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購買部門が学ぶべき日本調達での原価企画とコスト削減事例

目次
はじめに:変わる日本の調達現場、原価企画とコスト削減がカギ
日本の製造業は、長らく「高品質」が最大の強みとされてきました。
その一方で、グローバル競争や安価な海外メーカーの台頭により、原価低減と調達コスト競争力の強化が急務となっています。
従来の調達=「価格交渉力」だけでは、不足する時代です。
これからの購買部門は、製品ライフサイクル全体を俯瞰しながら、「原価企画」や徹底したコスト削減活動に正面から向き合う必要があります。
本記事では、昭和の成功体験にとらわれがちな調達現場に、新しい視点と具体的な事例を紹介しつつ、実践的な原価企画・コスト削減の考え方と手法を解説します。
購買担当・バイヤー志望の方はもちろん、サプライヤーさんがバイヤー側の狙いや事情を知るヒントにもなります。
原価企画とは何か:コストは設計段階で8割が決まる
「原価企画」の基本的な考え方
原価企画(target costing)は、日本の大手自動車メーカーが世界的に有名にした手法です。
顧客が求める価格×必要な利益=目標原価(ターゲットコスト)を設定し、設計・開発段階から調達・生産・品質管理まで、組織横断的に「原価低減」を行うアプローチです。
現場でよくある誤解は、コスト削減=「発注先を増やし、安いところを探す」「発注量交渉で値下げを勝ち取る」といった“購買段階”だけの勝負だと考えてしまうことです。
ですが実際は、製品構想・設計時点で「コストの8割以上」が決まってしまう、という有名な法則があります。
調達部門が設計・技術部門と一緒に「コストをつくりこむ」ことが、次世代の購買力です。
原価企画の具体的な流れ
1. 市場調査と顧客要求分析
2. 目標販売価格の決定
3. 必要利益の設定(経営目標から逆算)
4. 目標原価(ターゲットコスト)の算出
5. コストの分解(穴のあいたバケツの「どこ」から水漏れしているか細かく可視化)
6. 設計・生産・購買・品質が連携し、材料・部品選定や生産プロセス見直しで目標達成
このプロセスでは、「設計変更」によるコスト低減、「サプライヤー再選定」や「VE(Value Engineering)」など多面的なアプローチが欠かせません。
日本企業特有の調達文化と現場の壁
昭和的アナログ文化と現場の悩み
多くの日本企業では長期にわたる「御用達商習慣」や、人間関係重視の取引が根強く残っています。
また、仕様を“丸投げ”して「安く持ってこい」とだけ言われる構造や、曖昧なコストダウン要求だけが現場に降りてくるケースも多々あります。
IT化・DXが進み切らず、見積比較も紙・Excel中心で「どこが高いのか分析できない」現場も、まだまだ存在します。
こうした文化的な下地が、現場の能動的なコスト改革の阻害要因にもなっています。
購買部門が新しいアプローチを実践する際には、この「変化への抵抗」「属人性」「曖昧な指標」といった昭和的な壁を認識し、現場を巻き込む工夫が必要です。
グローバル競争に向けての脱・昭和的体質
近年は、海外バイヤーを中心に「オープンコスト管理」や英語の原価分解資料(cost breakdown sheet)の提出要求も増えています。
日本式の「総体コスト」「言い値」から、グローバル標準の「プロセスごとに理由あるコスト」に移行しなければ生き残れません。
購買部門も、調達コスト(purchase cost)だけでなく、原価(cost)そのものへのこだわりや、「設計段階からのコストつくりこみ力」が求められています。
実践!原価企画・コスト削減の現場ノウハウ
1.設計段階からのコスト低減参画
新製品開発・設計会議には、必ず購買担当も初期から参加しましょう。
例えば、設計者が「加工しやすい形状」を考えられるように、部品の“標準化”や“サプライヤー事情”を説明します。
現場では「つくりやすい=コストが下がる」場合が多数です。
実際に筆者の経験でも、エンジニアリング担当とタッグを組み、「溶接工程をボルト組みに変更」「板厚の標準化」だけで10~15%のコストダウンに成功した事例があります。
サプライヤー目線をインプットできるのは購買部門の重要な使命です。
2.サプライヤーとのパートナーシップ型VE/VA
