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コスト削減一辺倒でサプライヤーのモチベーションが下がる懸念

目次
はじめに:コスト削減の宿命とサプライヤーとの距離
日本の製造業において「コストダウン」は永遠のテーマです。
私が20年以上この業界で働いてきた中でも、経営課題として最も多く議論され、最優先で施策が求められてきたテーマの一つです。
特に直近数十年、グローバル化の波に揉まれながらも、業界各社は技術や生産性向上に加え、調達購買部門で毎年数%のコストダウン達成を求め続けられています。
しかし、この猛烈なコスト削減の要求が取引先=サプライヤーの現場にどのような影響を及ぼしているのか、現状では十分に見えていないケースも散見されます。
今回はコスト削減が一辺倒になることでサプライヤーのモチベーションが下がる懸念について、現場目線かつ実践的な観点から詳しく解説します。
さらに本質的なパートナーシップ構築へ向けたアプローチにも触れます。
なぜ「コスト削減一辺倒」が生まれるのか
経営環境の変化とプレッシャー
グローバル競争、材料費やエネルギーコストの高騰、円安…。
製造業は今、かつてないコスト圧力に曝されています。
その影響で「原価低減」の掛け声が、トップダウンであらゆる層に伝播するのは当然といえます。
毎年度、購買部門・調達部門には前年対比で数%の目標値が設定されます。
これは多くの企業で半ば慣習化されており、「達成して当たり前」といった風潮さえ生まれています。
「コスト=悪」となる組織文化と数字主義
とにかくコストを下げろ、という上層部の言葉がそのまま現場に伝わる中で、調達購買の担当者たちはKPIという名の重圧を背負います。
そして往々にして「価格交渉=バイヤーの腕」として評価される傾向にあります。
ここに現場独自のノルマ達成主義、達成志向が加速しやすい風土が根付いているのが、昭和・平成を通じて続くアナログな「営業・購買」のリアルです。
サプライヤー視点に立って考える「コスト削減要請」
削減要請はどこまで続くのか?
サプライヤーにとって原材料費の高騰や人件費の増加は自社も無縁ではありません。
それにも関わらず、毎年繰り返される「コストダウン要求」という重圧が続くと、こうした声がサプライヤー現場から聞こえてきます。
「これ以上、どこを削れというのか」
「値引きはもう限界、赤字ラインも近い」
「頑張っても報われず、モチベーションが上がらない」
単なる価格引下げのお願いではなく、サプライヤーの経営体力を奪いかねないラインまで攻めざるを得ない現状も多く見受けられます。
関係性の質が問われる「一方的なコストダウン要求」
コスト削減のコミュニケーションが、一方的な価格交渉や「取引更新の条件」となるほど、サプライヤーは「弊社はコストですか?」という疎外感を抱きがちです。
とりわけ、調達先→下請けとしてしか扱われていない場合、協調関係ではなく「力関係」だけの取引になる危険性が高まります。
どこかで見た、ドライな購買担当者の変貌
導入部で述べたように、ノルマを帯びた購買部門は、どうしても「数値管理」に寄り過ぎます。
「昨年より何%下げる」「他社と相見積を取る」という活動がフォーマット化され、サプライヤーは“コストの塊”として品定めされる存在になりがちです。
サプライヤー側に納品した製品・部品やサービスの価値が正当に評価されにくく、危機感や虚無感、果ては反発心に繋がる例もよく見られます。
人材流出、品質低下…コスト削減一辺倒が招く負のスパイラル
現場の疲弊と人材モチベーションの低下
「頑張ってコストを下げても、さらに下げろと要求される…」
「お客様は値下げの話しかしない…」
「対等なパートナーではないんだ…」
こうした「やらされ感」「徒労感」に晒される現場のスタッフは、本来のやりがいや達成感を失っていきます。
一時的な目先のコストダウンは達成できても、長期的にみると若手の離職、経験者流出、生産の属人化、技能伝承の停滞…といった深刻なリスクが頭をもたげてきます。
品質劣化や納期問題への潜在リスク
