投稿日:2025年9月6日

OEMで消耗品を製造する際のコスト試算と価格戦略の立て方

OEMで消耗品を製造する際のコスト試算と価格戦略の立て方

はじめに:消耗品OEMの現場目線と時代背景

現在、日本の製造業においてOEMによる消耗品の製造はごく一般的です。
特に近年は、コスト最適化や資源の有効活用、サステナビリティの高まりといったトレンドも後押しし、多くの企業が自社開発を避けてOEMに頼るケースが増えています。
一方で、現場を知る者として、消耗品OEMの商談はひと筋縄ではいかないと感じています。
その背景には、昭和の時代から変わらぬアナログな商習慣や、人間関係重視のサプライチェーン、現場起点の暗黙知など、多様な要素が絡み合っています。

この記事では、実際の製造現場で20年以上培った経験や管理職目線を交えながら、消耗品OEMにおけるコスト試算と価格戦略の立て方について、深掘りしていきます。

OEM消耗品の製造コスト試算:現場視点のステップ

コスト構造の原理原則

消耗品OEMの原価は大きく以下の要素に分かれます。

・直接材料費(原材料、部品)
・直接労務費(現場作業者の人件費)
・製造間接費(設備減価償却、水道光熱費)
・包装・物流費
・管理費(間接部門コスト)

昭和の時代は材料費や人件費中心でざっくり計算されがちでしたが、現代はSCM(サプライチェーンマネジメント)の進展やコストダウン圧力の高まりもあり、「どこまでが直接材料か」「物流費は何に含めるか」といった細かな境界線付けが、OEM契約段階で問われるようになっています。

現場レベルでは、この分類の誤り一つで赤字にも利益にも直結します。
ですから、標準原価計算をベースに、受注形態や数量、納期要請、品質条件などに合わせて“カスタムメイド”でコストを算出する柔軟性が必要です。

コスト試算の実務フローと落とし穴

1.図面・仕様書確認
OEMの消耗品は、発注元(バイヤー)から提供される図面やスペックシートがスタートラインになります。
量産前提ですが、細かな寸法公差や特殊材料が隠れコストになることも多々あります。

2.材料調達先の選定
2024年現在、サプライヤー調達は世界的な物流危機・原材料高騰の影響を大きく受けています。
定番材料でも、適切なQCD(水準・コスト・納期)バランスが求められ、時には中国以外(ASEAN等)も視野に調達網を組み換える必要があります。

3.生産工程のシミュレーション
工場現場の生産能力・歩留まり・セット替え頻度など、実績値に基づいて試算します。
自動化設備の有無や多品種少量生産への適応力が、最終コストを左右します。
特に、まだ手作業が残る工場では「人」のパフォーマンス予測が重要です。

4.間接費・包材・物流
包材単価や出荷単位、輸送方法まで細かく想定します。
現場目線では「繁忙期の運送コストUP」「資材保管の追加コスト」なども、想定外の原価増ポイントです。

5.利益率と値決めルール
「受注はしたが利益が残らない」事態を避けるため、現場と営業が連携して最低限確保すべき利益率(営業利益3~10%など)を事前合意します。
実際は競合他社の動向やバイヤーとの力関係で値引き交渉を迫られるので、価格戦略で“勝負どころ”を見極める判断力が問われます。

アナログ業界に根付く「慣習的コスト優先主義」からの脱却

いまだに見られるのが「前例踏襲」「競合比べの値付け優先」「原価の中身まで精査しない」の3大悪しき慣習です。
これが製造現場に「見積もり疲れ」「儲からない仕事の連鎖」をもたらします。
ラテラルシンキングで新しい視点を持ち込むためには、コスト計算のシステム化、自働見積りツール導入、現場データの定量可視化など、今までにないアプローチを採り入れる必要があります。

