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委託加工海外持ち出しの関税評価を是正する無償支給材の管理手順

目次
はじめに:製造業における「無償支給材」と委託加工取引の実態
製造業の現場で「無償支給材」という言葉を耳にする方は多いと思います。
これは、バイヤー(発注側)がサプライヤー(製造側、加工委託先)に対し、主要な部品や資材を無償で供給し、委託先で組み立てや加工だけを依頼する取引形態です。
一方で、この「無償支給材」を海外の委託先へ持ち出し、製品を現地で加工・組立して日本へ再度輸入するケースが増えています。
グローバル化が進む中、中国やベトナム、タイ、インドネシアなどコストメリットのある国への委託加工が一般的となり、国内生産一辺倒だった昭和的な製造体制から大きくシフトしています。
しかし、こうした取引では日本への逆輸入時の「関税評価」において、現場では見過ごされがちなリスクと抜け道が潜んでいます。
この記事では、工場の現場で長年実践してきたノウハウと具体的な管理手順を、わかりやすく共有します。
関税評価で押さえるべき委託加工×無償支給材のルール
なぜ関税評価で「無償支給材」が問題となるのか
海外委託加工した製品を日本へ逆輸入する際、関税は「取引価格」をベースに算出されます。
しかし、バイヤー側から無償で支給した材料の価値が「取引価格」に正しく反映されていない場合、課税価格が不正確となり、関税申告漏れ・追徴などの大きなリスクにつながります。
現場目線では「材料はこちらで用意し、海外で工賃だけ支払い加工してもらった。
その完成品を輸入している」と日常的に行っているプロセスですが、税関から見れば「材料費が抜け落ちて不当に関税が軽減されていませんか?」となるわけです。
通関での課税価格のルール
原則、関税法では「日本から無償で支給した材料(無償支給材)」は、出来上がった製品の取引価格に加算したうえで課税価格とすることが定められています。
つまり、「海外で支払った加工賃」+「無償支給材の価額(原価)」が関税評価の基準となります。
最近の税関検査の厳格化とその背景
ここ数年来、税関による無償支給材の加算漏れへの指摘が急増しています。
DXやAIによるデータ分析が進み、過去のインボイス・管理資料から素材の輸出と、その逆輸入時の生産量、証憑の不整合が一目で抽出されているからです。
なかには、昭和世代の手書き伝票やExcelだけの在庫管理に依存し、「証拠がない」「正確な数量がつかめない」というケースも散見され、想定外の追徴課税やペナルティで信用を毀損した企業も少なくありません。
現場が守るべき無償支給材の管理手順
1. 材料の輸出時に「目的」「数量」を明確に記録する
発注部門・購買部門・調達部門は、「どの製品用」「何をどれだけ」「どの海外委託先に」支給するのか、都度しっかり台帳に記録します。
現場感覚では、“余り分含めて多めに支給”などありがちですが、無償支給材の在庫管理表(ロット、型番、数量、支給日、輸出伝票番号など)が、税関調査にも耐えうる証跡保存となります。
2. 「加工委託契約書」や「無償支給覚書」を確実に作成・保管
サプライヤーとの契約書には「無償支給材の種別・数量・形態」「バイヤーの所有権」「未使用や余剰分の返却ルール」などを書面で残しましょう。
工場の現場では口頭で済ませてしまいがちですが、契約紛失や担当者の異動、数年後の追認時に“言った言わない”の泥沼が避けられます。
3. 加工完了後の「完成品」・「余剰材」の数量・廃棄管理
海外委託先での仕掛在庫や歩留まり悪化によるロス、また未使用場合の無償支給材の取り扱い記録も重要です。
完成品の輸出入量と、材料の消費記録が管理台帳・出荷報告・会計伝票と食い違っていないか、都度照合しましょう。
余剰材・不良材の現地廃棄や第三国流用などの動きも、必ず証跡(写真、現地証明書、廃棄証明)を残します。
4. 「インボイス」や「パッキングリスト」の適切な作り方
