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購買契約のフレームアグリーメントを活用したコスト削減効果

目次
はじめに:フレームアグリーメントが求められる理由
購買部門の役割は、単にモノを安く仕入れることだけにとどまりません。
品質、納期、サプライチェーンの安定性といった多くの要素を総合的に判断し、経営戦略の根幹となる重要な業務です。
中でも「コスト削減」は調達購買の大きなテーマですが、過去のような単純な値下げ交渉だけに頼る手法は、もはや限界を迎えつつあります。
そんな中、今日の製造業で注目されているのが「フレームアグリーメント(長期包括契約)」の活用です。
日本の製造業は昭和時代からのアナログな慣習が根強く残る業界ですが、グローバル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の波を受けて、調達・購買手法にも変革が迫られています。
この記事では、フレームアグリーメントの基礎から現場に根ざした活用ノウハウまで、コスト削減効果と共に具体的に解説します。
また、サプライヤーとしてバイヤーの要求や考え方を読み解く視点も盛り込みます。
フレームアグリーメントとは?基本をおさらい
フレームアグリーメントの定義と特徴
フレームアグリーメント(Frame Agreement)は、「包括購買契約」とも呼ばれます。
ある一定期間、あらかじめ合意した価格・条件・取引数量などを枠組みとして定め、個別発注ごとに細かく価格交渉するのではなく、合意の範囲内で注文や取引を運用する契約です。
代表的な特徴は以下の通りです。
– 発注毎の価格や条件交渉が不要になるため、業務の効率化が図れる
– 発注量や期間の合計見込みをサプライヤーに約束することで、一定のコスト削減が実現しやすくなる
– サプライヤー側の安定需給・生産計画が可能になり、相手企業との信頼関係構築につながる
– 大口注文や長期取引となるため、サプライヤーへの影響力(バイイングパワー)が高まる
現場に根付く従来型(スポット購買)との違い
従来の“案件ごとに個別見積をとる”スポット購買は、調達の即効性や柔軟性には優れていますが、以下のような課題が根強く指摘されてきました。
– 個別交渉に手間がかかり、担当者の経験やスキルに業務品質が依存しやすい
– 発注ロットが小口・短納期に分散しやすく、コストダウンが進みにくい
– サプライヤーに安定受注のメリットが乏しく、提案活動や生産効率向上へのインセンティブが低い
これらを解決するために、フレームアグリーメントの導入が非常に有効なのです。
フレームアグリーメントによるコスト削減のメカニズム
数量集約によるスケールメリット
調達品ごとに毎回小口注文するケースと比べて、「○年間に△万個を購入する」など総量を束ねることで、サプライヤー側は材料調達から製造ラインの生産計画まで先を見通した効率化が実現できます。
この“予見性”は在庫コストや段取り替え工数の削減につながり、最終的にはバイヤーへのコストメリット還元が期待できます。
受発注コストの低減
毎回の見積取得、価格交渉、注文書発行、検収などの事務作業をフレームアグリーメントで「ひとまとめ」にすることで、工数が大幅に削減されます。
業界最大手では、年間数千回に及ぶ取引をフレーム契約化し、間接コストの20~30%圧縮に成功した事例も見受けられます。
サプライヤー側の価格転嫁余地の抑制
単発発注の場合は、サプライヤーが市場変動や予期しないコストアップを都度価格に反映しやすい傾向があります。
一方、フレームアグリーメントで先に値決め(価格固定)することで、サプライヤー側も無闇な価格転嫁はできず、経営の“値上げ圧力”低減にも寄与します。
日本の製造業でフレームアグリーメント普及が遅れた背景
昭和の慣習が根強い“顔の見える購買”文化
日本の製造業では、長らく「担当者の顔で買う」「現場ごと、案件ごとに個別対応する」といった商習慣が根強く残り、フレームアグリーメントの導入は遅れていました。
