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海外向け品質保証で必要な“合意形成の技術”

目次
はじめに:グローバル時代に欠かせない品質保証と合意形成
製造業がグローバル化する中で、単に高品質な製品を作るだけでは競争に打ち勝つことは難しくなっています。
今や多くのメーカーが海外拠点や海外顧客、海外サプライヤーとの関わりを持ち、品質保証においても国内基準だけでは通用しない場面が増えています。
このとき決定的に問われるのが、「海外ステークホルダー如何に合意形成を図るか」つまり“合意形成の技術”です。
日本では阿吽の呼吸や場の空気に頼ったものづくり文化がありますが、海外では一切通用しません。
この壁を乗り越えて初めて、真にグローバル水準の品質保証が実現できるのです。
なぜ今、「合意形成の技術」が求められるのか
「昭和の現場力」だけでは乗り越えられない時代
かつては現場のベテランが「これが標準」といえば誰も疑わず、決めた通りに進めばなんとなく品質が保たれていました。
しかし、複雑なグローバルサプライチェーンの中ではそれが致命的なリスクとなることもあります。
まず、国や地域ごとに文化・法律・企業習慣が異なります。
日本の「常識」が世界の「非常識」であることも少なくありません。
口頭だけで話が進む、日本流の「あうんの呼吸」文化は、海外パートナーと仕事を進めるうえで誤解やトラブルの温床になります。
また、莫大な損害賠償やブランド失墜など、品質問題の影響範囲が大きくなる今、意思疎通の「抜け」や「思い込み」をなくすためにも、合意形成のプロセスが非常に重要になっています。
バイヤーとサプライヤーが「同じ目線」で進める理由
海外向けの品質保証プロジェクトでは、バイヤー(発注側)もサプライヤー(供給側)も利害を共有できる「同じ目線」を持つ必要があります。
バイヤーには「こんなものだろう」と片付けがちな日本企業特有の慣習や、サプライヤーにありがちな「作れば分かるだろう」という思いも通用しません。
特に欧米企業では、契約書やSOP(標準作業手順書)を細かく詰めるカルチャーが根付いています。
そのため、双方がリスクと責任を明確化したうえで「合意」を取りつつ、関係構築を進める必要があるのです。
海外向け品質保証でつまずく代表的な課題
言語・文化の壁による認識ギャップ
合意形成で最大の障壁は言語と文化です。
たとえば、納期の意味ひとつとっても「納期厳守」と「多少の遅れは許容」を示す言葉の重みが相手国では全く異なっています。
中国や東南アジアのように「求められてから動く」文化、欧米のように「法令遵守が最優先」のカルチャー、日本人の「暗黙の了解で進める」姿勢——こうした違いが誤解や手戻りの原因となります。
「誰責任か」をうやむやにしやすい日本的体質
日本企業に根強いのが、「責任の所在を曖昧にする」傾向です。
社内でも「前任のやり方を踏襲」「誰かが決めてくれる」空気が残るため、海外案件では結果的に責任の押し付け合いになる恐れがあります。
このような体質をそのまま海外にも持ち込むと、相手企業から見ると説明責任や取引リスクの観点で信頼を失いかねません。
品質基準や管理手法の定義不足・ドキュメント不足
多くの日本工場では、作業標準や品質管理も「体で覚える」習慣が未だに強く残っています。
海外では品質基準や検査項目の定義、検証手順、緊急時の対応フローといったすべてのプロセスをドキュメント化することが必須です。
“職人技”頼みの現場だけでは、海外サプライチェーンとの合意形成は極めて困難です。
合意形成の技術を磨くために必要な視点とアクション
1.ファクトベースの情報共有徹底
曖昧さを排除し、「事実にもとづく情報」をリアルタイムに共有する環境整備は基本であり最重要です。
例えばトラブルが起こった時、日本では「まず社内で調整してから外部報告」する傾向があります。
しかしグローバル取引では「早期の事実共有」が信頼獲得の土台となります。
メール、チャット、WEB会議、進捗管理ツールなどを全社標準で運用し、ドキュメンテーション文化を醸成することが求められます。
2.論理を言語化する能力の強化
