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本船スペース逼迫期に共積みコローダー経由で起きる追跡不能を防ぐ契約

目次
はじめに:製造業のグローバル調達と本船スペース逼迫の現状
2020年代に入り、製造業のサプライチェーンはいつにも増して複雑化し、変動要素が増しています。
特にコロナ禍以降、グローバルな物流網は不安定化し、本船スペース(コンテナ船の積載スペース)の逼迫が慢性化。
国際輸送には「スペースが取れた!取れない!」がビジネスの生命線となるほど、調達と購買の現場はその日々の対応で右往左往することも珍しくありません。
この逼迫期には、スペース確保のため「共積み」(LCL:Less than Container Load、複数社の貨物を一本のコンテナで相積み)や「コローダー経由」(第三者の中継業者を挟む貨物引き渡し)が増加します。
こうした際に、荷物の「追跡不能」という重大リスクが発生します。
調達購買担当者もサプライヤーも、こうした問題を肌で感じているはずです。
この記事では、組織や業界の慣習を超え、現場目線の実践的なルール設計と、追跡不能リスクをどう防ぐべきかという観点で、契約のポイントや交渉術、業界動向について解説します。
製造業に携わるすべての方、さらにはバイヤーを目指す若手、サプライヤーの営業担当者にも役立つ情報をお届けします。
本船スペース逼迫期に起こること
スペース確保のための「共積み」と「コローダー経由」
通常、貨物を輸出する際は、メーカーやサプライヤーが自社の貨物分だけフルコンテナ(FCL)で手配することが理想です。
しかし、船会社側でスペースに余裕がなくなると、複数荷主の貨物を1本のコンテナで共積みするLCLが増加。
また、直接船会社と契約できず、ブッキング権限や輸送ノウハウを持つ中継業者やコローダー(フォワーダー)を経由する取引形態が拡大します。
なぜ追跡不能が起こるのか
コローダー(NVOCC:非船会社系海上運送業者)の場合、複数社の貨物をまとめて引き受け、独自発行のB/L(BL:船荷証券)や配送番号をつけます。
荷主にとっては、元の荷物が同じコンテナ内でどうなっているのか、実際にいつ・どこの港で積み替えたのかなどの詳細が分かりづらくなるのです。
また、中継業者がさらに別のフォワーダーに委託している「多重委託」や、急なブッキング切り替え(スケジュール変更)の際、情報伝達が遅れる・伝達が途切れることもしばしば。
昭和的なFAXによる連絡や、メールの埋もれで情報が錯綜するアナログ業界体質にも起因しています。
現場で起こった典型的な追跡不能トラブル
ケース1:到着遅延&原因不明
実際に私の経験では、LCLによるコローダー利用で、現地倉庫への到着予定日から1週間遅延。
「どこで止まっているのか?」の問い合わせにも、サプライヤー→フォワーダーA→コローダーB→船会社C…とたらい回しになり、結局運送状況が2週間遅れでしか判明しなかったケースがありました。
ケース2:貨物の一部紛失
複数社混載のため、1社分だけ一部が紛失。
B/L情報からは「コンテナに積載済」だが、開梱時に現物が見当たらない。
誰が当事者責任を持つか不明確で、補償交渉にも膨大な時間を要しました。
なぜ追跡不能は起こるのか
アナログな業界体質とデジタル化の壁
・メール/FAX/電話がデフォルト、各社ごとに管理台帳やB/L管理システムがバラバラ
・NVOCCが独自番号・伝票を発行し、オリジナルB/Lの写しやPDFしか残らない
・場当たり的なブッキング変更で情報伝達がズレる
・輸送上のトラブル責任(「運送約款」)があいまい
これらは、業界全体が長年の商習慣とアナログ運用体質から脱却できていないために起きている典型例です。
防止策1:契約時の明文化で“見える化”を進める
1. 責任の所在を細分化して明確に定義する
「出荷時点」「輸送中」「港での積み換え」「目的地到着」それぞれにおいて、誰が情報管理責任者で連絡窓口かを契約書に明示することが重要です。
