投稿日:2025年8月28日

輸送途中での危険地域通過による追加保険料を抑える契約とリスク回避策

はじめに:製造業と国際物流の新しいリスク

製造業のグローバル化が進む中で、サプライチェーンの複雑化や国際情勢の変化によって、物流リスクは日増しに高まっています。

特に世界の各地に点在するサプライヤーからの原材料調達や、完成品の輸出入を伴う場面では、紛争や治安悪化など「危険地域の通過」が避けられない状況も増えています。

これらの危険地域を通過することで、貨物の保険料が跳ね上がる「追加保険料(ワーリシステム)」問題は、現場のバイヤーや購買担当、サプライヤーにとって大きなコスト課題です。

本記事では、20年以上大手製造業で生産・調達・管理職として培った経験に基づき、危険地域を通過する際の追加保険料を抑えるための契約とリスク回避策について、現場視点で具体的に解説します。

昭和のアナログ慣習が根強く残る製造業ならではの実情や、最近の業界動向も盛り込み、実践的なノウハウをお届けします。

危険地域通過に伴う追加保険料とは?

追加保険料発生の背景と現場の課題

製造業の国際輸送では、貨物が危険地域(High-risk area、コンフリクトゾーンとも呼ばれる)を通過する場合、保険会社から追加保険料の請求がなされます。

主な理由は、戦争・テロ・窃盗・海賊行為など、通常より高いリスクに対して保険会社がリスクヘッジを図るためです。

追加保険料は貨物輸送コストに直接乗せられるため、バイヤーの調達コストを圧迫し、原価計算にも大きな影響を及ぼします。

たとえば、中東情勢の悪化や、アフリカ・南米の一部地域で治安が急変した場合、追加保険料が一時的に「2〜3倍」になることも珍しくありません。

サプライヤー側はこのコストを販売価格に転嫁する傾向が強いため、調達先選定や契約交渉の現場では、「いかにリスクを下げつつコストを抑えるか」が喫緊のテーマとなっています。

どのような契約条件で保険料負担が変わるか

追加保険料の負担区分は、国際取引条件(インコタームズ)で大きく変わります。

CIF(Cost, Insurance, Freight)条件では、出荷者(サプライヤー)が保険を手配し輸入港までの責任を負います。

一方、FOB(Free On Board)やEXW(Ex Works)は、輸入者(バイヤー)が保険契約を結ぶパターンです。

どの条件で契約するかによって、保険料負担の主体が変わり、追加コスト発生のタイミングや交渉余地が異なります。

こうした契約条件の解釈を曖昧なまま進めてしまうことが、製造業の現場では今も多く、結果として「言われるがままに高額な追加保険料を払っていた」ケースが後を絶ちません。

追加保険料を抑えるための契約上の工夫

インコタームズの再検討と明文化

まず第一に重要なのは、インコタームズ条件の設定を安易に「前例踏襲」や「サプライヤー任せ」にしないことです。

危険地域の通過が予見される場合、FOBやEXWよりも、バイヤー主導でCIF契約もしくは条件の見直しを提案しましょう。

CIFの保険料部分にリスクが含まれる場合は、見積書に「追加保険料の算出根拠と内訳を明記」させることで価格交渉の余地を作ります。

また、「危険地域通過時の保険料は、発生都度協議の上で上限を定める」など、価格変動リスクについて契約書に記載をすることで、不透明な追加請求を防ぐことが可能です。

保険会社の選定・複数見積もりの慣行化

日本国内で付き合いの長い保険会社だけでなく、国際的にネットワークを持つ保険ブローカーや現地保険会社の活用も有効手段です。

特に危険地域通過時は、保険会社ごとのリスク評価や追加料率が大きく分かれます。

現場目線で「複数の保険会社から同一条件で見積もりを取得」し、比較によるコストダウンの習慣をつけるべきです。

また、物流業者(フォワーダー)による包括保険(キャリア保険)を活用し、「一括契約によるボリュームディスカウント」を引き出す交渉も、コスト削減につながります。

コネクション×デジタル情報による状況把握

「現地事情は現地のエージェント/サプライヤーが一番知っている」という昭和的な発想も否定できませんが、現代では「デジタル情報の収集」が不可欠です。

国際的な保険リスク情報サイト(Lloyd’s List、ICC Live Piracy Report等)の活用や、物流SNSなどで最新情報をキャッチアップしましょう。