実際、下請けネットワークが複雑化した昭和時代では、イレギュラー対応や現場判断が重宝され、標準化・契約体系の整備は後回しにされがちでした。
“一品もの”志向と短サイクル開発の問題
自動車や家電製造の現場では設計変更や短納期対応が頻繁に発生し、「計画通りに数量確定ができない」「変化に応じたフレキシブルな対応」を重視する企業文化もありました。
これが数量集約や固定価格に懐疑的な空気感を生み出していました。
IT・デジタルシステムの未整備
発注・受領・在庫管理などのシステム統合が中途半端な状態では、フレーム契約の有効活用が難しいのも現実です。
“紙の伝票”“口約束”に頼った調達現場には、業務の標準化と契約管理の見える化こそが強く求められています。
実践知:フレームアグリーメント導入・運用のポイント
① 対象選定:フレームアグリーメントが効果的な調達品とは
すべての調達品がフレーム契約に適するとは限りません。
最も効果が発揮されるのは、下記のような品目です。
– 年間を通じて調達ボリュームが安定し、需要変動が小さい品目(ネジ、樹脂部品、標準部品など)
– 複数の部門や工場で共通利用され、高い数量集約効果が期待できる品目
– サプライヤーにとって製造リードタイムや設備投資に大きな影響を与える品目
開発品やカスタム形状部品は、一度設計が決まれば量産移行後にフレーム契約化を検討するのが現実解です。
② 条件交渉:価格以外の“裾野交渉”も忘れずに
日本型取引の悩みとして「価格だけの交渉」に終始しがちな傾向がありますが、フレームアグリーメントこそ納期、検収条件、品質対応、予備品・非常時対応など総合的な合意形成が重要です。
特にグローバル調達では「納入地、関税処理、為替リスク分担」など、契約条項ごと抜け漏れのない精査が求められます。
③ 期間・数量の柔軟設計とPO発行管理
フレーム契約期間は1年~3年が標準ですが、市場変動や自社事業戦略に応じて「半年ごとの見直し」「期中のリオーダー条件」など、バッファー設計も抜かりなく。
発注(PO)管理は、ERPシステムや購買管理ソフトを活用して「発行残数」「消化状況」のリアルタイム把握が理想です。
紙ベースの場合は、エクセル等で台帳一元管理→月次レビュー運用に移すことで、契約消化漏れや発注超過リスクを最小化できます。
④ サプライヤーとのウィンウィン関係構築
“バイヤー優位”で過剰な価格引き下げ圧力をかけるのは逆効果です。
サプライヤーに「安定取引」「在庫積み増しの協力」など、新たな付加価値提供をお願いする場合は、その分の対価やインセンティブも明確に設計し、真のパートナー関係作りを心がけましょう。
バイヤーとサプライヤー、両者視点の“本音”と落とし穴
バイヤー視点のメリットとリスク
– 組織として大量購買交渉力の確保と、購買部署業務の標準化が進みます。
– ただし、契約通りの消化不足=キャンセルが発生しやすく、サプライヤーとの信頼関係悪化の火種にもなり得ます。
– 数年間価格を固定すると、相場下落時に不利になるリスクもあります。
サプライヤー視点のメリットと対処法
– 安定受注による設備稼働率・在庫回転率の向上、長期的な関係強化がメリットです。
– バイヤーの契約消化不足や納期急変動への備え、「契約通り消化されないリスク」を念頭に置き、ペナルティ規定や最小ロットの設定など自衛策も必要です。
フレームアグリーメント活用で未来の調達現場へ
DX時代の到来で、購買は「単なる価格交渉」から「調達インフラの構築」へと進化を求められています。
フレームアグリーメントは、その架け橋となる強力な武器です。
標準化、コスト競争力、取引リスク低減といった現代的なテーマに応えるため、新たな調達像を自ら描く現場主導型イノベーションをすすめましょう。
購買・バイヤー部門の皆さんは、ぜひ自部署の現状を棚卸しし、自社の競争優位につなげてください。
また、サプライヤーの方々も“体の良い値下げ要請”に終わらせず、提案型営業や安定供給への貢献を自社の武器にしましょう。
フレームアグリーメント活用で、製造業は更なる地平線を切り拓くことができます。
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