完成品のインボイス(仕入伝票)は「加工賃」だけでなく、「無償支給材料〇円分加算済み」という情報を明記しましょう。
また材料輸出時には、「支給のみ/販売用ではない」「加工後輸入予定あり」といった記載を忘れずに。
通関業者やフォワーダー、現地委託先まかせにせず、購買・生産管理自身の手で最終チェックする意識が重要です。
現場で起きたよくあるトラブル事例と教訓
数量不一致~余剰材の管理ミスが招いた税関指摘
ある家電メーカーでは、海外委託先で組立作業後、現地の歩留り悪化で廃棄されたはずの材料の一部が記録・証明書類から抜け落ちていました。
税関監査にて“余剰材がどこに消えたのか説明責任が果たせない”ため、廃棄数も日本へ輸入したものとして追課税扱いに。
理由は、「現場では材料消費表を手書きで保管し、うち何割かがタイムリーに本社へ報告されていなかった」「現地OJTが日本語不慣れで証拠書類に不備があった」など、よくある“アナログ放置”が連携ミスを生みました。
無償支給材を「第三国で横流し」されて信用失墜
金型部品・ICチップなど高額な無償支給材をサプライヤーが第三国の企業に転売、不正流用していたことが発覚した例もあります。
生産現場では“材料は実際に使ってもらえればOK”程度の感覚でしたが、実は資産流出や商標侵害、ブランド毀損など甚大なリスクに直結します。
契約の中で、「未使用品は必ず返却・現地廃棄」「抜き打ち監査を受け入れる」等を明文化し、実効性のある管理手順を徹底すべきです。
業界のアナログ体質を打破するための実践的ヒント
昭和の「紙台帳」を脱却し、現場と本社・海外子会社をクラウド連携
Excelや紙日報、FAXベースで管理していると、データの整合性や証憑の保存性が担保できません。
最新のクラウド管理システムやERP、SCMツール(OBIC7、生産革新シリーズ、SAP S/4HANA、kintone、freeeなど)を活用し、「輸出材料の在庫記録」と「現地での消費・完成品生産量」「余剰材の取り扱い」を一元管理する体制が求められます。
現場担当者には「入力のしやすさ」「見える化」「アラート機能」など実用性を重視し、経理・法務部門にもリアルタイムで情報共有できる体制づくりが不可欠です。
「人任せ」をやめて現場にルールの意味を伝える
調達購買はバイヤー視点だけでなく、現地サプライヤー・工場の担当者と現実的な運用を共に考えましょう。
月次棚卸時のダブルチェック、廃棄証明の確認、輸出入伝票の現物照合など、悩みや「面倒くさい」という現場の声に寄り添い、無理なくできるルールに落とし込むことが最終的なリスク低減につながります。
サプライヤーの方へ:バイヤーの視点を知るメリット
「なぜここまで細かい帳簿管理や証拠保存を求めるのか」と疑問に思われているサプライヤーの方もいらっしゃるでしょう。
これは、バイヤー企業側が関税リスク、企業の資産保全、サプライチェーン全体の透明性維持に本気で取り組む時代へ突入しているからです。
バイヤー視点の想定問答として、
– 材料ロスの報告は帳簿と合っているか
– 余剰材の第三者流出や(模造品や闇市場)発生リスクはゼロか
– 証憑類はいつでも税関に提示できるか
– DX推進に協力できる準備ができているか
などが挙げられます。
これに応えることで、顧客から信頼され、サプライヤー自身のビジネス拡大にもつながっていきます。
まとめ:現場起点で強い製造業をつくるために
海外委託加工と無償支給材の管理は、一見すると「細かい法令対応」として軽視されがちです。
しかし、現場での一つ一つの実務が経営のリスクを減らし、サプライチェーン全体の信頼性を高め、日本のものづくり産業そのもののアップデートへと結びつきます。
「もう昭和のやり方は限界だ」と気づいた今こそ、アナログな現場の慣習に留まらず、デジタルやグローバルルールに適応していくことが求められています。
この記事を参考に、ぜひ現場目線で、実践的な無償支給材管理・関税ルールの是正に取り組んでいただければ幸いです。
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