投稿日:2025年9月25日

改善策をシンプルに図示できず複雑化するコンサルの失敗

はじめに―なぜ製造業の現場は「簡単な図」に飢えているのか

製造業の現場に長年身を置いて感じること。
それは「説明の分かりやすさ」と「現場の納得感」が何よりも価値を持つということです。

改善提案やコンサルティングを受ける際、その内容がどれほど的確でも、シンプルな図解や「現場言葉」で説明されなければ、誰の心にも響きません。
現場で働く人、自分の手を動かす人、そして管理する人…。
誰もが忙しい環境の中で、複雑な理論や分厚い資料ではなく「一目見て分かる」「パッと共有できる」手法を求めています。

しかし、現実には多くのコンサルティング会社や外部専門家の提案が「複雑化の罠」に陥っています。
なぜそのような状況が生まれるのか、そして現場目線で求められる図解や伝え方とは何かについて、深掘りしていきます。

コンサルティング現場でよくある失敗―複雑な図表が混乱を招く

「分かりにくい」=「価値が高い」ではない

コンサルタントは往々にして大量のフローチャート、クロス集計表やKPIダッシュボードを持ち込みます。
「どうだ、すごいだろう」と言わんばかりのデータの羅列と、専門用語で埋め尽くされた資料。
それを前にした現場社員や工場長はどう受け止めるのでしょうか。

多くの場合、「よく分からないけど何だか難しそうだ」「人ごとの話のようだ」「現場で動かすには遠すぎる」となりやすいものです。
結局、会議や提案会の後には「まあ、そのうちできたらいいね」と形骸化し、そのまま放置される…という例を私は何度も見てきました。

本質的には、分かりやすく、実務に落とし込みやすい図解やロジックの方が、圧倒的に「価値が高い」のです。

具体例:製造現場の改善プロジェクトで見た「複雑図解」の現実

ある電子部品メーカーでの改善プロジェクトの話です。
外部コンサルが「生産性向上」をテーマに、3か月かけ多角的な現状分析を実施しました。
出てきた成果物は、工程ごとのタイムチャートやバリューストリームマップ、損益分岐図、関係部門間のRACIチャートなど。
確かに網羅的で、データ化も洗練されていました。

しかし、現場の担当者に「どこから改善の手をつけるか分かりますか?」と尋ねると、返ってきたのは黙り込みと困惑顔。
実際には、作業員一人ひとりにとって「今日から何を変えればいいか」が全く見えていなかったのです。
現場で配布された資料は、1週間もせずロッカーの奥やコピー機の傍らでホコリをかぶっていました。

なぜ図解が複雑化するのか?「昭和的業界文化」とコンサルのジレンマ

「形を整えれば価値がある」信仰の根強さ

日本の製造業、特に大手や老舗企業には「報告書の重厚さ=信頼」「見慣れたフォーマットでないと承認されない」「シンプルな資料は軽んじられる」という独特の文化が昭和から続いています。
本来なら、人に分かりやすく・すぐ行動できる図や資料を追求すべきですが、「ページ数至上主義」や「前例倣え」が強固に根付きやすいのです。

この環境下でコンサルタントが提案する際も、「ここの企業向けにはとりあえず詳細な資料を持参しよう」「正確で複雑なものが求められるはずだ」と無意識にバイアスがかかります。
結果、肝心な価値は曖昧で、現場は“形だけ”の資料に圧倒されてしまうことになるのです。

コンサルタントのジレンマ「オンリーワンを演出しなければ…」

また、外部コンサルは自分たちの提案が「コモディティ化」と見られることをとても恐れます。
独自のメソッド、専門性、優位性を示したいがために、難解なプロセスや図式を作りがちです。

「複雑なことを複雑に説明する」ことは実は簡単です。
ところが、「複雑なことを、シンプルなひと目でわかる図に落とし込む」ことこそ、真のプロフェッショナルの仕事。
ここを誤ると、企業と現場、そして外部パートナーが同じゴールを見失い、投資や変化が失敗に終わります。

現場で実践された「シンプル図解」成功例とその理由

ある供給網改革―1枚の絵で全てが伝わった瞬間

私自身が工場長時代に経験したことです。
累積在庫、部品サプライヤーの納期遅れ、多品種小ロット対応の複雑化…。
毎月の改善会議は、細かい数字とフロー図のオンパレードでした。

