デザインを軽視して経営層から信頼を失うコンサルの問題

はじめに：現場が見ている「デザイン軽視」の本質

日本の製造現場において、近年「デザイン思考」がビジネストレンドとして語られる機会が増えています。
しかし、長い間現場に根付いてきたアナログな慣習や昭和的価値観の壁は厚く、「デザイン」「設計」への理解や投資はまだまだ十分とはいえません。

この状況のなか、経営層に対し「デザイン経営」や「デザイン思考」を提案する外部コンサルタントが増えているものの、本質的な理解・実践を欠いた表層的な提案がしばしば現場と経営層の間に軋轢を生み、コンサルに対する信頼を損なわせています。

この記事では、製造業ならではの現場目線から「デザイン軽視」の背景に潜む根深い問題や、そのことが生み出すコンサルタント不信の現象、そして今現場と経営層はどんな意識変革を求められているのか、深く掘り下げます。

製造業における「デザイン」とは何か

製品設計・工場設計・業務設計すべてが「デザイン」

一般的に「デザイン」と聞くと、工業製品の外観や設計図を想起する人が多いでしょう。
しかし、製造業の現場では「プロセスの設計＝業務自体のデザイン」こそが、安定生産やコスト競争力、品質向上の根幹を担います。

例えば生産ラインのレイアウト、発注～納入までのサプライチェーン設計、作業手順や標準化文書の作成まで、いずれも優れた「デザイン」が業績を左右します。

コスト削減の落とし穴：機能と見た目だけで価値を測るな

多くの工場や購買部門は、短期的なコスト削減のプレッシャーから、製品の「見た目」や分かりやすい指標（歩留まり、材料費、納期）だけでデザインや設計の価値を評価しがちです。
しかし、その奥には、消費者の潜在的ニーズや、現場作業者の安全衛生、熟練工程の暗黙知といった見えない価値が隠れています。

そうした本質に迫らず、表面的な成果のみを経営層に提案するコンサルタントの提案は、現場からも経営層からも「本質がわかっていない」と警戒されてしまいます。

なぜ経営層は「デザイン軽視」のコンサルに不信感を抱くのか

具体性や現場熟知が足りない「定型パッケージ提案」

大手コンサルファームによく見受けられる「デザイン思考導入プログラム」「〇〇デザイン経営」など、流行のフレームワークは一見魅力的に映ります。
しかし、現場の泥臭いプロセスや、サプライヤー特有の慣習、ローカルな連携プレーへの理解が浅いままでの提案は、経営層に見抜かれてしまいます。

「うちは自動車部品以外も手掛けている」「実際は熟練工の手技が品質の要」といった固有事情に対応できていないと、提案内容そのものが現実味を失ってしまいます。

トレンド重視ゆえの文化・歴史への配慮欠如

日本の製造業には、昭和から受け継がれる現場主義や長期的取り組みを重視する文化があります。
外来の手法をそのまま持ち込み、現場の苦労や変遷を知ろうとしないまま進めると、「この人たちは本気で現場を変えたいわけじゃない」と現場・経営層の両方から距離を置かれてしまいます。

「経営の言葉」と「現場の言葉」、その橋渡しが困難

コンサルは経営理論や戦略用語でパワーポイントを作りがちですが、現場人数や購買担当者は現実の課題や苦労（たとえば「この材料では不良が増える」「品薄時の交渉が大変」など）を重視します。
現場に根ざす経験知と経営指標の間にギャップがあることに気づけて初めて、信頼は生まれます。

バイヤーやサプライヤーもデザインを制する時代へ

バイヤーの新たな役割とは何か

コスト削減と調達効率が求められるのは従来から同様ですが、近年はサプライチェーン全体での付加価値創出、コンプライアンス遵守、カーボンニュートラルといったトピックも無視できません。
バイヤーが商品の設計や工場のプロセス段階から関わり、「どう設計すれば品質や納期、コストが最適化できるか」という“設計目線”を持つことで初めて、購買の価値は最大化します。

