投稿日:2025年12月14日

製造リードタイムより“出荷準備リードタイム”が長くなる矛盾

はじめに:見落とされがちな“出荷準備リードタイム”の真実

製造業の現場では「リードタイム短縮」がかけ声のように叫ばれ、各工程での時間短縮や自動化、省力化が日々追求されています。
その中で、“製造リードタイム”の改善には多くの企業が力を入れてきました。

しかし、意外と盲点となっているのが“出荷準備リードタイム”の存在です。
一見、製品が完成すればすぐに出荷できそうに思えますが、実はこの“出荷準備リードタイム”が製造リードタイムよりも長くなる、奇妙な現象が多くの現場で起こっています。

この記事では、なぜこんな矛盾が起こるのか、実際の現場目線で深掘りし、今も昭和のアナログ文化が根強く残る日本の製造業の現状や、その打開策についてラテラルシンキングで考察していきます。

製造リードタイムと出荷準備リードタイムの違い

製造リードタイムとは何か

製造リードタイムとは、資材や部品の受入れから製品の完成までにかかるすべての工程上の時間を指します。
調達、加工、組立、検査、梱包まで含む場合もあれば、工場間の定義によって細かな違いもあります。

最近はIoTやMESなどのデジタル技術、トヨタ生産方式に代表されるカイゼン活動、工程間のかんばん方式など、さまざまな仕組み改革が進み、「無駄」を省く努力が当たり前になっています。

出荷準備リードタイムとは何か

一方で、出荷準備リードタイムとは、完成した製品を「確実に顧客へ届ける」ための準備作業すべてに要する時間のことです。
梱包・最終検査・伝票処理・ラベル張り・出庫指示・出荷エリア移動・運送会社の手配・納品用書類の作成など、多岐にわたります。

昭和世代のアナログな管理手法から、部分的にデジタル化したものの完全自動化には程遠い現場も多く、“最後の山場”として多くの問題が噴出しやすいのです。

なぜ製造リードタイムよりも出荷準備が長くなるのか、その根本原因

製造現場でよく聞くのは「製造は2日、出荷準備に3日かかる」という声です。

なぜこのような逆転現象が起こるのでしょうか。
筆者の20年以上の経験から、実際の現場でよく見られる根本的な原因を整理してみます。

1. サイロ化した部門構造と情報伝達の壁

品質管理・生産現場・物流・経理・営業など、部門ごとに目的や業務の優先順位がバラバラです。
たとえば「品質管理部門は検査書類を正しく作成すること」が最大のミッションですが、現場・物流部門は「1分でも早く倉庫へ運び出したい」と考えます。
この結果、書類のやりとりや検査の承認待ち、システムへの転記、各部門間の確認作業が累積し、出荷準備が滞留します。

2. 出荷関連の作業が「自動化」されていない

製造工程は最新設備やセンサーで自動化が進んでいます。
一方で出荷準備作業は、人手依存の比重がいまだに高いのが現状です。
特に昭和から続く慣習により、手書き伝票、手押しハンコ、紙ベースでの出荷指示といったアナログ作業が根付いています。

社内システムと倉庫在庫システムが連携していない、Excelによる個人管理などが“手待ち時間”を生み、作業の効率化を妨げています。

3. 多品種小ロット化による手間の増加

現代の日本の製造業、とくに下請け・部品メーカーに多いのが「多品種・小ロット生産」です。
こうなると、出荷伝票も細分化し、梱包作業や検査手順も都度変わります。

大量生産ラインでは仕組み化しやすい作業も、カスタマイズが求められる“少量多品種”では属人的ノウハウに依存し、標準化や自動化が進みません。
そのため一つひとつの手作業が積み重なり、出荷準備時間が膨れ上がる現象が生じます。

4. 出荷手配や配車の外部依存・調整コスト

運送会社や物流センターへの配車手配は場合によっては1週間前から予約が必要です。
そのため、製品完成から出荷まで“空白”が生まれ、結果的にリードタイムが延びています。
とくに繁忙期やイレギュラー案件では、遅延の温床となります。

5. 「出荷検査」の属人化・ダブルチェック主義

一度の検査で合格すれば良いはずなのに、現場によっては「出荷用の最終検査」「品質管理部門チェック」「ピッキング時の再確認」など、複数段階にわたり同じものをチェックするケースが多く見られます。
これは“もし不良品が顧客に届いたら大変だ”という昭和的リスク回避思考によるものです。
本来不要な重複検査が、出荷までのリードタイムをさらに圧迫してしまいます。

現場目線で考える“昭和的アナログ文化”の落とし穴

日本のものづくり現場には素晴らしい職人技と共に、「前例踏襲」「人が見てるから安心」「書類の山で管理する安心感」といった文化が根強く残っています。

この“アナログ文化”は、現場での柔軟な判断や危機対応力という強みを持つ一方で、変化への適応・標準化・デジタル化の足かせとなる場合が多いのです。

特に以下のような昭和アナログの落とし穴には注意が必要です。
– 「管理職の承認サインがないと次へ進めない」
– 「FAXで注文書が届くまで作業開始できない」
– 「帳票が棚に並ぶのを“管理”と呼んでいる」
– 「ミスを防ぐための“追検査”がやめられない」

