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輸入規制強化に伴う納入停止リスクを見越した契約条項の工夫

目次
はじめに:図らずも求められる「異常対応力」
かつての製造業は「工場で作ったモノを納める」ことが最も重要な使命でした。取引先との信頼関係が重視され、問題が起こったときは電話一本ですぐに現場担当者が頭を下げに行く、いわゆる“昭和流”のアナログな対応が主流だったのです。
しかし、グローバル調達が当たり前となり、さらに地政学的なリスクや新たな輸入規制が頻発する今、単に「納品します」という約束だけでは、もはや十分とはいえません。納入が止まるリスクは、いつ誰の身にも降りかかる時代です。
本記事では、実践的な現場目線と業界動向を踏まえ、輸入規制強化に伴う納入停止リスクを見越した契約条項の工夫について、バイヤー・サプライヤー双方が納得できるヒントを紹介します。
加速する輸入規制強化とサプライチェーン分断の現状
世界的な輸入規制の潮流
最近の国際情勢をみると、米中対立やロシア制裁、新興国経済の不安定化など、実に様々なリスクがサプライチェーンを直撃しています。
かつては影響の少なかった部材・原材料も、想定外の輸入規制で一夜にしてデリバリーストップになる時代となりました。
たとえば半導体、レアメタル、重要部材、さらには地政学的理由による輸送の途絶など、一見無関係に思える業界にも影響は波及します。特に加工・組立型の製造業で広範な調達先を持つ企業は、その影響度が甚大です。
「止まったら誰が責任を取るのか?」の疑心暗鬼
業界では「仕入れが止まる=生産が止まる」という連鎖を回避するため、バイヤーもサプライヤーも事前にリスクマネジメントを求められています。昭和時代の義理人情に頼った“阿吽の呼吸”では済まされず、誰が・どこまで責任をもつかが厳しく問われるようになりました。
このような現状に即応できないと、納入停止リスクを内包する形だけの契約になり、トラブル発生時に「こんなはずじゃなかった」と泥沼化するケースが散見されます。
失敗例に学ぶ:現場で多発する“想定外”
よくあるリスク事例
現場感覚として見過ごせないのは、「まさか自分のところが規制対象になるとは思わなかった」というパターンです。
例えば、A国産のネジが急遽リスト入りし、急場しのぎでB国製に切り替えたものの、微妙な寸法差・材質違いで最終製品の品質クレームに発展した例。
また、EUの化学物質規制が強化され、従来の塗料が使えなくなったが、代替調達のめどが立たず納期遅延が発生したこともあります。
責任の所在が曖昧な契約トラブル
これらのトラブルに共通しているのは、契約書に「輸入規制による納入停止についての具体的な取り決め」が盛り込まれていないケースです。
結局、曖昧な責任分担のまま、「どちらが損失補填するのか」「ペナルティは誰が負うのか」と現場担当者・法務・経営層が右往左往することになります。
このような状況を未然に防ぐためには、「想定外」を“想定内”に変える契約条項とそのバックアップ体制が不可欠なのです。
輸入規制リスク対策としての契約条項設計のポイント
契約の基礎:「不可抗力(フォースマジュール)」条項の強化
一般的に、自然災害や戦争、政府による規制など、コントロール不可の事象に関しては「不可抗力条項」として契約書に盛り込まれます。
しかし、実務上はこの条項が漠然としているケースが多く、「どの範囲までが対象か」「発生した場合の手続きはどうするか」まで具体的に書かれていません。
最近の実務では、不可抗力の定義に「政府の新たな規制」や「国際的な輸出管理強化」、指定リスト入りなどを明確に追加し、適用範囲を拡充する動きが強まっています。
“例外処置”発動時の早期連絡義務の明記
予兆が出た時点(例:調達先から輸出停止の打診があった時など)ですぐに相手に連絡し、協議に入る義務を契約で定める。これにより「実は1カ月前から納入危機だった」という手遅れを防げます。
代替調達・供給協議の手順明文化
万一、本来の納入が困難となった場合にどうするか。
例えば、契約書に具体的な手順として「両者協議のうえ、B社またはC社からの調達を検討する」「一定期間内に決着しない場合は解除可能」など、合意プロセスを必ず明文化しましょう。
損害賠償・ペナルティの限定化
不可抗力による納入停止で重大な損害が生じた場合でも、「双方でできうる限り善処したことを条件にペナルティ免除」「損害賠償の責任範囲を合理的範囲内(例:直近Xか月分の取引額まで)に限定」など、極端な一方的責任追及とならないようバランスを取ることがポイントになります。
現場力のカギは「事前協議」と「共通認識」
契約は“盾”であり“矛”ではない
現場の経験で痛感するのは、契約条項を巡る対立が、バイヤーとサプライヤーの信頼関係を損なわないようにするバランス感覚の重要性です。
契約はもしものときの「盾」にはなりますが、日常の協力関係において「矛」にならないよう、あくまで協議・合意重視の運用が必須です。
契約前の”リスクリストアップ”のすすめ
過去に発生した輸入規制、規制強化の動向などを双方の担当者が整理し、「自社が最も影響を受ける品目」や「代替困難な資材」などを事前に洗い出すことが肝要です。
内部に眠るサプライチェーンデータや経験知を活用し、「何が致命傷になるか」の見える化をぜひ習慣化しましょう。
ラテラルシンキング:業界の常識を超える次世代の対応策
データドリブン契約・サプライチェーンの模索
AIやDX、ブロックチェーンの活用により、調達〜納入実績の可視化や、規制情報の即時共有、リスクシナリオの自動検出といった先進的な対応も広がりつつあります。
従来の「契約書ファイルは棚の奥」という昭和的風景から、いつでもアクセスできるクラウド契約、条件が変わるごとに自動通知が届くシステムの導入が容易です。
セクションごとに異なる契約更新や新条項追加も、電子契約ベースなら迅速な運用が可能となります。
共同リスクファンドや共同購買の活用
自社単独でのリスク回避が難しい場合、同業他社や業界団体と共同で「リスクファンド」を組成。
予期せぬ納入停止時の損失をプールされた基金で穴埋めする動きも業界で始まっています。
また、特定資源や部材に関してバイヤー側で共同購買体制を築き、サプライヤー負担の分散を図る工夫も一部の業界で現実化しています。
まとめ:想像力と行動力、その両輪がこれからの現場を救う
製造業におけるバイヤー・サプライヤー関係は、昭和や平成時代の慣行だけではもはや通用しません。
リスクが日々変化する今こそ、「もしも」のケースを具体的に想定し、それを踏まえた契約条項作りが不可欠です。
現場目線の情報共有とデータ活用、そしてラテラルな発想で業界の常識を一歩超えてみる――この積み重ねが、これからのサプライチェーンの強靭さを決めるでしょう。
製造業の現場に身を置く皆さん、そしてこれからバイヤーや調達担当を目指す皆さん。
「自社だけは大丈夫」と思わず、今日から小さなリスク対策、契約の見直しを始めてみませんか。
それが、想定外の事態にも決壊しない“したたかな現場力”の第一歩となるはずです。
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