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災害により納品不能となった契約履行リスクとその対応事例

目次
はじめに:災害リスクと製造業の契約履行
製造業の現場では、長年にわたり安定した生産と納品体制の維持が至上命題とされています。
しかし、近年頻発している地震や台風、水害などの自然災害は、そのバランスを一瞬で崩してしまう力を持っています。
私自身、工場長として数々の災害を経験し、「納期厳守」の重圧と「現場の安全」のはざまで、幾度となく判断を下してきました。
本記事では、そうした災害発生時に直面する納品不能、つまり契約履行リスクと、現場で実際にとられた対応策について掘り下げていきます。
アナログ体質が色濃く残る製造業ですが、ラテラルシンキングの視点を持つことで解決の糸口が見えてきます。
これからバイヤーを目指す方、既にサプライヤーとしてバイヤーの心理を読みたい方にも、実践的なヒントを提供します。
契約履行リスクとは何か?製造業の特徴的な背景
まず「契約履行リスク」とは、サプライヤーが納期や品質など契約条件通りに製品やサービスを提供できなくなるリスクを指します。
災害時は製造ラインが停止したり、原材料の入手が困難になったり、本社との連絡が断たれたりするため、通常以上に履行障害が発生しやすくなります。
製造業は、規模が大きくなるほどサプライチェーンが複雑化し、「一つのネジが入らないだけで全社停止」という事態も珍しくありません。
ここで焦点となるのが、製品ごと・業務ごとの「固有のリスク」と、アナログな現場対応の限界です。
製品ごとに異なる要素、たとえば専用金型・特殊材料の調達難易度、工程の属人化、連絡系統の風通しの悪さなどが、さらにリスクを増幅させます。
災害による納品不能リスクの事例と現場の実態
1. 地震による生産設備の損壊とボトルネック
東日本大震災の際には、広域にわたり工場設備が損壊し、一部エリアでは電力供給も絶たれました。
私の現場でも主力ラインのプレス機が稼働不能となり、部品製造がストップ。
即座に予備のラインや外注先の稼働を検討したものの、同様に近隣サプライヤーも被災。
復旧に最低でも数週間がかかることが判明し、顧客との約束納期が守れなくなりました。
このように「局所的な被害」が「サプライチェーン全体のボトルネック」になり、納品不能リスクが一気に顕在化するのが特徴です。
2. 台風や水害による物流の遮断と情報連携の遅れ
関西を襲った大型台風のケースでは、工場自体は無事でも物流インフラが麻痺して出荷できない事態が発生しました。
特に2020年以降は、物流会社の人的リソース不足やパンデミック対応が重なり、伝統的な「電話連絡・FAX通販」方式では柔軟な動きが取れないことを痛感しました。
「倉庫には在庫があるのに届かない」という事態は、現場にもバイヤーにも強いストレスを与えます。
この時、バイヤー側の動きが遅れていると本社−現場間のコミュニケーション断絶も起こり、双方の不満が爆発しがちです。
3. 下請けの被害とアナログ管理の限界
ある精密部品サプライヤーが下請先の水害で型枠を失い、通常1か月で納品していた部品が数か月遅れる事態もありました。
このサプライヤーは「手作業+台帳管理」を主流としていたため、社内の切り替え対応や被害把握にも大きなタイムラグが生じました。
被害実態が正確にバイヤーへ伝わらないことで、誤解や信頼失墜にもつながりかねません。
こうしたアナログ管理の弱点は、災害時に特に大きな課題となります。
契約上の取り決め:不可抗力条項の現実
契約書の多くには「不可抗力条項」(フォース・マジュール)が盛り込まれていますが、その解釈と運用は、いまだに曖昧なまま運用されている例が少なくありません。
大手メーカー同士の契約では、地震・台風・水害といった天災が履行責任の免責事由として挙げられます。
しかし、だからといって「何も対応せずに免責に甘んじる」わけにはいきません。
災害発生時における契約管理部門・法務部門との迅速な連携、事実の記録(写真・報告書)や与信管理対応など、後からトラブルにならないための手当が不可欠です。
