投稿日:2025年8月18日

スタンバイL Cとバンクギャランティの使い分けで信用リスクをコントロール

はじめに:信用リスク管理が製造業バイヤーの生命線

製造業の国際取引において、決済や信用リスクのコントロールは最重要課題のひとつです。

特に世界のサプライチェーンが複雑化し、パートナーが多国籍で分散する現代、取引先の信用力をどう担保するかはバイヤーにとって頭の痛い問題です。

この記事では、「スタンバイL/C(Letter of Credit)」と「バンクギャランティ(Bank Guarantee)」という信用補完手段に焦点を当て、それぞれの特徴やメリット、使い分けの実践ポイント、最近の実務トレンドまでを、現場目線で深堀りしていきます。

調達・購買担当者や、生産管理、サプライヤー関係者の方々にとって、日々の業務に直結する内容となるよう意識して執筆していますので、ぜひ参考にしてください。

スタンバイL/C、バンクギャランティとは何か?

スタンバイL/Cの概要

スタンバイL/Cは「スタンバイレターオブクレジット(Standby Letter of Credit)」の略称です。

取引上何らかの債務不履行(契約違反、代金未払い、不納品等)が起きた際に、バイヤーの銀行がサプライヤーに対し指定金額をお支払いする信用状です。

通常は現金授受には使われず、あくまで「保証」の役割を果たします。

例えば、バイヤーが規定期日までに支払いができなかった場合、サプライヤーは必要書類(未払い証明等)を提出することで、銀行から支払いを受けることができます。

バンクギャランティの概要

バンクギャランティ(銀行保証)は、銀行がバイヤー(またはサプライヤー)の債務履行を第三者として保証するものです。

たとえば前払金保証(Advance Payment Guarantee)、履行保証(Performance Guarantee)など、用途に応じて様々なスタイルが存在します。

万が一、取引相手が約束を守らなかった場合、ギャランティを発行した銀行がサポートすることで、取引相手の信用リスクを低減します。

両者の共通点・差異

スタンバイL/Cとバンクギャランティの役割は似ていますが、実務運用・規制・コストなどで微妙な差異が存在します。

また、発行銀行・相手国の商習慣や法律によって適用可否や人気度が異なるケースも多いため、状況ごとに適切な手段を選ぶことが重要です。

実際の現場でどう使い分ける?実践的なケーススタディ

昭和型のアナログ取引から脱却しきれない日本の製造業現場でも、今後のグローバル競争対応のためには、これらの信用補完手段を上手く使いこなす必要があります。

現場目線で、両者のベストな使い分けポイントを整理します。

ケース1:取引開始直後の信用に不安がある場合

新規サプライヤーとの最初の取引や、多額の資金・部材が動く契約など、慎重さが求められる局面なら「スタンバイL/C」の検討が合理的です。

なぜならスタンバイL/Cは、支払いや債務不履行が発生した際に、比較的事務的手続きで請求ができ、国際的な信用度も高いからです。

また、多国籍の大手企業間取引など、英文契約書ベースで進める場合は、ICC(国際商業会議所)のルールが適用されることが多く、実務慣行としても馴染みやすい手段です。

ケース2:契約の履行保証や前払金の返還が求められる場合

工場設備や大型装置、プロジェクト案件など、納入・設置・立ち上げ・アフターサービスまでが契約対象となっているケースでは「バンクギャランティ」を使うことが一般的です。