阿吽の呼吸や経験則に頼らず、「なぜこの基準にしたのか」「なぜこういう工程にしたのか」を説明できる力が必要です。
日本語では曖昧な表現やオブラートに包む表現をしがちですが、英語などでは思考と根拠を明晰に示す力が欠かせません。
シナリオを作り、ドキュメント化し、フィードバックループを徹底する訓練が重要です。
3.合意形成の「プロセス設計」と「見える化」
合意形成は「イベント」ではなく「プロセス」です。
たとえば新製品立ち上げ時の品質要件設定なら、最初にプロジェクトチャーターを策定し、その後の設計開発・試作・量産すべてのステージごとに「誰と」「何を」「どうやって」確認し、合意を得るかのチェックリストを設けます。
合意内容は議事録・エビデンス(署名・押印・電子署名等)として残し、「見える化」することがトラブル回避の鍵となります。
4.リスク感度を持って計画・管理する姿勢
日本のものづくり現場では、「前例主義」や「なんとかなる精神」が根付いています。
しかし、グローバル品質保証ではむしろ「万が一」を想定した具体的なリスクアセスメントが合意形成のポイントとなります。
品質異常が起こった場合の初動手順や、是正処置のエスカレーションフローなど、事前に関係者全員と合意し、明確な取り決めを共有しておく必要があります。
現場目線で語る、合意形成の実践ポイント
現場でありがちな「抜け」や「思い込み」から脱却する
品質トラブルによくあるのが、「設計部門は分かっているはず」「現場はいつも通りやった」などの思い込みです。
グローバル案件では、「分かっているはず」の思い込みは厳禁です。
現場管理者や作業者まで含め、誰が見ても理解できる言葉と手順に落とし込むことが不可欠です。
監査対応やISO審査でも、「なぜこの工程になったのか」まできちんと合意し、記録することが合否を左右します。
品質目線とコスト・納期目線のバランスを取る
現場と調達部門が対立しやすいのが、コスト・納期と品質のバランスです。
バイヤーとしては納期・コストの優先順位が高くなってしまう場面もありますが、品質を犠牲にしてまで急げば結局損失が大きくなります。
このバランスを取るためには、第三者目線・リスク目線で工程ごとに合意形成を積み上げ、妥協点を見出す「調整力」が求められます。
デジタル技術や自動化を合意の「言語」として活用
AIやIoT、MES(製造実行システム)など、デジタル技術の導入は合意形成においても効果絶大です。
作業履歴の自動記録や品質データの一元管理、オンラインでの設計レビューなど、数字やグラフ・映像を共通言語として使えば「言った・言わない」のリスクを大きく減らせます。
昭和の職人芸を尊重しつつ、デジタル変革(DX)と組み合わせて合意形成の土台を強化することが、これからのサプライチェーン強化に不可欠です。
サプライヤー視点で見抜く、バイヤーの本音
サプライヤーの方にとっては、バイヤーがどこまで品質に本気かを見極める力も競争力の一つです。
本当に良い取引関係を築きたいなら、バイヤーの期待値やリスク意識を正面から捉え、「なぜそれが必要か」を納得してもらえる会話が欠かせません。
「なぜそこまで厳しいチェックを要求するのか」「原価低減の圧力の理由は何なのか」を汲み取り、提案型の対応や改善案を示すことで合意形成につなげるべきです。
また、自社の弱点や課題も包み隠さず正直に伝えて信頼醸成をはかり、バイヤーとWin-Winの関係を築く「協働型パートナーシップ」が新たな時代の品質保証を支えます。
まとめ:合意形成力が「ものづくり日本」復権の要
グローバル競争の激化、国際基準の高度化、デジタル化の進展――激しく変化する製造業の現場では、単なる品質管理や現場力だけでは世界で通用しなくなっています。
本当に必要なのは、国や文化を超えてリスクを共有し、ベクトルを合わせられる“合意形成の技術”です。
この力を身につければ、日本のバイヤー、サプライヤーが共にグローバルものづくりで主導権を握り、再び「日本品質」を世界に発信することができます。
製造業に携わる一人一人が合意形成力を高めて現場に活かすことで、昭和的なしがらみを乗り越え、ものづくりニッポンの復権につなげましょう。
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