それを変えたのは、現場の若手技術者が描いた「簡素な工程フロー図」です。
A3用紙に手書きで、サプライヤーから到着した部品が「どの順で」「どの現場で」「何に使われて」「どこで詰まるか」が、色分けとアイコンで一目でわかるものでした。
この図解を見た瞬間、現場の管理職だけでなく、パート従業員や新人でも即座に課題がイメージできるようになりました。
これを壁に貼り、「今どこの課題に注力しているか」を毎朝共有することで、改善活動(カイゼン)は急速に進展。

複雑なテキストや数字にありがちな「伝わった気になっていた」状態から、真の実行力を生み出せた好例でした。

トヨタ式現場管理の神髄―「現場で1枚書けるか」が出発点

徹底した現場主義で知られるトヨタ生産方式(TPS)も、実は「一目で見て分かる」ことを極限まで追求した仕組みです。
例えば「かんばん」も、ただの工程管理票ではありません。
現場の誰もが「いま・どこで・なにが・どのくらい動いているか」を即座に見て取れる、究極のシンプル図解です。

TPS提唱者の言葉にも「現場で1枚書けないならダメなんだ」という主旨の名言があります。
この文化は「昭和レガシー」としての日本の製造業の強みであり、日本が世界に誇れる図解文化につながっているのです。

サプライヤー・バイヤーの立場から考える「伝わる図解」の価値

バイヤーは「現場感覚」と「素早い決断材料」を求めている

調達購買やバイヤー職にある方は、現場から上がる膨大なデータや説明資料に日々直面しています。
そんな中で、サプライヤーからの提案や改善案を即座に理解し、判断・比較・展開することが要求されます。
このプロセスで活きるのが「シンプルな図解」です。

分厚い資料を読む時間はなくても、1枚の流れ図やビフォー・アフターが書かれた絵を見れば、投資効果や改善前後の状態が一目瞭然になります。
「これなら御社の現場にも落とし込めそうだ」「この課題にはこう動けそうだ」と、現場と経営の両者に即時性ある判断材料を渡すことができるのです。

サプライヤーにこそ「図で伝える技術」が武器になる

サプライヤー側の立場でも、バイヤーの現場感覚をくみ取りやすくするために、シンプルな図解は絶大な武器になります。
バイヤーが最も嫌うのは「何をやるか」「何が変わるか」が見えない、無駄に長い提案書や重たいプレゼンです。

たとえば、「新しい生産ラインの納期短縮策」を提案する場合、
・ビフォー(従来フロー図+納期)と
・アフター(改善後フロー図+目標数値)
を、色分けや太線で対比させた1枚資料にまとめる。
その上で、コスト・品質・納期への効果を3つのバブルチャートで示すと、「やってみよう!」という気運が一気に高まります。

実践ポイント:現場で活きる「シンプル図解」5つの鉄則

1. 複数の情報を「2軸化」もしくは「3分割」で見せる

業務フローを2軸や3段階に分割し、一目で比較・対比する。
たとえば「現状」「問題点」「打ち手」の3分割や、「人・モノ・情報」の2軸図化など。

2. 色・太さ・アイコンで「差」を強調する

重要ポイントは色分け、現在位置や課題部分は強調。
イラストやシンボルマークも積極的に活用。

3. 5分で説明できるボリュームに絞り込む

1枚で「5分説明・5分質疑応答」が終わるサイズ感に。
詳細資料は別添で、メイン資料はひたすらシンプルに。

4. 「誰が」「何を」から入る

抽象論から入らず、まず「誰が何をどう変える」を1行目・左上に書き出すことで迷いをなくす。

5. 「使い回せるカタチ」にする

現場共有や後続資料にも展開しやすい汎用パターンに。
「毎回ゼロからパワポを作る」はナンセンスです。

まとめ―現場に効く「図解思考」が製造業の未来を変える

改善策をシンプルに図示できないことは、現場を複雑化させ、やがて事業の停滞やロスにつながります。
一方、難解な理論も「誰が・どこで・何を・どう変える」を図に表せれば、現場の実行力・納得感が格段に高まります。

これは製造業の現場だけでなく、調達・購買、サプライヤー・バイヤーの関係性改善にも共通する「普遍の原則」です。
昭和から続く慣習や「複雑なほど偉い」文化を手放し、未来志向のシンプル図解思考を身につける。
それこそが、これからの日本の製造業、ひいてはグローバル競争に打ち勝つための大きな武器となるはずです。

ぜひ、皆さんも「一目で伝わる図解」を武器に、日々の現場改善や業務提案にチャレンジしてみてください。

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