投稿日:2025年9月16日

原価企画に購買部門が参画することで得られるコスト削減効果

はじめに:製造業現場が直面する原価管理の課題

製造業の現場では、コスト競争力を維持・強化することが常に問われています。
グローバル化や原材料費の高騰、顧客ニーズの多様化など、外部環境の変化が絶えません。
その中でも製品原価の管理は、収益性の根幹に関わる最重要テーマです。

しかし、依然として多くの企業では、「設計や開発が原価の大半を決めてしまった後」に、購買部門が調達コストの見直しに動く――いわゆる”後追いコストダウン”になりがちです。
この構造では抜本的な原価低減施策を打つことが難しく、結果として部分的な効果に留まるケースが目立ちます。

ではどうすればよいのでしょうか。
そのカギが「原価企画への早期参画」にあります。
この記事では、購買部門が原価企画段階から積極的に参画することで得られるコスト削減効果を、現場目線で深掘りします。
また、アナログな慣習が未だ根強い製造業現場における現実と、今後必要な視点についても提案します。

原価企画とは何か?~従来の流れとその壁~

まず「原価企画」とは、製品開発・設計段階から目標原価を設定し、それを達成するための活動を統合的に進める手法です。
トヨタの「コスト・プランニング」に代表されるように、価値とコストを同時に設計するアプローチです。

従来、原価管理は製品図面や仕様が確定した後、コスト計算が行われ、そこから、「高いから安くならないか」といった調整が始まる、という流れが一般的でした。
現場に根付く”アナログ文化”ゆえ、設計と購買が縦割りで意思疎通も限定的。
設計担当者は「必要な部品仕様」をまず決めてから、「調達できるかどうか」を購買部門に相談する後追い形式が横行してきました。

このため、「こんな仕様では量産調達コストが高くなる」と気づいても、既に設計が凍結されており、根本からコスト構造を変えることができません。
この縦割りと後追い体質こそが、製造業が”昭和感”から抜け出せていない要因です。

原価の80%は設計段階で決まる

よく言われるように、コスト構造の約80%は設計段階で決まると言われています。
材料の選択、加工方法、組立性、部品の共通化・規格化――。
設計初期の選択が大きなインパクトをもたらします。

つまり、「購買部門が後から頑張って交渉しても、抜本的なコスト低減には限界がある」のが現実です。
いち早く原価企画に参画し、「設計に調達の視点をインプットできるか」が大きな分かれ道となります。

購買部門が原価企画へ参画する3つのメリット

購買部門が原価企画に早期参画することで、どのようなコスト削減効果が期待できるのでしょうか。
現場経験をふまえ、3つの代表的なメリットを挙げます。

1. 部品仕様の最適化によるコスト削減

購買部門は、日頃から様々なサプライヤーや市場動向に接しています。
原材料の価格変動、加工可能な技術範囲、量産に適した規格――。
この生きた「調達知見」が、設計段階で活きるのです。

例えば、設計担当者が「強度をもう少し高くしたい」と考えた際、必要以上に高価な特殊材を選ばず、一般規格品で十分な強度が得られる場合も多いです。
こうした知見を購買部門が設計部門に提案できれば、無駄なコストを設計段階から省くことができます。
また、部品点数やバリエーションを絞り込むことで、発注ロットの拡大や量産効果でコスト低減にもつながります。

2. 量産移行時の調達リスク・コスト回避

新製品開発時は試作品中心で進みがちですが、量産段階で調達リスクが顕在化するのは「よくある落とし穴」です。
「この部品は特定サプライヤーでしか作れない」「納期に数か月かかる」「ミニマムロットが高すぎて原価率が悪化」――。
設計部門のみでは気づきづらい現場目線のリスクも、購買部門の早期参画で回避できます。

試作段階からサプライヤーに直接コンタクトし、「量産時に価格・納期・品質が安定するか」を見極めることも重要です。
大手企業では「コンカレント・エンジニアリング」として、設計・購買・品質・生産が横断チームで動く体制を採用しています。
こうした体制でこそ、原価企画の成果が最大化されます。