サプライヤーのモチベーションが下がった結果、現場改善や新たな提案が滞りやすくなり、「最安値重視」に走れば材料・部品の質が低下しやすくなります。
また、無理なコストダウンは当然ながら設備投資や人材育成にしわ寄せがいきやすくなり、長期的には計画生産や納期遵守体制にほころびを生むことも現実です。
これまでの日本の製造業は「品質・納期・コスト」すべてハイレベルで実現し、世界と戦ってきました。
しかし、「コストだけ」を過度に重視すれば、長所を自ら壊しかねない負のスパイラルに陥ります。
サプライヤーとWin-Winとなるバイヤーの心構え
「相手の立場・事情」に寄り添うことが信頼構築の第一歩
コストダウンが制約条件であることは変わりません。
しかし、「なぜ下げられないのか」「どう工夫すれば両社にメリットがあるのか」…サプライヤーの考えや見通し、悩みまで丁寧にヒアリングし、検討する姿勢が大事です。
「お互い様」である調達パートナーとして、現場の課題や事情を正しく理解し、それに共感することで、単なる“値引き交渉相手”という枠を超えて、「困難を一緒に乗り越える仲間」へと関係性がシフトします。
コスト削減だけでない多軸の評価指標を持つ
「安さ」だけでなく、
・品質向上
・リードタイム短縮
・安定調達
・新工法の導入提案
など…
サプライヤーの“強み”や“努力”に光を当てた多軸の評価軸を持つことが重要です。
また、共同でコスト削減できる余地(設計段階からのVE/VA提案、物流合理化のアイデア出し等)を探り合い、実現すればその利益をフェアに分配するなど、「共創」の発想がモチベーション向上に貢献します。
人と人の信頼関係が「現場力」を引き出す
現場に足を運び、改善活動や製造プロセスを肌で感じ、サプライヤーの努力や課題意識を真摯に受け止めること。
困っている時や難題がある時ほど寄り添い、情報共有や協働で解決策を考える習慣が大切です。
昭和型のアナログな「飲みニケーション」だけでなく、令和時代の現場目線の対話と信頼構築が、まさに今の製造業には求められています。
本質的なパートナーシップ形成のために今できること
開かれたコミュニケーションと情報透明化
「これ以上のコストダウンは厳しい」というサプライヤー事情に耳を傾けることはもちろん、反対に自社の生産計画や長期的なビジョンをごく早い段階で共有することも信頼アップにつながります。
また、設計や仕様変更、納期・品質要求の背景事情などを現場レベルで共有することは、現実的な改善提案へもつながっていきます。
リスクシェアに基づく合理的な価格交渉
「短期的なコスト削減」ばかりに気を取られず、サプライチェーンのリスクや不確実性まで含めた中長期の視点から、「今はいくらが妥当か」をフェアに議論できること。
また、利益分配のバランスや共同投資、共通課題への投資回収策(たとえば設備投資への協賛スキームなど)も積極的に検討しましょう。
共通のゴール=競争力強化への協働
本来調達購買部門の目的は「コスト削減」ではなく、「競争力ある製品・サービスを安定供給し続けること」です。
そのためには、現場の支援や技術協力、情報・人材交流、時には共同開発プロジェクトの推進など、両社の総合力を掛け合わせる活動が求められます。
まとめ:サプライヤーとの“協創”が未来を切り拓く
コスト削減一辺倒の取引慣習は、サプライヤーのやる気を失わせ、品質低下や人材流出のリスクさえ孕んでいます。
短期的な成果にこだわりすぎず、共に課題を乗り越える仲間としてサプライヤーと向き合い、「現場目線の対話」と「多面評価」で信頼と本質的なパートナーシップを築いていくことが、これからの製造業にとって不可欠です。
調達購買のプロとして、または将来バイヤーを目指すみなさんには、「コストだけでないサプライヤーとの向き合い方」を現場で実践してほしいと思います。
そして、現場のひとつひとつの信頼が積み重なった先に、令和の製造業が世界で戦える新たな地平線が開かれていくはずです。
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