このような伝統的文化の見直しを進めない限り、いくら製造工程そのものを高速化しても、最終的な出荷までのスピード化は達成できません。

バイヤー・サプライヤーにとっての“出荷準備リードタイム”の意味

バイヤーの視点:「なぜ遅い?」「見えない現場の壁」

バイヤーからすれば、「生産リードタイム通りに製品ができているなら、なぜ納期が遅れる?」という疑問が残ります。
また、顧客のSCM部門や設計・調達担当がカレンダー上で逆算して発注しても、出荷準備リードタイムの“ブラックボックス”的存在が予期せぬ遅延原因となりえます。

本当の納期管理には、完成後の“出荷準備”状況まで見通せる可視化が不可欠です。
現場サプライヤーが、自社の出荷準備リードタイムを数値・根拠で「見える化」して説明できる体制は信頼への第一歩です。

サプライヤーの視点:現場力と変化への葛藤

サプライヤーはコスト競争・納期短縮のプレッシャーと戦いながらも、古参ベテラン社員の「俺たちのやり方」への配慮や、顧客独自ルールへの柔軟対応が求められます。
自社の現実的な限界値を明確にしつつ、出荷準備リードタイムを全社で共有、短縮に向けて現場改善のPDCAを回す姿勢が問われます。

また、バイヤー側のシステム更新やEDI導入に合わせて、自社のアナログ部分も一体改革する機会ととらえることが重要です。

未来を見据えた打開策:ラテラル思考で発想の転換を

出荷準備リードタイム短縮のための解決策は、単なる部分最適な改善だけでは届きません。
これからの製造現場は、以下のようなラテラル(水平的・多角的)な発想と現場実践力が求められます。

1.「出荷準備」を“工程”として再定義・標準化する

製造→検査→梱包→出荷指示、といった線形工程の一番最後を“ひとまとめ”として扱いがちですが、出荷準備自体を複数の工程に分解・標準化し、それぞれの工程所要時間を“見える化”→“数値管理”する仕組みを確立しましょう。

「なぜここで○日かかるのか?」を現場ワーカー自身が納得感を持って説明・改善できるガバナンスを作ることが、カイゼンの第一歩です。

2. デジタルツールの投入とシステム間連携

RPAによる伝票自動作成、WMS(倉庫管理システム)の連携構築、QRコードによるピッキング・検品システムの導入など、デジタル技術の斜め使い(ラテラル活用)は必須です。
今すぐ全自動化できなくても、「可能なかぎりデジタルへ」「人手作業を一手間でも減らす」という姿勢を現場から積み上げていくことが重要です。

3. サプライチェーン全体最適化への意識転換

出荷準備リードタイムの短縮は、自社だけではなく系列工場・物流拠点・協力会社まで含めた全体設計が問われます。
“出荷時点から逆算する”だけでなく、“最終納品地点から逆算して全体を最適化”する意識が、バイヤーとサプライヤーに共通のビジョンとして必要です。

4. 人材育成と“属人化”からの脱却

属人的ノウハウ・暗黙知に頼った“出荷準備”では、いつまでたっても作業のばらつき・遅延から抜け出せません。
業務手順化・教育用マニュアルの作成・ベテランから若手へのノウハウ継承といった、人材の多能工化と標準化への投資も忘れてはなりません。

5. “昭和文化”の良さを活かしつつデジタルと融合

「人が責任を持つ」「失敗を根絶したい」という昭和的現場力・安全志向は、日本の製造業の大切な資産です。
その上で「書類を電子化」「承認プロセスの自動通知」といったデジタルとの融合による“新しい現場文化”を創造していきましょう。

まとめ:出荷準備リードタイム改革が新しい製造業競争力をつくる

製造リードタイムよりも出荷準備リードタイムが長くなる矛盾は、日本のものづくり現場がいま直面する構造的な課題です。

その根本には、部門ごとの“縦割り”や、昭和的アナログ文化、属人的なノウハウの温存、デジタル化の遅れが横たわっています。

この難問は、個別最適化の発想だけですぐに解決できるものではありません。

未来に向けては、全体最適化と部分最適化の循環、現場目線での仕組み改革とデジタル融合、そして“昭和文化”の良さまで包含した新しい現場改革が必須です。

バイヤー、サプライヤー双方が“出荷準備リードタイム”という見えない壁を共有し、オープンなコミュニケーションでリードタイム短縮を科学的にアプローチすることで、製造業の新たな競争力が生まれることでしょう。

あなたの現場でも、今日から“出荷準備”の壁に是非チャレンジを始めてみてください。

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