3. サプライヤー連携による新たなコストダウン手法

購買部門がサプライヤー各社とのネットワークを活かし、「こういう仕様なら、もっとコストを下げられる」「この材料なら新たな加工法で省力化できる」といった提案型のコスト削減が可能です。

時には、サプライヤー側が持つ最新技術やノウハウ(例えば、複数部品の一体化や新材料の適用)を設計初期段階で組み込むこともできます。
この「バリューチェーン全体を巻き込むコストダウン」は、購買部門だけで動くのでは実現困難です。
原価企画への参画によって、サプライヤー提案の吸い上げと実際の設計反映までを一本化できます。

現場の壁~なぜアナログ体質から脱却できないのか

ここまで購買部門の早期参画メリットについて述べてきました。
しかし、現実の現場では「購買部門は原価企画にあまり関わらない」「設計主導で話が進み、購買は最後に呼ばれるだけ」という風土が未だ根強く残っています。

これはなぜなのでしょうか。

風通しの悪い縦割り組織構造

長年続いてきた縦型組織では、それぞれの部門で役割意識が固まっています。
設計部門は「仕様を決めるのが自分たちの仕事」、購買部門は「図面が確定してから調達コストを下げるのが仕事」と認識しがちです。
部門間の連携が弱いままでは、原価企画段階での知見共有や役割分担がうまく機能しません。

評価指標・人事制度が障壁に

設計部門は設計品質や日程遵守が第一の評価軸、購買部門はコスト低減実績や購買業務の効率が重視される。
このような評価体系に縛られ、部門の垣根を越えた主体的な参画・協調が生まれにくいのも、日本の多くの製造業で見られる共通課題です。

現場の知識・経験の属人化

購買部門やサプライヤーの技術知見が暗黙知・属人化しており、一部のベテラン社員に頼ってしまっている現状も見逃せません。
知見やノウハウが組織全体で共有されないため、次世代設計者や若手バイヤーが積極的に原価企画に参画しずらくなっています。

これからのバイヤーに求められる「攻めの役割」

今後、グローバル競争やサプライチェーンの複雑化が進む中で、購買部門に求められる役割も大きく変わっていきます。

単なる「交渉役」から脱却し、商品設計や技術企画段階から積極的に参画し、「部品や原料の選定」「サプライヤー巻き込み」「横断的なコスト構造改革」を推進する“攻めのバイヤー”像が主流になっていきます。

データ×現場知見×関係性構築

DXの進展で設計情報や調達価格の見える化が進みつつありますが、最終的には「現場が肌で感じた課題」「サプライヤーとの信頼関係」「部門を横断した意思疎通力」がカギを握ります。

バイヤー自身が設計や品質、サプライヤー技術まで広く関心を持ち、商品企画メンバーの一員として価値を発揮できるかが、これからの製造業現場の競争力となるでしょう。

サプライヤーの立場から見た原価企画参画のポイント

サプライヤーの方々にとっても、原価企画段階からバイヤー・設計部門と深く絡むことは大きなビジネスチャンスです。

「コストが合わないから発注できない」ではなく、「こうすれば量産時に低コスト化できる」といった逆提案や、「設計との共創」に積極的に関わることが今後重要性を増します。
技術提案型サプライヤーは、上流段階からバイヤーに働き掛けることが自社の案件獲得や収益向上につながるのです。

まとめ:製造業の発展は“バリューチェーン全体の協業”から

原価企画への購買部門の早期参画が、いかに抜本的なコスト競争力の源泉となるかを解説してきました。

そのために必要なのは、部門の垣根や従来の評価軸を越え、「設計・購買・サプライヤー」それぞれの視点を持ち寄るラテラル思考です。
“昭和型の縦割り文化”の呪縛を抜け出し、デジタル・リアルを融合した新たなモノづくりの姿へ――。
それこそが世界に伍する製造業の未来を切り拓く力になるのです。

購買部門、バイヤーを志す方、サプライヤー各位、それぞれの立場で「原価企画参画によるコスト削減」を実践し、より良い現場変革を共に進めていきましょう。

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