投稿日:2025年9月2日

コマーシャルタームのミス解消で価格条件と物流条件のねじれを防ぐ契約実務

はじめに:コマーシャルタームの重要性を再認識する

製造業の現場で調達・購買業務を担当していると、日々多種多様な契約に関わることになります。
その中で、コマーシャルターム(商取引条件)は、価格や納期といった経済条件だけでなく、物流やリスク分担など複雑な要素が絡み合う重要な契約要素です。

近年、グローバルサプライチェーンの強化やデジタル化が進む一方で、いまだに昭和時代から続く “なあなあ” や “言わずもがな” 文化が根深く残る場面も散見されます。
実際、多くの調達・購買現場やサプライヤー間では、コマーシャルタームの誤解や曖昧さが原因で、価格条件と物流条件の「ねじれ」問題が発生しやすくなっています。

本記事では、コマーシャルタームのミスが引き起こす具体的なトラブルを解説するとともに、その解消方法や実務に役立つラテラルシンキング的アプローチを紹介します。
この記事が、製造業の現場で働く方々や、これからバイヤーを目指す方、またサプライヤーとしてバイヤーの考えを理解したい方のお役に立てば幸いです。

よくあるコマーシャルタームのミスと現場で起こる「ねじれ」

INCOTERMS(インコタームズ)に潜む落とし穴

商取引において「FOB」や「CIF」、「DDP」などのインコタームズは不可欠です。
しかし、現場ではその意味が十分に理解されず、実態と食い違った契約になっているケースが驚くほど多いのが実情です。

たとえば、「FOB(Free on Board)」の場合、本来は船に積み込むまでが売主の責任となります。
しかし、物流実務をよく理解していない場合、「FOBなら運送費がバイヤー持ち」という表層的な理解だけが先行し、細かいリスク移転や保険手配について曖昧なまま進んでしまい、後でトラブルになることがあります。

“送料込み”誤解に起因するコストのねじれ

“送料込み”や“運賃別”の契約条件でも、どの地点までの送料を指すのかが明確でない場合が実は多いです。
これにより、工場渡しなのか倉庫持込みまでなのかの認識がバイヤーとサプライヤーで違ってしまい、輸送手配をめぐる責任やコストの押し付け合いが発生します。

“これくらい分かるだろう”という阿吽の呼吸に頼る日本的商慣習は、国際取引や多拠点化が進む現代では通用しません。

“インボイス価格”と“総コスト”の認識違い

価格交渉の場面でも、提示されたインボイス価格(値札価格)が全体コストと誤解され、本来発生する現場着荷までの費用(追加納品費用や梱包費、通関費用など)が抜け落ち、「後出しジャンケン」的な請求や、発注後の価格トラブルが起こりがちです。

結果、コマーシャルタームの認識ミスによる“価格条件”と“物流条件”のねじれが、関係者全体の手戻りや信頼低下を招きかねません。

なぜコマーシャルタームのねじれが起きるのか〜昭和的アナログ現場の壁

対面交渉・電話・FAX文化の名残

現場では今も「対面主義」や「電話・FAXで済ませる」文化が色濃く残っています。
口頭確認やFAX文章では細かい条件の履歴が残らず、相互の認識齟齬がトラブルの元になりやすいです。
また、ベテラン担当者に頼りがちな人依存体制も、暗黙知や慣例が優先される原因となります。

曖昧な契約書類・契約管理の杜撰さ

契約書や注文書の書き方が習慣的・テンプレート的であり、“コマーシャルタームはいつもの通り” “現場にお任せ” など曖昧に処理されるケースが多いのも実態です。

物流条件や値付け条件が不十分なまま押印・承認されてしまえば、後々の問題発生時に過失の所在があいまいになり必然的に“現場負担”が増します。

サプライヤー・バイヤー間の心理的距離感

昭和的な「御用聞き」「親密な関係性重視」の流れが残る現場では、「条件確認は失礼」という日本的気質も影響し、言いたいことや細かい説明を避ける傾向が見られます。
そのため、本来明文化・共有されるべきコマーシャルタームがブラックボックス化しがちです。

