投稿日:2025年8月19日

サプライヤー選定時のデューデリジェンス不足で起きる契約不履行事例

サプライヤー選定におけるデューデリジェンスの重要性

サプライヤー選定は、製造業にとって事業の中核を担う重要なプロセスです。
原材料や部品を安定的に、品質基準を満たした状態で調達できなければ、製品の品質や納期に直接的な影響が及びます。
しかし、現場ではサプライヤーの選定時に表面的な情報や過去の付き合いだけで決定してしまうケースが後を絶ちません。
このようなデューデリジェンス(適正な事前調査)の不足が数多くの契約不履行やトラブルに発展しているのが、いまだに製造現場で見受けられる大きな課題です。

デューデリジェンス不足で起きた契約不履行の現場事例

事例1:下請け業者の経営危機に気づかず生産ラインが停止

長年付き合いのある下請け業者に定期的なヒアリングや財務状況の確認を怠ったことで、突如として資金繰りが悪化。
発注していた部品の納品がストップし、生産ラインが一週間にわたり止まりました。
調達担当者は「過去に一度も納期遅延がなかった」ことだけを理由に、信用調査や与信管理を省略していたため、防げたはずの事態でした。
少量品の内製化や代替サプライヤーへの迅速な切り替えも困難で、多大な生産損失や取引先からの信頼低下につながりました。

事例2:海外サプライヤーの法規制違反で契約解除

価格競争力を優先し、海外の新規サプライヤーから部品を調達。
しかし、取引開始後にそのサプライヤーが持続可能性(サステナビリティ)に関する現地法規制を順守していなかったことが発覚。
大手顧客から「取引先のサプライチェーン管理が不十分」と指摘され、主要契約の解除に至りました。
納入価格ばかりに目を奪われ、企業倫理やCSR(企業の社会的責任)の観点でのデューデリジェンスが不十分だった典型例です。

事例3:品質管理能力の見極めミスによる全数不良発生

新規の国内サプライヤーを短期間で選定し、急ぎで量産委託。
しかし、受け入れ品に全数不良が見つかり、大量リコールが発生しました。
最初から現地視察や工程FMEA、品質保証体制の監査を省いた「スピード重視」の選定が裏目に出た事例です。
本来ならばサンプル評価やトライアル生産による工程検証を綿密に行うべきでしたが、営業担当者の「大丈夫です」の言葉だけをうのみにしてしまった結果でした。

なぜデューデリジェンス不足が起きるのか

現場に根付く「昔ながら」の慣習

日本の製造現場の多くでは「昔からの付き合いがある」「前任も同じ業者を使っていたから」という理由だけでサプライヤー選定を進める文化がまだ根強く残っています。
サプライヤーの経営状況や経年による技術の陳腐化など、経営環境の変化まで目が届いていないのが実情です。
内部でのチェック体制が確立していないため、形式的な資料確認だけで深掘りされず、不十分な調査で選定プロセスが進んでしまうケースも少なくありません。

コスト・納期だけが重視される選定基準

安価で早く調達することが調達部門のKPIになっていると、どうしても「価格」と「納期」に目が行きがちです。
品質や法令順守、財務健全性、BCP(事業継続計画)対応といった、中長期的な信頼性や安定供給体制までしっかり評価できない場合が多発します。
目の前のコスト削減にばかり目が向くと、本来のリスク管理がおろそかになり、結果的に高い損失や信用毀損を招くことになります。

人手不足と現場スキルの属人化

近年は調達や購買担当者の人員削減も進み、ベテランの知見が引き継がれていなかったり、属人的な判断基準での選定が増えたりしています。
標準化された選定フローや調査項目が現場に落とし込まれていなければ、若手や異動者による見落としが起こります。
結果としてリスクの目利きができず、トラブル発生時の初動対応も遅れてしまうのです。

サプライヤーデューデリジェンスで重点確認すべき観点

ここからは、契約不履行事故の発生を未然に防ぐために押さえておくべきデューデリジェンスの観点を解説します。

企業としての財務健全性や存続性

決算書だけでなく、日々の資金繰りや主要取引銀行、仕入先の分散状況まで把握します。
直近の経営環境変化(例:主要顧客の業績悪化や取引終了)にも注意が必要です。
経営者との定期面談や、与信管理の外部サービスもフル活用します。

品質管理体制・改善活動の実効性

品質マニュアルだけでなく、現場での実践度や品質管理担当者の力量まで現地で見極めます。
製造工程の管理状況や記録、帳票の充実度も信頼指標となります。
不良発生時の対応履歴や、外部認証(ISO等)の運用状況も有効なチェックポイントです。

サステナビリティ・法規制対応

環境・人権・化学物質管理など、調達先が現地法や国際規格順守の体制を持つかどうかのチェックが欠かせません。
必要に応じて第三者監査の活用や、サプライヤーへのCSRアンケート・自己申告書を取り入れ、確実に把握します。

技術力と生産キャパシティの現状

工場視察はもちろん、設備・人員の稼働率や現場の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)レベルを確認します。
多量・多品種生産が本当に可能か、緊急注文や特急納期への対応力まで突っ込んで質問します。

トラブル時のBCP体制の有無

地震や火災などの自然災害だけでなく、パンデミック・仕入先倒産など突発的な供給停止リスクへの備えがなされているかを確認します。
VMI(在庫管理協力)や二次サプライヤー有無も含めて、事前に対応策を評価しておくべきです。

現場で実践できるデューデリジェンス強化策

調査ルーチンの標準化と定期見直し

サプライヤー選定や定期監査の際には、社内外の専門家意見も取り入れた「調査リスト」を標準化しましょう。
業界動向や市場環境に応じて、毎年見直しを実施することも大切です。

現場視察とヒアリングの徹底

現地工場・作業現場への足は惜しまず、自分の目で現実を確認します。
経営層と現場担当者の双方から率直な意見を聞き出すことで「現場の本音」と「経営の方針」にズレがないかチェックできます。

外部機関や専門家の活用

自社内に専門知見が不足している場合は、信用調査会社、ISO審査員、技術コンサルタント、社会保険労務士など信頼できる第三者の目も加えて多面的に評価をします。
これにより“抜け漏れ”を最小化できます。

リスクシナリオを可視化した契約条項設計

「●●が起きた場合には●●する」といったBCP関連条項やペナルティ条項など、契約面でも実効性を担保できます。
調達部門だけでなく、法務・品質管理・生産管理部門とも密に連携し、万一に備えた契約書にしておくことも求められます。

まとめ:デューデリジェンスはバイヤーとしての責任と成長の機会

製造業でサプライヤー選定に携わるバイヤーや調達担当者は、コストや納期だけではなく、サプライチェーン全体のリスク評価とガバナンスを担う重要な役割を持っています。
デューデリジェンスの徹底は、単なるリスク回避ではなく、より安定的な供給網の構築と、信頼されるバイヤー像の確立につながります。

現場目線での実践的な取り組みを習慣化し、昭和的な慣習から脱却した先にある新たな製造業の地平を開拓していきましょう。
今まさにバイヤーを目指す方も、サプライヤーの立場でバイヤーの真の意図を知りたい方も、現場で使える調査・評価の視点を一つずつ積み重ねていくことが、これからの日本のものづくりにとって不可欠な進化となります。

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