情報鮮度を上げることで、危険地域の「通過回避」ルートの提案や、現地当局の監督情報、リスク低減オプション紹介など、現場発の柔軟な対応が可能になります。

危険回避策の実践的ポイント

ルート変更・経路分散の検討

追加保険料が著しく高騰する場合には、「定番ルートをあえて外す」ことも選択肢です。

たとえば、紅海の危険水域を避けるためスエズ運河を使わず希望峰回りにする、あるいは鉄道や内陸トラックルートを組み合わせてリスク分散を図るなど、物流側とも密に連携して「最適ルート」を模索します。

この際、物流パートナーと定期的に「危険地域マッピング会議」を設けると、情報の鮮度と現場ノウハウが自然に集まってきます。

貨物の小口化・コンテナ混載でのリスク分散

大きな貨物を一括で送るよりも、敢えて「小口多頻度」や「コンテナシェア」を利用することで、万が一トラブルが発生しても被害を最小限に抑えることができます。

また、追加保険料も「貨物ごと・コンテナごと」に算出される場合が多いため、分散化がコスト抑制につながるケースも実際に多々あります。

サプライヤーに対しても「納期分散」や「分割発注」を協力要請すれば、リスク・コスト共有の意識を高め、長期的な共存関係の構築につながります。

荷姿・パッケージングと保険料の関係

もう一つの重要な視点が、「荷姿(パッケージ)」や「貨物のマーキングの工夫」です。

危険地域で盗難や損壊リスクが高い場合、「わざと目立たない梱包」「貨物内容が分かりにくい表示」とすることでリスク回避を図れます。

保険会社も貨物の梱包状態や管理情報を重視するため、「厳重梱包証明書」や「監視体制証明」をセットで提出すれば、追加保険料の基準引き下げ交渉にもつながります。

現場が陥りがちな落とし穴とその克服法

「前例踏襲」や「丸投げ発注」にご用心

製造業の現場では、「これまでこうだったから」「サプライヤーに任せておけば安心」という先入観が今も根強く残っています。

しかし、国際情勢の流動化や、金融危機等で保険会社の審査基準も厳しく変化している今、過去の慣例だけではリスクやコスト高に直結しかねません。

時には「ゼロベースで契約条件や物流リスク管理を見直す」ことが、次代を生き抜く現場バイヤーや生産管理の“当たり前”に変わりつつあります。

サプライヤーとの「率直な情報共有」と「ウィンウィン関係」

追加保険料やリスクコストの話をすると、サプライヤーとバイヤー双方が「押し付け合い」になりがちです。

しかし、中長期の取引安定や信頼関係の維持を考えるなら、「率直なコスト・リスク情報の開示」と「リスク共有の姿勢」が重要です。

たとえば、「追加保険料の事前シミュレーション」や「危険地域のタイムリーな情報交換」、「年間契約によるまとめ買い割引の協議」など、共通メリットを話し合う場を日常的に設けることが、実効性あるリスクマネジメントにつながります。

今後の動向:デジタル×自動化時代に向けた新しいリスク管理

物流・調達管理のDX化がもたらす革命

昭和の時代には「人のネットワーク」や「現場勘」が頼りでしたが、これからはデータとテクノロジーの活用が重要になります。

AIやビッグデータ分析による「危険地域リアルタイム監視」や、「保険料自動見積もりシステム」の導入事例も徐々に登場しています。

さらに、IoTセンサーを貨物に付与して「荷動き・温度・衝撃」等の証跡を記録し、安全管理強化をアピールすれば、保険料ディスカウントも期待できます。

人任せから、データ主導の管理へ、製造業バイヤーやサプライヤーも一歩先のDXリスクマネジメントを志向していくべき時代です。

おわりに:現場力×変革志向で未来を切り開く

危険地域通過時の追加保険料は、単なるコストアップ要因ではなく、「調達・物流・サプライヤー管理全体の見直し」を迫るサインでもあります。

現場の経験値を活かしつつ、デジタルやデータを融合させ、「契約力」「情報収集」「リスク分散」の実践的ノウハウを組み合わせて、持続可能なリスク管理体制を構築することが重要です。

昭和の時代に培われた仲間意識や現物管理の良さを活かしながら、新しい時代の変革にも柔軟に対応できる“次世代バイヤー・サプライヤー”としての知見と感度を磨き続けましょう。

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