投稿日:2025年9月18日

購買部門が検討すべき日本製品の現地OEM化によるコスト削減

はじめに:日本製品の現地OEM化が製造業界にもたらすインパクト

日本の製造業は、長らく「高品質・高コスト」で世界をリードしてきました。
しかし、グローバル市場の競争激化や顧客のコスト志向、サプライチェーンの多様化が進む昨今、企業には従来以上の効率化やコスト削減が求められています。
その中で、現地OEM化(Original Equipment Manufacturer: 他社ブランド製品企画者による現地生産)の選択は、購買部門にとっても極めて重要な経営戦略となっています。

特に、これまで日本の工場で一貫生産してきた製品も、アジア、東南アジア、中南米など海外の現地企業に生産委託する「現地OEM化」が一般的になりつつあります。
本記事では、製造現場で長年実務に携わってきた筆者の経験に基づき、現場目線で現地OEM化の具体的なメリットと留意点、業界の動向や昭和体質が依然として根強いアナログ業界での導入の勘所について詳しく解説します。

なぜ今、現地OEM化なのか?購買部門が抱える課題と背景

サプライチェーンの多極化と安定供給への要求

Covid-19パンデミック、地政学リスクの高まり、原材料価格の高騰――こうした外部環境の激変は、調達・購買部門に従来の調達網の見直しを迫りました。
特に、特定の地域や企業に依存したサプライチェーンはリスクが顕在化しやすく、現地でのOEM化による「分散化」は安定的な供給実現の有効な手段となっています。

顧客要求の変化とコスト意識の高まり

かつては「日本製=高品質」が無条件に歓迎された時代でしたが、現在はグローバル顧客から「十分な品質をより低コストで」という要求が強まっています。
円安基調が続く中でも日本の製造コストの高さは否めず、購買部門にはコスト競争力の追求が一層求められるようになっています。

国内人材不足の深刻化

現場の人手不足は深刻で、特に熟練技能者の減少が顕著です。
「日本のものづくり」が維持困難になる中、現地OEM化は戦略的人材活用の観点からも有効となっています。

現地OEM化によるコスト削減のメカニズム

人件費・間接費の大幅削減

最大のメリットは、やはり人件費の削減です。
アジアや東欧などは日本に比べて人件費が1/3~1/10というケースも珍しくありません。
加えて、光熱費や物流コスト、現地調達による部素材コスト削減など、トータルで製品コストを大きく引き下げることが可能です。

為替リスクの回避と輸送コストの最適化

想定以上にコストインパクトが大きいのが為替リスク。
現地で販売・現地で生産というサイクルは、為替の急激な変動から利益を守るうえで極めて有効です。
また、完成品の長距離輸送から、現地内での短距離輸送に切り替わることで、輸送コストや納期リスクも低減できます。

現地調達とのシナジー効果

現地OEM先では、部品や原材料もその土地のネットワークを活かして調達できます。
地域特有のサプライヤー活用や、新たな調達先の発掘も促進され、これがさらにコスト低減を後押しします。

昭和から抜け出せないアナログ業界での現地OEM化の留意点

「現地任せ」だけでは危険!現場の声をどう活かすか

一方で、現地OEM化にはリスクも存在します。
日本のものづくりは、きめ細かい現場管理、多層的なチェック体制、暗黙知の活用など、昭和から続く「匠の世界」に支えられてきました。
現地委託先でも、製品仕様や品質要求が正確に伝わらず「こんなはずじゃなかった」という失敗事例も少なくありません。

現場目線で言えば「現地任せできない」細やかな管理や定期的な現地スタッフの教育・技術指導が必須です。
設計・購買・品質・生産管理など、日本側の複数部門が連携し、現地実態を把握する「Go & See(現地現物)」の意識が欠かせません。

設計・品質基準の「伝言ゲーム」化とその克服

アナログ業界では、設計図や仕様書にない“暗黙の約束事”が多々存在します。
現地OEM先では「なぜこの工程を守るのか」「この品質基準の意味は?」といった根本が理解されていないと、小さな不良が大事故につながるリスクも大きいです。
ここは「なぜ」を繰り返し、設計と現場両方の立場で対話を重ねるしかありません。
デジタルツールを活かした手順動画や“現場の生声”フィードバックサイクルの導入など、「現場標準化&可視化」の仕掛けが今や欠かせない時代です。

中小企業・町工場の底力と、大手OEM化のジレンマ

“日本的ものづくり”の強みの一つに、中小企業や町工場が発揮する器用さ・小回り・ものづくり魂があります。
これを“丸ごと”現地OEMに移管しきれないことも多いです。
また、大手企業の購買部門は“支配力”を過信しがちで、現地サプライヤーへの丁寧な信用・関係構築を怠ると、長期競争力の源泉を失う恐れがあります。

購買部門が現地OEM化を成功させるための実践ポイント

現場起点で「三現主義」を徹底する

モノづくり現場の本質は「現場・現物・現実」重視――三現主義です。
購買部門もこの基本に立ち返ることで、離れた現地でも日本品質・日本流の管理が継承されます。
OEM先に丸投げせず、第三者監査や定期現地視察、QA(品質保証)担当の現地出向など、踏み込んだ運用体制こそ最重要です。

多様なパートナーシップ戦略

OEM化は単なるコスト削減策であるだけでなく、現地パートナー企業との“共創”でもあります。
一方的な価格交渉ではなく、中長期の技術移転や教育投資、現地サプライヤーのレベルアップと、それを支える誠実な情報共有が、特に日本的ものづくりの強みを発揮するために重要です。

バイヤー視点のリスク管理・柔軟性

現地OEM化は「一度決めたら終わり」ではありません。
品質・納期・コストなど、定期的なパフォーマンスモニタリングと見直し、“セカンダリサプライヤー(第二購買先)”確保の柔軟性を持つことで、環境変化にも強い調達網となります。

今後の業界動向と購買部門のキャリア展望

グローバル化がさらに進む中で、購買部門は「交渉屋」から「戦略的サプライチェーンマネジャー」へと、その役割が進化しています。
自ら現場を歩き、技術・コスト・品質それぞれの現状を“肌で感じる”力こそ、今後最も求められる資質です。
また、現地OEM化のようなダイナミックな調達戦略を進めるためには、英語力や異文化コミュニケーション能力、そして現地人材を尊重したリーダーシップも不可欠となっていくでしょう。

サプライヤーの立場であれば、「日本のバイヤーは何を考えているか?」を知るために、彼らのコスト・品質・リスク両面でのバランス感覚や、調達戦略の“背景”を理解することが今後の差別化につながるはずです。

おわりに:現地OEM化時代に求められる「現場感覚」と「戦略的購買力」

日本の製造業がこのダイナミックな変化の只中で生き残っていくためには、アナログとデジタル、現場起点と経営戦略の“二刀流思考”が不可欠です。
現地OEM化は単なるコスト削減策ではなく、日本的ものづくり文化とグローバル競争力を両立させるための新たな地平線です。

購買部門や将来のバイヤーを目指す皆さま、そしてサプライヤー側でバイヤーの視点を知りたい皆さま――。
「現場を知り、現場で考え、現場で動く」実践力を持ちながらも、同時に世界を見渡し、つねに変化を味方につける柔軟性と戦略性を身につけていただきたいと思います。

昭和の匠の精神と令和のグローバル戦略が出会う、その現場にはまだ無限の可能性が秘められているのです。

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