投稿日:2025年8月31日

輸送途中の港変更で内陸費が増大するトラブルを避ける契約設計

はじめに:グローバルサプライチェーンに潜む「港変更リスク」

製造業において国際輸送は今や日常業務の一部です。
サプライチェーンが複雑化し、調達先の多様化が進む中、何気なく見落とされがちな「港の変更による内陸費(ドレー費)の増大」が、利益率を大きく圧迫するトラブルに発展するケースが少なくありません。
この記事では、実務で直面してきた事例や現場目線の視点を交え、港変更によるコスト膨張を未然に防ぐための契約設計の具体的方法について解説します。

港変更トラブルの構造:なぜ発生するのか?

内陸費とは何か?

国際物流において「内陸費(ドレー費)」とは、本船から陸上輸送で工場や倉庫まで貨物を運ぶ際の追加費用を指します。
輸入元の指定港から工場までは想定通りでも、現実には次のような理由で着岸港が変更される事例が発生します。

現場で起きる主なトラブル

  • 本船スケジュールの遅延で近隣港へ振替
  • ストライキ・天候不順による港の急遽変更
  • コンテナ船航路・サービスの見直し

このような場合、当初契約の「想定港」とは異なる港で陸揚げされるため、工場までの陸送距離が伸び、内陸費が大幅に増大してしまいます。
1本あたり数万円の差が、数十本以上の案件では数百万円単位にも膨れ上がります。
この追加コストをどちらが負担するかでもめるケースが絶えません。

増大した内陸費をめぐる「責任のなすり合い」

工場・バイヤーサイドの視点

生産計画は、指定港からの陸送リードタイムや費用を織り込んで立案しています。
港変更が発生することで、

  • 予算オーバー
  • 納期遅延
  • 生産ラインへの影響

など、現場にとって死活問題となります。

サプライヤーサイドの視点

一方でサプライヤーは、下記の点を主張することが多いです。

  • BL記載港での引き渡しは完了している
  • 不可抗力(Force Majeure)で港変更となった
  • その後のコスト増加分はカバーできない

このように、契約条項が曖昧な場合、「誰が追加ドレー費を負担するのか」で泥沼化する例がみられます。

契約設計の見落としが生む“落とし穴”

インコタームズ(Incoterms)の限界

従来の多くの現場では、「FOB」「CIF」「DAP」などインコタームズ(国際貿易の取引条件)に沿って発注書や契約書を作成します。
ところが、インコタームズは「指定港での引き渡し」を大まかに定めるだけで、港変更が起きた際の追加費用負担までは明記されていません。
特に昭和時代からのアナログな現場では、「まさか港が変わるなんて」という油断や、「細かな条件を詰める文化がない」風土も根強く残っています。
これが盲点となり、トラブルの温床となっています。

港変更リスクを回避する実践的契約設計術

1. 指定港の明確化と「港変更時条項」の盛り込み

契約書や発注書で、単に港名を記載するだけでは不十分です。
次の内容を盛り込みましょう。

  • 指定港(例:横浜港、名古屋港)を明記
  • 指定港以外で陸揚げされた場合の費用分担方法
  • 例外的な事情(不可抗力、輸送遅延など)が発生した場合の取り決め

現場の工場長や調達責任者がサプライヤー担当者と詰めて議論することが重要です。

2. 契約条項例のひな形

現場で活用できる代表的な条項の例は以下の通りです。

「指定港:名古屋港。不可抗力及び船社都合等により指定港以外の港で陸揚げされた場合、指定港から買主工場までの標準ドレー費を超える分は、売主が負担するものとする。」

こうした条項を盛り込むことで、費用負担の範囲を明確化し、もめごとの予防につながります。

3. インコタームズ+αの運用

表面的な「FOB名古屋」といった表記だけに頼らず、契約書の補足規定で実態に即した追加条項を定めましょう。
特にDAP/DDP条件の場合は、港だけでなく工場納入地点までのリスク分担を明記し、出荷側・受領側で納得した文言としてください。

港変更リスク低減のためのバイヤーの現場チェックリスト

1. 輸送ルートのトレンドを把握する

最近は海運会社の配船変更や、港湾の混雑回避のため、従来使われてきた港が減便・廃止となる傾向があります。
サプライヤー任せにせず、主要な海路・港湾事情の最新動向にも日々アンテナを張りましょう。

2. サプライヤーとの事前意識合わせ

月例会や定例の発注会議などで、船積みスケジュールや港の状況をしっかりとヒアリングしましょう。
また、不測の事態への対応フロー(連絡体制や代替案)を事前に確認しておくべきです。

3. 物流会社・フォワーダーとの連携強化

貨物がどのようなルートを通り、どのようなリスクが生じているか。
物流現場を知り尽くしたプロとの情報交換を密にすることで、早め早めの対策が打てます。

昭和的アナログ慣習を乗り越える交渉術

「うちの業界は昔からこうだから」への打ち勝ち方

古い体質の製造業現場では、「例外時は持ちつ持たれつでやろう」といった曖昧な慣行が根付いています。
しかし、グローバルな競争激化やコンプライアンスの厳格化等により、“なあなあ対応”では済まなくなっています。
「万が一」を想定し、面倒でも“事前に契約条項を設ける”ことが、結果的に両者の信頼関係を損なわず、現場コストを抑える最善策です。

言葉では交渉しきれない事情の明文化

例外時の対応を「あうんの呼吸」に頼らず、具体的な費用算出方法や、遅延が発生した際の情報伝達ルール、緊急時の責任分担までテキスト化(明文化)することをおすすめします。

まとめ:現場・法務・サプライヤーの三位一体でリスク最小化へ

港変更による内陸費増加トラブルは、グローバル時代により頻発しています。
特にアナログな製造業界では、契約設計の見落としが大きなコストロスや納期遅延につながります。
日々の業務プロセスに、契約書チェック・物流トレンド把握・現場現実とのすり合わせを組み込みましょう。
現場責任者、調達・法務担当、さらには物流プロであるサプライヤーやフォワーダーとの連携を強化し、リスクを最小化してください。
「想定外を想定内にする」契約術が、強い調達・現場マネジメントをつくります。
バイヤー志望の方も、サプライヤーの方もぜひこのノウハウを現場改善・交渉力向上に活かしてください。

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