サプライヤーこそ「現場デザイン」の情報提供者

サプライヤーは単なる部品屋、材料屋ではなく、いまや顧客の設計や現場改善のヒントを提供する立場です。
提案型営業や新規設計支援、現場のカイゼン事例の共有など、サプライヤー自体が「現場目線のデザイナー」として機能する時代が到来しています。

「こう改善したら歩留まりが上がった」「部品設計をこう変えると加工コストが下がる」など、現場起点での情報発信がバイヤー、さらにはエンドユーザーから高い評価を受ける流れができつつあります。

コンサルタントがバイヤー・サプライヤーから信頼を得るには

彼らの実務や現場連携の苦労、歴史的なしがらみ、独自の社風――その一つひとつに真正面から向き合い、まず「現場を知ろう」とする本気度を見せない限り、コンサルの提案は絵に描いた餅に終わります。

言葉だけでなく実際に現場を歩き抜き、工場の機械音や人の動き、調達現場の視線の先まで「五感で」感じ取って初めて、コンサル、バイヤー、サプライヤーの信頼関係は生まれると実感されています。

昭和的アナログ文化とデザイン思考、どちらをいかすか

「アナログVSデジタル」の対立構図にならないために

レガシーシステムや職人気質は、生産性向上と現場進化の妨げに映る場面が多いですが、一方で「現場で人が感じとる違和感」「職人の調整感覚」「地域独自のサプライネットワーク」といった強みも持っています。
デザイン思考を導入する際は、こうした昭和的現場力を否定憎悪するのではなく、むしろ現場の知恵として活用しつつデジタルと融合することが必要です。

たとえば、熟練工のノウハウ（勘やコツ）を工程設計や作業標準書のデザインに落とし込む。
あるいはヒューマンエラーが多いアナログ工程に、デジタル化による「間違えにくい仕組み」を設計して組み合わせる。
これらは、現場と一体化した「実践的なデザイン経営」の好事例になります。

現場・バイヤー・経営層が求める「実践的デザイン」の条件

1. 見える化と共有：現場の声を設計・デザインに反映

デザインは一人の設計者や経営者が独断で進めるものではありません。
周囲全体、特に製造現場の「やりにくさ」「トラブル例」「改善アイデア」を聞き取るワークショップ型手法や、実際の作業現場での業務観察が大きな成果を生みます。

2. プロトタイプ＆スモールスタート：まずは小さく試す

大規模な設計変更や生産ラインの組み換えはリスクも伴います。
小さなプロトタイプ（試作や仮導入）を現場で回し、現場の人たちが「これはいいね」と実感して初めて、デザインの価値は実現します。

3. コンサルタントの役割は「よい問いかけ」と「伴走者」

コンサルの仕事は正解を押し付けることではありません。
「なぜこの工程は非効率なのか」「理想の設計は何か」といった問いかけを繰り返し、現場やバイヤー・サプライヤー自らが解決案を編み出せる場を用意すること。
そして、現場変革のプロセスに根気強く寄り添う“伴走型サポート”が信頼と成果の鍵となります。

まとめ：製造業の「デザイン経営」は現場と伴走するコンサルから

昭和から続く製造業の現場では、現実に即した「現場目線のデザイン」「業務設計に根ざしたデザイン経営」がいま強く求められています。
経営層が「デザインの本当の意味」を理解し、現場と対話しながらプロセスや商品開発をともに描いていく。
そのためには、外部のコンサルタントもまた、現場の空気や悩み、歴史の重みまでを踏まえて一緒に業務プロセスを“デザイン”していくべきです。

「デザインを軽視した机上の空論」は、結局は経営層にも現場にも伝わらず、信頼を失います。
これからの製造業の発展のためには、机上と現場、理論と実践、経営と作業者――そのすべての橋渡しとなる“本物のデザイン経営”の実践が不可欠です。

製造業に携わる皆さまが、現場主義と新たなデザイン思考を融合させ、バイヤー・サプライヤー・コンサル全員でより良いものづくりを実現していく未来を、私自身も現場目線で応援しています。