「バイヤーが単に価格を叩く」のではなく、「一緒に原価の無駄を解決する」姿勢が、長期的な成功のカギです。
VE(Value Engineering)やVA(Value Analysis)活動をサプライヤーと双方向で実施することで、「工程改善」「素材最適化」「ジャストインタイム納品」など、現場起点のアイデアが実現します。
例えばコスト分析ワークショップの開催や、「部分生産委託→完成品受入れ」への切り替えによる全体コストダウンなど。
サプライヤー側も経営リスクや事情があります。「双方がWIN-WIN」となる提案を考えることが現場では大切です。
3.デジタルツールによる見積原価の可視化・比較
古い体質の現場では、見積の比較が紙・Excelのみで行われています。
しかし、今はAIやコストシミュレーションツールの活用で、より早く複数サプライヤーの「点ではなく面」での原価分析が可能です。
「なぜ安いのか」「どの工程が高いのか」を可視化し、現場や設計にもフィードバックを返すことで、次のコスト低減提案にもつながります。
予算管理・購買データの蓄積が進むほど、精度の高い原価企画ができ、持続的なコスト競争力が得られます。
4.部品点数削減×サプライヤー選定戦略
部品点数を可能な限り共通化・少部品化することも、大きなコストダウンにつながります。
標準化された部品/材料は、大量調達・量産効果・サプライヤー交渉力の向上につながるからです。
また、調達先は「価格」だけでなく「生産安定性」「技術対応力」「将来性」も加味して選定する視点が必要です。
安易に「価格だけ」で切り替えても、後工程や品質問題、納品遅れが起きれば、総コストは逆に上がってしまいます。
現場の総合力( QCD = Quality/品質・Cost/コスト・Delivery/納期 )で判断する目利き力が重要です。
【事例紹介】現場で効いたコスト削減手法
自動車部品メーカー:塗装工程の外注最適化
筆者が担当した事例では、外注先への塗装工程に月間500万円ものコストがかかっていました。
サプライヤーと“原価分解シート”を一緒に作成。
塗料の種類、搬送方法、待機時間、人員配置といった細部を調査したところ、実は「納品タイミングのムダ」が最大の無駄と判明。
塗装ラインの納品を週1→隔日小ロットに切り替え、在庫圧縮+人件費圧縮に成功。
トータルで年間20%のコストダウンを実現しました。
電子部品メーカー:設計段階のコストつくりこみ
電子部品の開発時に、設計者と購買が初期段階から連携。
「標準ICの転用」「部品レイアウト見直し」で、部品点数を3割削減。
購買単価以外にも、「検査工程短縮」「品質起因の手直し費用減」などトータル原価に効果がありました。
結果として 開発費用は前年比7%減、開発〜量産のリードタイムも短縮できました。
これからの購買部門に求められる三つの力
1.現場力×ラテラルシンキング(横断思考)の重要性
購買部門は「価格交渉」のスペシャリストではなく、「原価全体×業界構造」に踏み込んだ“ビジネスプロデューサー”の役割を担うべきです。
現場の感覚と、IT/データ・異業種の知見を横断する「ラテラルシンキング」が求められます。
2.バイヤーとサプライヤー、真のパートナーシップ構築
サプライヤーを「ただの仕入先」ではなく、「共に利益を生むパートナー」と考えること。
現場起点の提案を引き出し、互いの事情を理解して“共創”することが、次世代調達の条件です。
3.伝統×デジタルの融合による現場DX推進
古い価値観やノウハウは決して捨てるものではありません。
製造業で蓄積された現場知見に、最新IT(コスト見積AI、IoT原価分析ツール等)を組み合わせることで、日本ならではの強みを新たな地平へと進化させることができます。
まとめ:現場目線と業界動向を味方に、日本の調達部門は変われる
日本の製造業・購買部門は、昭和から続く「属人力」や「積み重ねの現場力」に、グローバル標準の「原価企画」「コストの見える化」「IT活用」を組み合わせることで、世界に誇る調達競争力を実現できます。
設計・生産・品質・調達、この壁を越えて「真に原価に強い現場」へ。
本記事が、皆さんの明日からの原価企画・コスト削減活動に、新たなヒントと勇気を与えられることを願っています。
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