デザイン性を欠いた提案で現場の士気が下がるコンサルタントの失敗事例

はじめに：なぜ「デザイン性」が必要なのか

「デザイン性」と聞くと、多くの人が美術品や製品デザインを想像します。
しかし、製造業の現場においての「デザイン性」は、ビジュアルや外観の美しさだけではありません。
現場の作業プロセス、業務フロー、システムのユーザビリティや分かりやすさも「デザイン性」の一部に含まれます。

特に、外部のコンサルタントが改善提案を行う際、この「デザイン性」が大きく不足してしまうと、いくら論理的に優れた施策であっても、現場の士気を著しく下げる結果となりがちです。
現場が納得し、積極的に受け入れ、実際に動き出すためには、「誰のための、何のための提案なのか」という目線が徹底的に分かりやすく、現場の作業者に寄り添った「デザイン性」が不可欠なのです。

コンサルタントが犯しがちな“デザイン性欠如”の典型的失敗例

1.「机上の空論」と呼ばれる改善策

多くのコンサルタントが、理論上は完璧なフローや仕組みを提案します。
たとえば生産管理システムの刷新や、工程の標準化、ペーパーレス化などが挙げられます。
しかしその多くは、現場のリアルな事情、たとえば頻発する急なトラブル対応や、設備の老朽化、紙でしか扱えない現場要件といったアナログな背景に目を向けていません。

現場の作業者からすれば、「また机上の空論が来たよ」と思われがちです。
この時点で実は導入前から現場の心は離れ始めており、「どうせ俺たちの意見は聞かれない」と士気が下がるのです。

2.「分かりづらい」「使いづらい」から生まれる手戻り

たとえば新しいシステムの導入や帳票フォーマットの変更を提案する場合、現場のメンバーが十分に理解できなければ、二重入力や手戻りが多発します。
せっかく効率化を狙ったはずなのに、かえって作業が煩雑になった…。
この“あるある”こそが、デザイン性のなさから生まれる典型的な失敗です。

現場が自分たちの業務や感覚に合うよう設計されていれば、提案はすぐに受容され、定着します。
しかし“標準という名の一律押しつけ”は、逆に非効率と混乱、そして現場のやる気の低下を招いてしまうのです。

3. 現場の意見・感情の“設計”を無視する

コンサルタントはデータ分析や最適化のプロですが、現場の「暗黙知」や「慣習」を軽視することがしばしばあります。
一見非合理なルールや工程でも、実は現場ならではの工夫や、安全配慮、過去の失敗から生まれた知恵だったりします。

これを「古いだけ」「非効率」と一方的に切って捨ててしまうと、現場は「分かっていないくせに」と反発し、改善は全く進まなくなります。
数字や理屈だけに偏った“抜け落ちた設計”、それこそがデザイン性欠如の象徴ともいえるでしょう。

昭和的アナログ文化の“壁”をいかに乗り越えるか

日本の製造業には、昭和時代から積み重ねられた独自の“現場文化”が根強く残っています。
たとえば日報をノートに手書きする、口頭伝達や紙管理が主流、属人的な道具管理や工程調整など、目の前で現物・現場・現状を重視する姿勢は今も健在です。

コンサルタントの「効率」「ペーパーレス」「自動化」提案は、こうした文化と衝突しがちです。
この壁を乗り越えるには、アナログ現場の“肌感覚”を理解し、その上で少しずつ段階的な改善策を現場と一緒に「デザイン＝設計」していく必要があります。

「デザイン性」のある提案がもたらす現場改革の成功事例

“現場参加型ワークショップ”で生まれる納得感

例えばある大手自動車部品メーカーでは、コンサルタントが最初から現場の作業者・管理者をグループワークに加え、「どこが困っているか」「どうなったら使いやすいか」といった率直な声を吸い上げながら、業務フローや帳票フォーマットを設計しました。

誰もが当事者意識を持ち、「自分ごと」として改善を受け入れることができたため、改革後も現場の運用定着率が非常に高まりました。
その結果、現場の離職率も大きく下がるという副次効果も生まれました。

“現場体験”から生まれる実運用に即した提案

別の例では、外部コンサルタント自らが一定期間現場作業を実地体験し、朝礼・昼食・残業も含めて現場の日常にとけ込みました。
そのうえで、「現実の工程ではどこで迷いが生じるのか」「どの手順やツールが作業テンポを乱すのか」を徹底的に観察し、“本当に現場で使える”改善策を共に作りました。

こうした泥臭いアプローチこそが「使いたくなる」「自分たちに合う」と評価され、定着率・満足度ともに高かったといいます。

現場の士気を高める提案・受け入れのコツ

1.「現場目線」に立ったヒアリング

提案前に現場リーダーや作業者と直接会話し、彼らの“困りごと”や“面倒なこと”を徹底的にヒアリングすることが大切です。
「なぜ今の方法が残っているのか」「誰がどこで何につまずくのか」まで腹落ちするまで聞き込むことが、現場に寄り添ったデザインにつながります。

2.「小さな実験」でとにかく“まずやってみる”

いきなり全社的な大改革ではなく、一つの工程・ライン・班などでスモールスタートし、実際に使ってもらう試行錯誤の期間を作るべきです。
その結果からさらに現場の要望を吸い上げ、PDCAを回すことで“自分たちでつくった没入感”が生まれ、士気向上・定着率UPにつながります。

3.「見える化」ツールで納得感を担保

業務フローやKPI、改善案の狙いなどを、現場に分かりやすく図解し、目に見える形で常に掲示する工夫が重要です。
自分たちの活動成果・改善進捗が一目で分かることは、現場の誇りややる気を育てるエンジンとなるからです。

サプライヤー・バイヤーの立場でもデザイン性は重要

購入側（バイヤー）の目線でも、サプライヤーの提案が担当者や現場メンバーにしっかり伝わる“伝達デザイン”は大きな強みとなります。
たとえば新しい部材や加工技術の提案でも、スペックやコスト優位性以外に「現場ではどう使う」「他の業務とどう連携するか」まで視野を広げ、その意図や効果をユーザー目線で“デザイン＝設計”して伝えることが受け入れの近道です。

また逆に、サプライヤーの現場改善ニーズをバイヤーが正しくくみ取り、発注ルールや納期、品質基準の交渉に活かすためにも、“相手を思いやるデザイン的発想”がいまや必須条件です。