これは、取引相手が「前払金を返還しない」「完成・納品義務を履行しない」など、“行為”に対して保証を掛けたい場合に有効だからです。

例えば「前払金保証型バンクギャランティ」を求められた場合、サプライヤーとしては銀行による確実な保証を用意することで、商談競争力を向上できます。

ケース3:相手国・取引先の事情で選択を迫られる場合

アジア圏の一部新興国や、旧ソビエト圏などでは、現地銀行がどちらのスキームに精通しているか、または法律上どちらが通用しやすいかも重要な判断要素です。

また、EU圏やアメリカではスタンバイL/Cが主流な一方、中東や中国の一部地域では伝統的にバンクギャランティが信頼されています。

このように、取引相手や第三国の商習慣を理解し、単純な価格交渉以上にリスクヘッジの観点から最適解を導き出すのがプロのバイヤーです。

各手段のメリット・デメリットを冷静に比較

スタンバイL/Cのメリット・デメリット

メリット:
・国際的な取引慣行として広く認知されている
・ICCのルールのもとで標準化されており、トラブル時の対応基準が明確
・請求の際、実体的な取引行為(例:債務不履行証明)があれば銀行が支払いに応じやすい
・現金化されるケースは少なく、実質的な信用補完の役割に特化

デメリット:
・手数料・コミッションコストがかかる(発行額に応じて増加傾向)
・バイヤー側(申請者)は与信限度額に留意が必要
・相手銀行/国によっては取り扱い未経験のことがある

バンクギャランティのメリット・デメリット

メリット:
・内容が柔軟かつ目的別(前払金、履行、保守等)にカスタマイズしやすい
・書類上の整合性だけでなく“事実確認”が重視される
・現地銀行との関係構築がある場合はより迅速に発行可能

デメリット:
・国際取引においては、現地法律・商習慣の影響大
・欧州や北米では問い合わせや確認事項が多く、手続きが煩雑化する場合も
・発行銀行の信用力が大きく問われ、万が一倒産等が起きた場合は保証が無効化されることも

昭和型調達の課題―リスク無知は時代遅れ、海外拠点との連携強化を

日本の多くの製造業では、長年慣れ親しんだ「請求書払い」や「相対信用取引」で済ませるケースが多く、銀行系の信用補完ツールを積極的に使いこなす風土がまだ十分に根付いていません。

その背景には国内サプライチェーンの安定感や、昭和に培われた商慣習への信頼感が強く残っている現実があります。

しかし、部材調達のグローバル化や、突発的なサプライチェーンリスク(コロナ禍や地政学リスクなど)の増加によって、「信用補完スキル」は今後、購買・調達部門や工場長経験者にとって必須の基礎知識となっています。

海外拠点と連携し、現地の法制や商習慣にマッチした信用補完を選べる体制構築、そして若手育成が遅れている点も、業界全体の構造課題です。

サプライヤーから見た“バイヤーの信用リスク管理”の本音

サプライヤー側から見た場合、ただ漫然と「支払サイトを短くしてほしい」「銀行保証を付けてほしい」といった要望だけでは、バイヤー側の本音や、取引継続の真意まで読み切れないことがよくあります。

実際の現場では、バイヤーが自社や親会社の“与信枠”をどうやりくりしているか、あるいは新規取引の際にどのような信用審査基準やリスクコントロール施策を導入しているか、といった舞台裏を読み解くことで、より有利な条件交渉や長期的な関係構築への道を開くことができます。

サプライヤーも、スタンバイL/Cやバンクギャランティの仕組みをきちんと理解し、自社の与信枠やコスト、現地銀行とのネットワーク活用を積極的に考えることが競争時代の武器となるでしょう。

まとめ:新時代の信用リスクコントロールを武器に変える

スタンバイL/Cとバンクギャランティは、ともに国際取引における強力な信用リスク管理ツールです。

しかし、単なる「書類仕事」や「お役所的手続き」として運用するのではなく、それぞれの特徴・長所・短所を現場目線で見極め、ケースバイケースで使い分けていくことが今後のサプライチェーン競争力強化に直結します。

製造業のバイヤー、調達担当者はもちろん、サプライヤー視点からも「なぜ相手はこの保証を求めるのか」「自社にとってリスクとコストはどうか」を冷静に分析する時代になっています。

現代のグローバル市場では、昭和の人間関係・義理人情型信用取引だけでは通用しません。

信用リスクのプロフェッショナルとして、バイヤー・サプライヤー双方が「仕組み」と「現場感覚」を融合し、新しい時代の製造業をリードしていくことを目指しましょう。

業務に悩む調達購買やサプライヤーの皆さんの一助となれば幸いです。

You cannot copy content of this page