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品質保証期間と製品寿命の解釈違いで起きた契約トラブル事例

目次
はじめに:製造業現場で多発する「品質保証期間」と「製品寿命」の誤解
製造業の調達・購買や品質管理の現場では、「品質保証期間」と「製品寿命(設計寿命)」という重要なキーワードがあります。
どちらも製品の「品質」に関する指標ですが、その意味や用途、守るべき視点は大きく異なります。
バイヤーとサプライヤーの間でこの違いが正しく理解されていない場合、契約トラブルや顧客クレームの引き金となり、最悪の場合は信頼の失墜、損害賠償にまで発展することもあります。
今回は、業界現場で実際に起きた「品質保証期間」と「製品寿命」の誤解に基づくトラブル事例と対策を、現場目線・昭和的アナログ業界の実態も交えながら解説します。
また、バイヤーや若手購買担当者、サプライヤーも必ず押さえておきたい実践ノウハウについても丁寧に解説します。
品質保証期間とは何か?現場実務に即した定義
品質保証期間の基本的な意味
品質保証期間とは、メーカーやサプライヤーが「この期間内であれば当社の責任で無償修理・交換を対応する」と約束する期間のことです。
例えば家電製品であれば「1年間の無料修理保証」といった文言がカタログや保証書に記載されており、これが品質保証期間にあたります。
自動車や産業機械などBtoBの工業製品においても、契約書や仕様書に「納入後◯ヶ月間不具合発生時は無償対応」等の記載があります。
保証期間=期待寿命 ではない点に注意
品質保証期間は、あくまでメーカーやサプライヤー側が「責任を持つ」と明言する”法的または契約上の義務期間”です。
製品の寿命、つまり「どれだけ長く使えるか」という期間とは必ずしも一致しません。
工場現場ではしばしば「保証期間が切れたとはいえ、すぐ壊れるのはおかしい」という意見が出ますが、保証期間は「お客様の故障リスクをメーカーが肩代わりする期間」であることを再確認してください。
保証期間を決定するロジックと交渉のポイント
メーカーやサプライヤーは、過去の品質実績、不良率、クレーム履歴、市場での競争条件(他社事例との比較)など様々な観点から保証期間の長さを設定します。
バイヤーとしては、調達価格や信頼性リスクと保証期間のバランスを見極めつつ、必要に応じて長期保証を交渉する場合もあります。
この交渉過程で「保証期間=寿命」と誤解して主張するとトラブルの元になりますので、仕様書・契約書の文言には十分注意してください。
製品寿命(設計寿命)とは何か?製造業の裏側から見るリアル
製品寿命の定義と意義
製品寿命、または設計寿命とは「この製品は通常の使用条件であれば、何年または何万回まで性能を保持することを目標に設計されている」という意味です。
例えば、あるベアリングが「設計寿命10000時間」とあれば、平均的な使い方の場合10000時間までは概ね不具合なく動作することを目標に設計されている、ということです。
寿命は、実際に「何年持つか」ではなく「この程度まではクレームがほぼ出ないライン」と判断して設定されています。
寿命と保証の混同による典型的な現場トラブル
製品寿命が「10年」と仕様書に記載されていても、メーカーが無償保証する期間が10年という意味ではありません。
購入者様、特に納入先の現場担当者や保全担当者からは「設計寿命10年なのだから10年保証してほしい」という声が多々あがります。
この誤解が充満したまま契約が進むと、後述するような大きなトラブルが発生します。
【事例1】産業装置の納品現場で実際にあった契約トラブル
背景:設計寿命10年 × 保証期間1年
ある中堅製造業では、生産ライン自動化のため新型ロボットアーム(協働ロボット)を新規導入しました。
メーカーの製品カタログには「設計寿命10年」「保証期間1年」の記載があります。
調達担当者は「10年はもつ製品だ」と認識し購入します。
トラブル発生:2年目の予期せぬ故障
稼働2年目にアームの主要モーターが突然故障。
現場の担当者は「設計寿命10年あるはずなのに2年で壊れるのはおかしい」とメーカーに無償修理を要求しました。
