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量産中止の際に発生する未使用部材費をめぐる契約上の責任分担

目次
はじめに:量産中止という現実と向き合う製造現場
製造業において、「量産中止」というのは決して珍しい出来事ではありません。
市場の急激な変化や新技術への移行、あるいは顧客の戦略変更によって、これまで量産が続いていた製品の生産が突然打ち切られることは日常茶飯事です。
こうした事態が発生すると、現場で頭を悩ませるのが“未使用部材”の扱いです。
特に、その未使用部材の費用(未使用部材費)について、発注側(バイヤー)と供給側(サプライヤー)のどちらが責任を持つべきなのか、契約に基づいた極めてシビアな交渉へ発展しがちです。
この記事では、筆者自身の長年の製造業経験と現場での実践を踏まえ、この「未使用部材費をめぐる契約上の責任分担」について、実務目線で深掘り解説します。
サプライヤー・バイヤー問わず、製造業に関わる全ての方の参考となる知見を、ラテラルシンキング的に提示いたします。
量産中止時の未使用部材とは何か
「未使用部材」と「死蔵在庫」の違い
意外と混同されがちなのが、未使用部材と死蔵在庫の違いです。
未使用部材とは、すでにサプライヤーが調達済みでまだ組み立てや生産に投入されていない部材のことです。
これは通常、バイヤーとの契約(購買注文書、基本契約書など)に基づいて、サプライヤーが生産計画を立てて手配しています。
一方、死蔵在庫は、量産終了や廃番、設計変更などで将来的にも使い道がなくなった在庫全体を指します。
未使用部材費とは、前者──すなわち「未使用のまま残ってしまった部材の調達費」をめぐる費用負担のことなのです。
なぜ未使用部材が発生するのか
未使用部材は主に以下の理由で発生します。
– 突然の仕様変更や設計変更
– 顧客事情や市場変化による量産スケジュールの見直し・中止
– 部材調達と生産タイミングのズレ
– 部材の発注リードタイム対策としての先行手配
このような現実を理解せずに理論だけで責任分担を論じると、必ず現場とのギャップが生まれます。
現場目線としては、「なぜ未使用部材が手元にあるのか」をしっかりと洗い出すことが出発点です。
契約観点から見た責任分担の基本的な考え方
契約条文における未使用部材の扱い
近年、多くの大手企業では調達基本契約書や個別契約書のなかで、未使用部材に関する条項を設けています。
一般的に以下のような内容が定められることが多いです。
– バイヤー(発注側)による納入中止や数量変更の場合、サプライヤーが合理的な範囲で調達した未使用部材の費用をバイヤーが補償する
– サプライヤーに帰責すべき原因(過剰手配、誤発注、勝手な先行手配など)がある場合はサプライヤー負担とする
– 未使用部材の処分方法(返品、引き取り、他用途転用など)は協議のうえ決定する
しかしながら、契約書の記述はあくまで大枠であり、「合理的な範囲」「協議」など曖昧な表現も多く、現場では個々のケースで揉めることも珍しくありません。
「合理的な範囲」とは結局どこまでか
「合理的な範囲での調達」が責任分担の分かれ目ですが、「合理的」の捉え方は業界や企業文化によって大きく異なります。
例えば、
– 月次または週次で決められた確定手配分まで
– バイヤーから書面やメール等で発注指示・承認を得た分だけ
– 特殊部材や長納期部材は、リスクを説明して承認取得した分まで
といった判断基準が実務では多いです。
特に日本の製造業では、昭和時代からの「現場主義」「暗黙の了承」が残っており、文書化不十分なまま手配を進め、その後で数量やタイミングで揉めることも散見されます。
契約管理のデジタル化が遅れている業界では、“口約束”や“従来の慣習”に頼りがちで、これがトラブル元になることを深く理解する必要があります。
現場で実際に起きる未使用部材費トラブル例と教訓
トラブル事例1:設計変更による突然の量産中止
ある大手電子部品メーカーでは、顧客要望で製品仕様が急変し、突如量産の中止を決断しました。
サプライヤーは、顧客から明文化された手配指示がなかった部分まで自社判断で調達を進めていたため、「どこまでが補償対象か」で紛糾しました。
結局、「顧客に事前にリスク報告し、承認を得ていた長納期部材のみバイヤー負担、それ以外はサプライヤー負担」となりました。
