御など、あらゆる工程において「ナノ秒オーダー」での時間計測が可能かどうかが、製品の品質や競争力に直結する時代です。
ここで注目されるのがTDC(Time to Digital Converter/時間-デジタル変換器)回路です。
今回はTDC回路の構成や設計・実装のコツ、現場で役立つノウハウについて、私自身の工場現場での経験を交えながら詳しく解説します。
TDC回路とは:原理と基本構成
TDCは、アナログな「時間の長さ」(パルス幅やイベント間の間隔)を、デジタル値に素早く変換する電子回路です。
高精度な測定では、サブナノ秒(10⁻⁹秒)以下の分解能が要求されることも珍しくありません。
代表的な用途としては、以下のようなシーンが挙げられます。
- 工場ラインのロボットの動作遅延チェック
- 通信機器の信号伝送遅延測定
- 医療装置のパルス応答速度測定
- 半導体テストのタイミング解析
- 物理・化学実験の現象解析
TDC回路の基本的な構成要素は以下の3つです。
- 開始イベントを検出する「スタート信号回路」
- 終了イベントを検出する「ストップ信号回路」
- 時間差を正確にデジタル値に変換する「カウンタ・インターポレータ回路」
この構成は多くの計測現場で共通し、意外と昭和の時代から基本原理は変わっていません。
重要なのは、どこまで「サブナノ秒のずれ」を減らせるか、そして現場実装時に安定稼働させられるかにあります。
TDC回路の方式:代表的なアーキテクチャ
TDC回路にはさまざまな方式がありますが、現場でよく用いられるものを3つご紹介します。
1. カウンタ型TDC
最も古典的な方式です。
高周波クロックをカウンタに入力し、スタートとストップ信号でカウント値を読み出して時間差を求めます。
分解能はクロック周波数に依存するため、分解能の限界は数百ピコ秒(10⁻¹²秒)前後です。
産業機器では「堅牢で故障しにくい」「設計がシンプル」という利点があり、多くのラインで現役利用されています。
2. ディレイライン型TDC
スタート信号に従い、ゲートに伝搬していく複数のディレイ素子(遅延回路)が直列に並びます。
ストップ信号が来た時点で、ディレイ素子のどこまで信号が到達しているかで経過時間を高精度で読み取ります。
CMOSプロセスの微細化とともに、数十ピコ秒などの分解能を実現しやすくなっています。
工場の現場で実装する際は、設計時の素子のバラツキや温度による遅延変動の管理がポイントとなります。
3. インターポレータ(補間)型TDC
カウンタ型TDCの粗い分解能を、高速な補間回路(電圧制御遅延素子アレイなど)で補間します。
最終的な分解能は、数ピコ秒程度まで追い込める場合もあります。
FPGAやASICでの実装が進み、装置の小型化・高精度化といった、現場要望とのバランス調整に有効です。
設計実装で押さえるべきノウハウ
ここからは現場感覚で「どう設計するとうまくいくか」「つまづきがちなポイント」についてお話します。
ノイズ対策とグランド設計の重要性
TDC回路の精度は、電気的なノイズやグラウンドの共振に非常に敏感です。
特に数ピコ秒オーダーの測定では、ケーブル1本の取り回し、GNDパターンのレイアウト、周囲の機器からの誘導ノイズなど、些細な点が巨大な誤差要因になります。
対策例としては、
- 信号ラインをシールド線で構成し、GNDは一点アースとする
- 高精度測定ブロックはアナログ・デジタル回路でGNDを分ける
- 外部からのスパイクノイズ源(モーター起動等)を事前に特定しバッファリングする
工場に導入した後も、定期的なノイズモニタチェックが欠かせません。
温度ドリフトの補正設計
日本の現場では空調管理や断熱対策にバラツキがあり、回路の温度ドリフト対策も必須です。
ディレイ素子や回路素子は温度変化で応答速度が変動し、高精度TDCに大きな誤差をもたらします。
そのため、一般的には、
- 温度センサとファームウェアでリアルタイム補正
- 定期的なセルフキャリブレーション機能の実装
- ケース単位での温度試験による誤差テーブルの取得
などの技術を組み合わせます。