また、下請けからの情報が正確にバイヤーへ伝わってこそ、「免責も受け入れられる」のが現実です。
現場の実情と契約解釈が乖離すると、「相手の危機感/誠意が伝わらない」と双方に不信感が生じるため、日頃から意識合わせをしておくことが非常に重要です。
製造業の現場で実施された対応策:実践事例
1. 二重化(冗長化)とBCP(事業継続計画)の推進
大手自動車部品メーカーでは、主要設備のダブル化や金型のバックアップ管理を10年以上前から強化しています。
自工場が被災した場合でも、協力工場での代替生産・在庫出荷が可能な体制にしています。
また、災害時には即座にBCPチームを立ち上げ、3役横断で意思決定スピードを上げることも徹底しています。
これにより「大口顧客への最低限供給」「被害情報の迅速共有」という基本対応が機能しやすくなりました。
2. 情報伝達手順のデジタル化と見える化
古くは電話・FAXが主流でしたが、近年はグループウェアやメール、WEB報告システムの活用に転換しています。
災害時には「メッセージを1本送るだけで現場→役員→バイヤーまで即時伝達」が可能になり、判断の遅れが激減しました。
顧客・サプライヤーとの間でも「災害時はまず速報、次いで詳細報告」というルールを設け、最低限の信頼維持に貢献しました。
アナログをデジタル化することで、現場の“なんとなく情報”が“定量的データ”に昇格し、社内外の意思決定が変わってきた実感があります。
3. 顧客とのコミュニケーション強化と代替案提示
納品不能が判明した際、現場目線での代替提案(納期後ろ倒し、仕様変更、別品番への振替等)を即座に提示することで、長期的な信頼を繋ぐことができます。
たとえば、主要品番の納期遅れが避けられなかった際は「緊急度が低い製品を後回しに」「簡易パッケージで初回納入」など細かな配慮を加えることで、バイヤー側もリスクを抑えたオペレーション設計が可能となりました。
これには、「現場からの仕掛け」「顧客部門との横断連絡窓口」が欠かせません。
バイヤーとサプライヤーの信頼関係構築:業界のアナログ的土壌と未来
現場を知る人間として強調したいのは、「災害時こそ普段のコミュニケーションの積み重ねがものを言う」という点です。
ある意味、製造業界は昭和からの人間関係重視文化が色濃く残っており、雑談や現場視察、食事会といった“余白の交流”が、危機の際に「お互い様」の精神を生み出します。
このアナログ的なつながりがあったからこそ、「現場は大変だ、待つから大丈夫だよ」と言ってくれたバイヤーの存在も忘れられません。
一方で、今後は「災害というマクロリスク」と「属人化というミクロリスク」の両方を同時にマネジメントしていくことが不可欠と考えます。
業界全体への提言:アナログの強みとデジタルの融合を
災害による納品不能リスクへの対応には、アナログの泥臭さとデジタルの効率性の両立が求められます。
日常的なルート連絡や現場主導のアイディア提案と、即時性・正確性を高めるデジタルツールの活用は、決して二律背反ではありません。
むしろ両者を併用し、平時こそ「バイヤーとサプライヤーの距離感を適切に保つこと」、そして「非常時には両者の意地をかけた挑戦」が重要です。
ラテラルシンキング的視座でいえば、「災害がチャンス」と捉え、新たな工程短縮やサプライヤーネットワーク拡張を仕掛けるのも一案です。
災害時のリスクは「決して人ごとではない」と肝に銘じ、現場に即した柔軟な対応力を磨くことこそ、これからの製造業界にとって最大の武器になると確信しています。
おわりに:これからの製造業で働く皆さんへ
災害リスクは、誰にとっても避けて通れない現実です。
経験豊富な現場でも、毎回「今回も乗り切れるか」という不安を抱えながら、粘り強く対応しています。
バイヤーを志す方、現場で苦戦しているサプライヤーの皆さんにも「リスクを前向きに捉え、情報と信頼を武器にする」視座を持ってほしいです。
そして、世代や技術が変わっても、人と人とがつながり合うことで、困難を乗り越えられる業界であり続けてほしいと願っています。
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