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アイスカップの変形を防ぐ冷却風速と樹脂流動解析

目次
はじめに
製造業の現場では、一見単純に思えるアイスカップのような樹脂製品でも、その品質管理には高度なノウハウが求められます。
特に、成形工程における「変形」や「寸法精度の確保」といった課題は、現場担当者やバイヤー、さらにはサプライヤーにとっても悩みの種です。
本記事では、アイスカップの変形を防ぐために不可欠である冷却風速の最適化と、樹脂流動解析の活用法について、現場感を交えて詳しく解説します。
アナログ的手法が根強く残る製造業界においても、ラテラルシンキングで新たな付加価値を創出するヒントを提示します。
アイスカップの変形が生じるメカニズム
樹脂成形における基本的なプロセス
アイスカップの多くは、ポリプロピレン(PP)やポリスチレン(PS)といった熱可塑性樹脂を射出成形によって生産しています。
樹脂が高温で溶解し、金型内に射出されたあと、冷却工程を経て固化することで形状が決まります。
この冷却工程こそが、変形や収縮といったトラブルの主因です。
変形が起こる主な原因
金型温度のむらや樹脂の流れ方、または冷却の不均一性によって、カップの側壁やリム(ふち)部分で歪みや反り返りが発生します。
肉厚のむらやゲート設計の不備も変形の誘因です。
さらに、近年は環境配慮型で薄肉化が進む傾向にあり、ほんのわずかなプロセスバランスの乱れが、形状不良となって現れやすくなっています。
冷却風速がアイスカップの変形に与える影響
なぜ冷却風速が重要なのか
成形されたアイスカップは、型から取り出された直後は高温のままです。
自然冷却では冷却ムラが発生しやすく、変形の原因となります。
そこで冷却ファンを用いて空気流を当て、効率よく均一に温度を下げる手法が取られています。
このとき、冷却風の「風速」「風向」「風量」が絶妙なバランスで制御されていないと、局所的な冷却不足や逆に過冷却部分が生まれます。
これが樹脂内部の応力(残留応力)を生み、成形体を押し戻す力として、最終的に反りや歪みとなって現れます。
冷却風速の最適化方法
冷却風速の最適化のためには、「3つの見える化」が役立ちます。
1.実際のカップ表面温度の見える化:赤外線サーモグラフィー等を用いて、各部の温度分布を可視化します。
2.風速・風量の見える化:アネモメーター等で、冷却エリアでの局所風速を定量的に把握します。
3.変形の見える化:完成品の寸法検査データや3Dスキャナーでの形状マッピングを活用します。
これら3つのデータを関連付けることで、「どのような冷却風速条件で、どの位置に、どの程度の変形が生じるか」が論理的に特定できます。
現場では、「とりあえず風を強くすれば冷える」という短絡的な発想になりがちですが、過度な風速は表面の急激な収縮を招き、内外の収縮速度差からかえって変形が拡大する危険があります。
冷却風は、型開き直後の高温時には強めに、ある程度冷えてからは穏やかに…という「段階的制御」も有効なアプローチです。
樹脂流動解析(CAE)の活用
なぜ樹脂流動解析が変形抑制に有効か
以前は現場の勘や経験に頼りがちだった成形条件の最適化も、現在ではCAE(コンピュータ支援工学)の進化により、科学的アプローチが標準となりつつあります。
樹脂流動解析ソフトは、金型内で樹脂がどう流れ、どこで冷却遅れや残留応力が残るかを事前に「見える化」できます。
樹脂流動とともに冷却解析を組み合わせることで、
・ゲートから最も遠い部分の冷え遅れ
・肉厚差による収縮不均一
・局所的な風速の違いによる温度差
といった潜在的リスクを定量的に把握できるため、設計段階から「変形リスクを最小化」できるのです。
ベテラン現場担当者の知恵とCAEの融合
現場では、「樹脂銘柄をこれに変えたら、なぜか歪みが半分になった」といった“経験知”が蓄積されています。
これを生かして、CAEによる仮想実験と実機評価を繰り返し、条件セットをブラッシュアップすると、現場にも納得感のある最適条件が見えてきます。
また、樹脂流動解析で得られた「収縮・変形予測」のデータを、サプライヤーの工程設計やバイヤーとの交渉材料として活用することで、エビデンスに基づく品質保証体制の構築にもつながります。
昭和的アナログ現場にこそ、変革の余地あり
なぜ昭和的手法が未だに幅をきかせるのか
多くの現場では、今なお「ベテランの勘」と「長年のやり方」のみで条件出しが行われがちです。
これは決して悪いことではありません。
しかし、金型構造・成形速度・冷却装置・樹脂材料…すべてが高度化・多様化する現在、従来手法のみでは制度や再現性に限界があります。
現場で今すぐ取り組める改善の提案
1.データ駆動型の成形条件出し
生産現場と設計部門、品質管理部門が連携し、冷却風速実測データ・樹脂流動解析結果・実際の変形量を紐づけて「条件の見える化」を進めましょう。
2.金型設計段階からの変形予防
流動解析を元に、ゲート位置・金型冷却回路の最適設計を実現し、「問題が出てから」ではなく「問題が出ない」金型づくりを目指します。
3.工程内検査の自動化・IoT活用
AI画像検査・自動寸法測定装置・現場データロガーの導入で、「いつ・どこで・なぜ変形したか」をリアルタイムに把握できる仕組みを作りましょう。
バイヤー、サプライヤーそれぞれの立場で考える
バイヤーが重視する品質とコストのバランス
バイヤーはただ単に「値段が安ければいい」わけではありません。
不良による返品・納期遅れのリスク、構造変更や仕様変更への柔軟な対応、さらには工程や品質の「見える化」と説明責任が果たせるかに重きを置いています。
樹脂流動解析や冷却条件の数値管理は、まさにその説明責任を果たす必須要件となりつつあります。
サプライヤーの視点:差別化と信頼獲得
サプライヤーにとっても、「変形不良がなぜ起こるか説明できる」「対応策を提案できる」「エビデンスを持って交渉できる」ことが、他社との差別化につながります。
伝統的なアナログ手法に加えて、デジタル技術や解析ソフトを積極的に取り入れ、「見える化された信頼」を売る時代になっています。
まとめ:現場が主役の進化を
アイスカップの変形を防ぐには、冷却風速の絶妙なコントロールと、樹脂流動解析による科学的プロセス管理が不可欠です。
昭和的な勘と経験も大切ですが、それだけでは次の成長はありません。
「現場の知恵」×「デジタル解析」×「データの見える化」を三位一体で進めていくことこそ、これからの製造業発展の鍵になります。
新たな挑戦が業界全体の底上げにつながることを願い、自らも実践者としてこの記事をお送りします。
製造現場の主役は一人ひとりのエンジニアです。
ぜひ、より高付加価値なものづくりを目指し、明るい未来を共に切り拓きましょう。
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