投稿日:2025年8月27日

サプライヤ早期参画ESIで図面確定前にコストを30%落とすワークフロー

はじめに:サプライヤ早期参画(ESI)とは何か

製造業の現場ではコストダウンが永遠の課題です。

特に新製品開発においては、“設計~量産”の各フェーズでコスト削減の機会がありますが、設計が固まってしまった後では、多くのコスト削減策が「焼け石に水」になってしまう場合が少なくありません。

そうした背景から、近年注目されているのが「サプライヤ早期参画=Early Supplier Involvement(ESI)」です。

ESIとは、図面確定や試作段階より前、できるだけ早い段階からサプライヤ(部品・材料メーカーなどの供給業者)を巻き込み、コストダウンや品質向上、開発リードタイム短縮を実現するアプローチです。

これにより、従来比でコストを20~30%ダウンできたという事例も多く、自動車産業やエレクトロニクス業界の一部では主流になりつつあります。

なぜ設計確定後のコストダウンは難しいのか

コストの8割は設計段階で決まる

製造原価の大半は、設計段階で決定づけられます。

量産現場や購買部門が奮闘しても、設計段階で“高い部品”、“加工の難しい形状”などが指定されていれば、できるコスト削減にも限界があるからです。

設計が「一人歩き」してしまうと、工程自体が高コスト構造になります。

現場でよく聞く、「設計が決めたものを作ってくれ」と丸投げされる状況では、バイヤーもサプライヤも苦労続きです。

購買と設計、サプライヤの分断が生むロス

昭和の体質が色濃く残る工場では、設計・開発、購買、生産は縦割りです。

設計者は「性能を満たすこと」「納期を守ること」で手一杯。
購買は「低コスト化」「安定調達」に追われ、サプライヤへの丸投げになりがちです。

こうした分断構造では、設計者の意図がサプライヤに伝わらず、“図面ありき”で余分な仕様や加工が積み上がり、無駄なコストが発生しがちです。

ESIによる図面確定前コストダウンの本質

バイヤーとサプライヤが「モノづくり会議」に参加する意義

ESI導入の要となるのが、「開発・設計会議」に購買部門と主要サプライヤを早期参加させることです。

そこでは「図面は設計のためのもの」ではなく、
「お客様の真のニーズを満たしつつ、バリューチェーン全体で最適なコストを実現する」ための条件設定として活用します。

たとえば、設計者が「軽くて強い材料が欲しい」と言えば、サプライヤが「既存材料で十分満たせる」ことや、「新素材に切り替えれば量産コスト1/3で行ける」といった提案が、その場で成立します。

バイヤーは「いくらで、いつ、どれだけ供給できるか」に加え、
「サプライヤの設備や工程制約を鑑みて設計制約を提案」する役割を担います。

この三者会議こそ、設計段階で本当の意味での“量産の最適解”を生み出す源泉となります。

図面の「現場起点」化で30%コストダウン

早期参画のサプライヤがいれば、以下のようなケースで大幅なコストダウンが実現します。

– 工程統合による工数削減案の提示(例:プレス+曲げを一工程で可能にする)
– 汎用材料や標準部品への設計変更(イチから作る場合の数分の1コストに)
– 余分な公差・精度・表面処理の削除によるコスト最適化
– 量産品に特化した供給体制(外注・設備投資)の事前検討