しかしメーカー側は「1年保証期間は過ぎていますので有償対応になります」と返答。
現場サイドは「設計寿命と保証期間の区別がない」「説明不足だ」と強く抗議し、メーカー担当者と大きな摩擦が発生しました。
原因分析と現場目線での教訓
この事例の本質は、「設計寿命=保証期間」という思い込みがあったこと、調達契約の段階でその確認やリスク説明がないまま現場に引き継がれたことにあります。
設計寿命はあくまで「平均値」「参考値」であり、全ての製品が必ず10年もつという保証ではありません。
また品質保証期間は「契約書」に記載されている範囲でのみ有効です。
納入後に現場担当へ正確に説明しないと、こうしたトラブルは今後も繰り返されます。
【事例2】昭和的な「口約束・なあなあ契約」の末路
現場あるある:納期優先、契約書の曖昧化
高度成長期から続く一部製造業界では、取引先との「長年の信頼関係」「暗黙の了解」で品質保証や寿命の取り決めが曖昧なまま、契約が成立しているケースが散見されます。
ある業界では、台帳や仕様書には「動作テスト合格済み」「3年保証(口頭)」としか記載がありませんでした。
結果:納品3年後の大規模クレームと損害賠償
数年後、納入製品の一斉故障が発生。
ユーザー先から「元々“3年なら大丈夫”と聞いていた、それより早いのは契約違反」とクレームが殺到、損害調査・弁護士対応にまで発展。
「言った言わない」「そちらは了承していたはず」と双方が食い違い、関係は決定的に悪化。
会社間の信頼も大きく損なう結果となりました。
アナログ業界で今も残る非公式ルールの弊害
昭和的な根回し・なあなあ文化は「現場の柔軟対応」というメリットもありますが、契約リスクや品質トラブルに対しては脆弱です。
グローバル競争が進む中、調達購買部門やサプライヤーは「口約束・慣習」から脱却し、仕様書・契約書面によるドキュメント化に常に意識を向けるべきです。
品質保証期間と製品寿命の違いを明確化するための実践的ポイント
1.調達・購買の現場で絶対すべき「確認事項」
– 製品毎に、保証期間と設計寿命(スペック寿命)が分かるように書面管理
– ライフサイクルコストで調達評価し、寿命短縮リスクやメンテナンス予算も予め取引先と共有
– 契約上の保証期間満了後の”対応可否(有償/無償、部品供給期間など)”も仕様書・覚書等で明確化
こうした「念押し確認」が、思わぬトラブルの防壁になります。
2.サプライヤーとしてバイヤー側の期待値をコントロールする
サプライヤー(供給側)は、自社製品の「設計寿命は理論値」「保証期間は契約上の責任範囲でしかありません」と事前に明示し、バイヤーやユーザーの期待値調整に力を入れる必要があります。
アナログな現場であっても、営業・技術の段階で「保証外でも善処対応しますが、原則は◯年です」などと顧客説明マニュアルを徹底しましょう。
3.品質監査・クレーム管理の仕組みをアップデートする
品質保証部門・現場監査担当者は、「設計寿命の短縮要因(例:温度・振動・負荷条件)」や「実際のフィールドデータ」を継続的に蓄積し、設計値と現実値のギャップを埋め続ける姿勢が重要です。
また「こういう環境下では想定寿命より早く劣化する可能性」や「保証満了後のサポートプラン」についても、現場向けの資料として配布すると効果的です。
まとめ:現場目線・未来志向で「品質保証」と「寿命」を語る
– 品質保証期間と製品寿命は、全く異なる概念です。
– 昭和的アナログ文化や口約束に頼る時代は終わりました。
– バイヤーは保証・寿命・価格だけでなく、メンテナンスやリプレイス計画まで視野に入れる必要があります。
– サプライヤーは責任範囲(保証期間)の明示、ユーザー起因リスクの周知、現場教育資料の整備が必須です。
現場で軋轢が生じても、お互いの立場と背景、業界動向や昔気質な慣習も理解しつつ、新たな地平線=グローバル標準の契約文化・ドキュメントマネジメントへシフトしていくことが、製造業全体の進化に繋がります。
これからのものづくり現場を支える若手購買担当者やサプライヤーの皆さまが、今後一層、契約リスクや品質保証の本質から目を逸らさず、業界の信頼を築く一助となれば幸いです。
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