【例】
・荷主(サプライヤー):どの時点まで出荷責任を持つか
・コローダー:B/L番号・混載状況・最新輸送進捗の共有責任
・フォワーダー:緊急事態発生時の対応責任
2. 情報連携ツールの義務化
たとえば、「輸送進捗はWebトラッキングシステムで常時更新」「トラブル時は担当者名と原因・対応策を24時間以内にメール連絡」など、ルールを契約文書に反映させておくことが肝心です。
多重委託が発生する場合は、「下請けを含むサプライチェーン全構成員が同一システムでデータ共有」の義務付けも有効です。
3. トラブル時の補償ルールを具体化
遅延や荷物の紛失・破損が起きた場合、「どの時点の誰が」「どの範囲まで責任を持つか」「補償額はどのように算定するか」を事前に協議。
事業継続計画(BCP)の一環として盛り込むことで、交渉トラブルを減らせます。
防止策2:現場目線の“追跡不能”撲滅プロセス
1. FCL(フルコンテナ)優先原則
どうしてもLCLでは追跡リスクが上がります。
重要部材や納期遅延許容度が低い貨物は、コスト増でもフルコンテナを優先し、リスクマネジメントを徹底するべきです。
2. 複数経路の「見える化」・並行トラッキング
可能な限り、リアルタイムで複数経路から情報取得できる体制を作り、サプライヤーもバイヤーも常に最新状況を見える状態に。
たとえば各種マスターB/LとサブB/Lの突合せ、IoTタグ(GPS)などの併用で物理的なトラッキングも試みましょう。
3. コローダー選定・評価基準の見直し
コローダーやフォワーダーを価格だけで選ぶのではなく、「情報連携」「ISO9001等の品質マネジメント体制」「トレーサビリティ実績」を重視した選定指標に変えることがカギです。
アナログからデジタルへの転換潮流と、業界の動き
現在、業界全体でもIoTやEDI(電子データ交換)、ブロックチェーンによるB/L管理など、デジタル化の波が急速に訪れています。
大手船会社や物流業者も標準化・プラットフォーム化への動きを強めており、サプライチェーン全体の情報一元管理に注力しています。
その一方、国内の中小業者では「紙の伝票」「電話・FAX」ベースの運用が根強く残り、過渡期ならではの混乱も散見されます。
バイヤーが主導して、「デジタル化要件」をサプライヤーやフォワーダーに求める契約方法が、昭和的体質からの脱却の第一歩です。
バイヤー/サプライヤーのそれぞれの視点からのアクション
バイヤー側(購買担当者)の戦略
・本船スペース逼迫時のLCL利用条件、情報開示・保証範囲を契約書で事前明文化
・物流会社・コローダーの情報共有力、対応スピードを毎回評価・フィードバックする仕組みを構築
・社内に「緊急時マニュアル」を整備し、本船遅延時の上層部報告・顧客への事前連絡までルーチン化
サプライヤー側(出荷担当者)の工夫
・混載・コローダー経由時でも、必ず出荷連絡とB/L番号・積荷状況をメールで画像付き報告
・最新のフォワーダー・船会社情報を常に入手し、問題が起きそうな場合は速やかにバイヤーにエスカレーション
・トラブル時に自社の責任範囲と実行できる対応範囲を即答できる現場力の向上
まとめ:現場主導の“見える化”が業界を変える
本船スペースの逼迫は、今後もしばらくは製造業の現場に続く課題です。
アナログ体質や複雑な業界構造が絡み、混載やコローダー経由では「追跡不能」のリスクが増します。
そのリスクを減らすためには、デジタル技術の導入とともに、契約での責任洗い出し・情報開示義務を当事者間でしっかり明文化し、地道な現場主導の改善サイクルを根付かせることが肝心です。
製造業のバイヤーもサプライヤーも、業界慣習や「当たり前」を一度疑い、目の前のリスクやトラブルを「自分ごと」として直視し、現場目線から勝てるサプライチェーン構築を進めていきましょう。
今後の業界の未来は、現場で働く一人ひとりの意識とアクションから必ず変えられます。
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