ここから得られる教訓は、「合意・記録・承認」のプロセスを普段から徹底し、口約束に頼らない仕組みに移行することです。
トラブル事例2:バイヤー戦略変更と在庫引き取り
自動車部品業界でよくあるケースですが、バイヤー側の調達戦略見直しに伴い、海外のサプライヤーとの契約を急きょ中断。
未払いとなった部材在庫の引き取りをめぐり、金額査定や物流費負担でもつれました。
グローバル調達の場合、為替や関税の問題も絡むため、「単純な部材代金」以外に見落とされやすいコスト(物流保管費、返送費、処分費など)も、事前に範囲を取り決めておくことが重要だと分かります。
トラブル事例3:生産能力トラブルと先行調達リスク
国内サプライヤーが「生産能力確保のための先行手配」を独断で進めていたが、結果としてバイヤーの需要見込みが外れて余剰在庫を抱えたケースです。
「需要不確定な分は自社リスク」と元請けから一刀両断されたものの、裏で担当バイヤーとの“阿吽の呼吸”があったため、現実には担当者同士の人間関係がぎくしゃくしました。
昭和的な「なあなあ」と「忖度」に依存した商習慣は、やはりフェアな契約管理に進化させることが求められる時代です。
契約に頼らない現場力だけでは限界がある
「現場主義」「忖度主義」は通用しない時代へ
昭和的な製造業では、現場ノウハウや担当者の裁量、長年の信頼関係に支えられてきたのが実情です。
しかし、グローバル化・コンプライアンス重視の流れに加え、DX(デジタル・トランスフォーメーション)化の要求も強い現代社会では、“根回し・忖度”による運用は徐々に通用しなくなってきました。
– バイヤー:訴訟リスクや予算厳格化で曖昧運用を許容しない
– サプライヤー:証拠保全、説明責任の強化をプレッシャーとして受ける
こうした時代背景から、“紙と印鑑、口約束中心のアナログ管理”からデジタル・証憑保存への移行は必須と言えるでしょう。
サプライチェーン全体最適の視点が不可欠
部材費の負担問題を「契約だからこちらの責任・そちらの責任」と単純に線引きするだけでは、サプライチェーンの断絶や供給危機につながるリスクがあります。
なぜなら、あまりにドライな分担を迫れば、サプライヤー側はリスクを恐れて部材調達の機動力を落とさざるを得ません。
一方、バイヤー側も“絞るだけ絞る”方針が結局は調達困難やコスト増加を招くリスクがあるのです。
「契約遵守」と「現場の柔軟性」の両面をバランス良く活かしたサプライチェーン・マネジメントが、今後ますます重要になります。
今後求められる実践的な対策
1. 契約プロセスの透明化・デジタル化
– 契約や購買指示の記録・保存を紙から電子データへ全面移行
– 手配承認や条件変更のプロセスをワークフローシステムで管理
– 未使用部材発生リスクに関する事前協議やリスク報告書の徹底
2. 柔軟でシンプルな補償・分担スキームの導入
– “定型的な補償ルール”では対応できないイレギュラー案件を事前に協議
– 柔軟な引取・転用・廃棄などオプションを契約に盛り込む
– 物流費や事務コストなど“見落としやすい費用”も分担基準を明示
3. サプライヤー側の自衛策
– 長納期部材や高額部材の手配前に“承認・見積提出”を慣例化
– 毎月の在庫報告や部材手配進捗会議で“見える化”を義務化
– 契約内容・補償範囲のガイドラインを自社側にも明示し交渉材料にする
4. バイヤー(発注側)の工夫
– サプライヤーへの手配連絡や調整背景を「書面」「システム」で残す
– 仕様変更や中止の場合は“速やかかつ具体的なリスク補償説明”を提供
– 単価だけでなく“柔軟な在庫補償・部材分担”まで含めた総合パートナー評価を行う
まとめ:進化する分担スキームで強靭なサプライチェーンへ
量産中止時に発生する未使用部材費の責任分担は、契約条項と現場運用の歪みが表面化しやすい領域です。
アナログな時代から続く“慣習と忖度の狭間”で曖昧になりがちですが、これからの時代は「デジタル化による透明化」と「全体最適の視点」を融合させる判断軸が必要です。
契約による自衛と現場ノウハウによる柔軟性、その両輪をバランスよく回し、“誰も泣き寝入りしない仕組み”の構築を目指しましょう。
この記事が、製造業の現場でより良いサプライチェーン・マネジメントを実現するための一助となることを願っています。
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