価格戦略の立て方:バイヤー心理とサプライヤー視点の交差点

バイヤーが考える「適正価格」とは何か

バイヤーは以下の観点でサプライヤー提案価格を見ています。

・市場価格との比較(ベンチマーク)
・年間購買ボリュームによるスケールメリット
・品質・納期リスクを加味した全体最適
・自社コストダウン義務を果たした証拠作り

特筆すべきは、最近のバイヤー像が“合理主義に見せかけた保守派”であることが多い点です。
見積明細は「コスト構造の透明性」を要求されますが、裏では「もっと安くできないか」という伝統的な値切り交渉も根強く残っています。

“選ばれるサプライヤー”になる価格戦略

・初手で「ギリギリのロープライス」は禁物
1発目から最安値を出すと、自社の利益率確保も困難になり、仕様変更や仕様追加へ臨機応変に対応できなくなります。
バイヤーから“言い値サプライヤー”として舐められるリスクも高まります。

・「現場事情」を反映した根拠説明が武器
例えば「今期この品目は原料高騰で原価率が通常期より7%アップしています」というデータ提示や、「熟練作業者1名で月あたり○○ロットが限界」など、現場のリアルをオープンに説明します。
数量増でどこまでスケールメリットが出るかもロジックで示します。
数字と現場ストーリーが組み合わさることで、バイヤー側も納得感が増します。

・価格通信簿の活用
自社の見積り実績・競合他社との価格差・値下げ案件の交渉履歴を独自に“通信簿化”して棚卸します。
これにより、「どの顧客」「どの品種」「どの時期」に利益率が低下しがちかを特定し、次回提案に活かします。

価格戦略に潜むリスクと、“勝負勘”の磨き方

サプライヤーとして“とにかく受注したい”という焦りが判断の誤りにつながりやすいものです。
・薄利すぎる受注で回転資金が枯渇する
・短納期案件で現場が疲弊し、中長期的な品質トラブルが発生する
・取引ボリュームを誤読し、設備投資が無駄になる
こうした“負の連鎖”を避けるためには、自社内にバイヤー人脈や業界情報源を築き、「今この消耗品はどれくらいの相場感なのか」「バイヤーがどれくらい困っているのか」の嗅覚(=勝負勘)を磨き続ける努力が欠かせません。

アフターコロナと製造業DX時代の価格攻防

ここ数年、サプライヤーの間でもDX化・IoT化・工場自動化が叫ばれていますが、消耗品OEMの現場では「昔ながらのFAX見積り」に頼り続ける企業も少なくありません。
しかし、DXで獲得できる“稼働率データ”や“材料消費履歴”を統計処理し、「貴社ご提案数量でこの期間なら原単価は0.05円下げ可能」といった提案ができるようになれば、これまで以上の説得力と受注獲得力が発揮されます。

加えて、部品点数削減やサブスクリプション的な「定期納入価格」など、価格決定そのもののイノベーションも生まれつつあります。
こうした変革に踏み出す勇気が、昭和アナログ体質からの脱却と企業力強化の鍵となるのです。

まとめ:製造業の未来を切り拓くOEM消耗品の価格戦略

OEM消耗品のコスト試算と価格戦略の最適化は、単純な原価低減や諸経費のカットでは成り立ちません。
その本質は、「見積りの精度向上と価格説明力の強化」「業界やバイヤーの本音を見抜いた交渉力」にあります。

昭和から続くアナログ流儀を活かしつつ、ラテラルシンキングで新たな手法やツールを導入し、データと経験の両面から競争優位性を高めていく。
それが、現場に根ざした製造業バイヤー・サプライヤー共通の成長戦略となります。

実践現場では失敗や試行錯誤もつきものですが、そこから得られる手触り感ある知見こそ、製造業の新たな地平線を切り拓くエネルギーとなるでしょう。

製造の現場で培った知恵を磨き、慣習にとらわれず柔軟な価格戦略を描く──その積み重ねが、これからの日本製造業の進化につながると信じています。

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