現場では「高精度な初期校正」より、「運用中に自動で補正が効く設計」が求められることが多いため、ここを疎かにしないことが肝要です。
調達・実装フェーズでの部品選定戦略
昭和の時代から続くアナログ感覚が強い工場では、「なぜこの部品なのか?」が、購買部や経営層にしっかり説明できるかどうかが肝心です。
たとえば、
- 高精度発振器(OCXO/TCXO)を選択する際の安定性評価
- 低ジッタ特性のフリップフロップIC選定の基準
- 耐ノイズ性とコストのバランス
など、バイヤー視点での合理的な材料をストーリーとして準備すると採用を得やすくなります。
採用後の部品EOLリスク(供給停止)も早期から意識し、複数社調達可能なサプライヤー体制や代替部品情報をまとめておくと、ライン停止などのリスクを大きく減らせます。
設計から現場導入までの進め方
TDCの本領発揮は「机上の設計」より「現場でずっと安定して使えること」にあります。
この観点で、プロジェクト遂行上ポイントになる事項を整理します。
仕様検討段階で現場担当者と緊密連携
工場ラインごとに測定対象やノイズレベル、温湿度環境、ライン稼働サイクルが異なります。
実際に使う現場担当者(ラインリーダー、保全担当)と一緒に、仕様要件の確認を丁寧に行い、紙上で定めた通りに動かない場合の対応策もあらかじめ検討しておくことが重要です。
本番導入前の「現地評価・エージング」
試作機を現地で設置し、24-48時間以上の連続稼働テスト(エージング)、温度変動試験、ノイズ多発時の応答の評価を行います。
不具合が出た場合は、極力現場感覚で原因の切り分けを行い、設計チームに即時フィードバックします。
この時、「人と設備の動き」「工程切り替え時の特殊想定」まで網羅できるかどうかが成功のカギです。
昭和から令和へ:アナログ文化と最新TDC技術の融合ポイント
いまだに多数のラインで、ストップウォッチや機械式タイマー、紙の記録表…という「昭和的計測文化」が根強く残っています。
こうした現場でTDCを導入する際、「習慣を置き替える」だけではなく、昭和世代の知見を組み合わせる“折衷案”が功を奏す場合も多々あります。
たとえば、「いきなり完全デジタル管理」ではなく、「TDCの測定値を紙で出力・サイン記名→記録」というプロセスを暫定で残し、慣れてきてからペーパーレス化に進む、といった段階的な導入も現実的です。
また、古い装置のリニューアル時には、「既存配線とのインターフェース設計」「現場担当へのTDC測定理論の出前講座」など、ITリテラシーだけでなくコミュニケーションも重視した推進が定着を左右します。
バイヤーやサプライヤーの立場から見たTDC導入の戦略的視点
TDCの導入・設計案件に関わる際、購買・バイヤーの観点から押さえるべきポイントも共有します。
1. サプライヤーとの技術トランスファー体制
サプライヤー選定時は、単に「希望スペックを満たす」だけでなく、「万一装置が止まったときの現場立ち会い」「校正・点検ノウハウの定期提供」まで契約範囲に含めると、現場への浸透が確実に進みます。
2. ライフサイクルコストの見積もり
高精度TDCは初期投資が高額になる傾向がありますが、「メンテナンスコスト」「誤差対応の都度追加費用」まで事前見積すると、総合的なコスト低減案を経営層に提案しやすくなります。
3. 教育・現場研修のセット導入
新しいTDC装置を納入する際、「現場の定着研修(使いこなしマニュアル・勉強会)」をセットにすると、トラブル発生時も自社で初期対応でき、不用意なライン停止リスクを大幅に減らせます。
まとめ:高精度測定が製造現場の競争力を高める
TDC回路の設計・実装は、「ほんの一瞬の差」が製品の品質、装置の安定稼働、ラインの歩留まり…といった“現場の数字”に直結する重要技術です。
昭和的な現場感覚とデジタル技術の良いところを融和させながら、バイヤー、ライン担当、サプライヤー、設計者が一体となって推進することで、現場競争力の新たな高みを切り開くことができます。
TDC導入をきっかけに、従来にない高精度・高効率な現場運営を目指しましょう。
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