現場視点、サプライヤと一緒に「これなら作れる」を引き出す事で、設計の“無駄なコスト”の温床を根絶できます。

このようなボトムアップ型ワークフローは、高スペックを追いかけがちな日本の製造業こそ効果を発揮します。

ESI型ワークフロー:実践ステップ

1. 開発初期からバイヤー・サプライヤを招集

製品コンセプトが固まった時点で、調達/購買部門と主要サプライヤを開発チームに組み込みます。

この段階では、守秘義務を徹底しつつ、「こんなモノを作りたい」の抽象レベルで情報を共有します。

2. 設計案を「製造の観点」「コストの観点」で事前レビュー

詳細設計前、またはラフスケッチの段階で、

– 大量生産に適した形状か
– 部品点数は最小化できるか
– 工程数や特殊加工は抑えられるか
– 既製品・標準素材で代用できるか

などをサプライヤとバイヤーが洗い出し、“作る側の目線”でコスト増要因を除去します。

3. 同時並行で購買価格・納期・品質の確定

サプライヤと協議のうえ、「この仕様ならこの価格、〇ヶ月納期、〇ppm品質が見込める」を並行して詰めます。

図面がほぼ完成してから価格交渉をするより、事前に「お互い納得できる落としどころ」を設定でき、余計な値引き合戦も防げます。

4. 全社ワークフローへのESI組込

設計変更依頼→設計→購買→サプライヤという、従来の“直列ワークフロー”を見直し、設計と調達、サプライヤが“同時進行”するプロジェクト型組織に移行することが肝要です。

古い体質の工場では抵抗もありますが、人材・コスト競争力が問われる時代、これをやらなければ世界で戦えません。

現場実体験から見えたESIの「落とし穴」

守秘義務・情報漏洩リスクへの備え

サプライヤ早期参画では、開発機密が外部に漏れるリスクが付きまといます。

実際、私の経験でも「特許出願前に仕様を教えろ」とサプライヤから求められ、バイヤーとしての匙加減が問われたこともあります。

このリスクに対しては、NDA(秘密保持契約)の徹底や、参画メンバーの限定、最新図面の分割開示など、運用ルールを厳しく設定する必要があります。

既存体制の変革には「現場の理解」が不可欠

設計部門にとっては「外野に口出しされた」「仕事が増える」という反発が出やすいです。

こうした反発は、過去のコスト実績や、サプライヤ提案で救われた事例を示し、

「みんなで最適解を出すことで顧客クレームも減り、設計の評価も上がる」
「日本の製造業が生き残るために必要な進化」

と現場の目線で説明、納得を重ねていくことがカギです。

ESIで生まれた成功・失敗の事例

成功:自動車Tier1の外板部品で30%コスト減

大手自動車Tier1企業では、外板パネル部品の新規開発で図面確定前から鋼鈑メーカーと金型サプライヤをチームに組み込みました。

既存材料を見直し、新しい成形加工を提案してもらった結果、当初見込より30%コスト減、かつリードタイム短縮も実現できました。

失敗:情報リークトラブルで信頼失墜

一方で、ある家電メーカーでは、早期から複数サプライヤを巻き込んだESI展開中に設計情報が社外流出、模倣品まで出回ってしまいました。

守秘契約が不十分で、バイヤーが“仁義(業界の暗黙のルール)”だけを頼りにしたことが問題でした。

このような失敗も、ルール整備とマネジメントの重要性を教えてくれます。

これからの製造業のESI展望

今後グローバル競争が激化する中、もはや「図面が来てから考える」では勝てません。

AIやIoT、CAD/CAMの進化によって、「バーチャルでも製造現場とサプライヤがリアルタイム協働」できる環境が整いつつあります。

日本の製造業は、良き伝統の「現場力」「段取り力」を活かしつつ、この“組織横断”のもの作り力を活かせば、世界に伍するコスト競争力を維持できるはずです。

特に中堅・中小メーカーも、ESI的アプローチを部分的にでも試してみる価値は十分あります。

まとめ:ESIは“これからのバイヤー・サプライヤの必須スキル”

サプライヤ早期参画(ESI)は、単なるコストダウン策ではありません。

設計初期の段階から、バイヤー・サプライヤが「作る現場の目線」と「ビジネス視点」を持ち寄り、真に最適な図面設計からのモノづくりを支える基盤となります。

30%のコストダウンは決して夢物語ではない現実です。

明日からでも、設計打合せに調達担当を入れる、情報交換会を設けるなど、小さな一歩から始めてみてください。

現場力×調達力×供給力が一体となってこそ、令和の製造現場をリードできる時代になるでしょう。

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