ねじれを防ぎ、現場力を高める実務ポイント

1. コマーシャルタームの見える化・標準化

まず、自社内で用いるコマーシャルタームを標準フォーマットとして明文化し、社内外の関係者と必ず共有することが第一歩です。

たとえば、「FOB大阪港(含む保税倉庫費)」のように具体的に詳細まで記載することで、誤解を最小限にできます。
サプライヤーとの間では「いつ、どこまで、誰の責任か」を絵やチャートで示し、“誤解の余地ゼロ”を目指します。

2. 契約時に「抜け・漏れチャート」活用

「物流条件」「搬送範囲」「追加費用」などを洗い出す『抜け漏れチェックリスト』を契約時の必須アイテムとして活用します。
たとえば

– 原料調達〜工場納品までの全工程を書き出す
– それぞれのポイントで「誰がコスト負担/手配責任を持つか」列挙
– 万が一トラブル(納期遅延、事故等)が起きた時の初期対応先も明示

など“段階ごとに責任の所在を明確化”することが重要です。

3. デジタルツール活用による情報の一元管理

現場にも浸透しやすい簡易なクラウド管理表やチャットツールを使い、最新の契約条件や変更履歴を全員で常時確認できる体制を作ります。

例えばGoogleドライブやBox、Slackの専用チャンネルなどを活用し、メールやFAX送信・受信履歴も併せてファイリング。
情報の一元化により“言った/言わない”問題を防止できます。

4. サプライヤー・バイヤー間の“心理的安全性”の創出

昭和的な「言い出しにくい」「相手任せ」の空気感を変えるために“リスク共有ミーティング”や“条件再確認の一斉実施日”を設けることも有効です。
「お互いの認識を一致させましょう」とオープンに提案することで、サプライヤー・バイヤー双方のコミュニケーションの質が格段に向上します。

グローバル基準への適応と、ラテラルシンキングによる新地平の開拓

多様化する調達・物流にどう対応するか

国際化やサプライチェーンの多様化が進む現在、従来の「ひとつの正解」や「日本流」だけを頼りにしては対応できません。
たとえば

– 欧州型サプライチェーンでは物流拠点や通関事情が大きく異なる
– 新興国からの調達では途中リスクやイベントが想定外に生じやすい
– サプライヤーも多拠点・多国籍化し、各地ごとにインコタームズ慣行が異なる

といった課題が現実に登場します。

ラテラルシンキングで“現場DX型コマーシャルターム”を考える

足元の「コマーシャルタームの抜け」問題解消だけでなく、DX発想を取り入れた新しい契約実務にもチャレンジしてみましょう。

たとえば

– AI契約書チェックツールでコマーシャルタームの誤用検知
– IoTデバイスと連携して物流ルートごとのリスク予測・保険付帯条件の最適化
– ブロックチェーン型スマートコントラクト(自動契約)の実証

など、技術の力で“ねじれ”そのものを発生させない次世代の実践方法も生まれつつあります。

まとめ:製造業の発展に向け、“コマーシャルターム力”を磨こう

コマーシャルタームのミスは、単なる契約事務の問題にとどまらず、発注コストや納期、トラブル対応まで事業全体に大きなインパクトをもたらします。
「昭和的慣習」のままでは、グローバル競争の荒波を乗り切ることはできません。

現場で実践できる工夫や、デジタル活用による情報一元化。
サプライヤー・バイヤー相互理解の深化。
そしてラテラルシンキングを取り入れた“新しい地平”の開拓。

これらを実行し、「コマーシャルターム力」を現場の強みとすることが、これからの製造業には求められています。

日々の契約実務を、未来への成長につなげる第一歩として、今日から“コマーシャルタームのねじれ”を解消し、正しい条件設定を意識してみてはいかがでしょうか。

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