投稿日:2025年9月14日

中小製造業との共同開発で実現する設計段階からのコスト削減効果

はじめに:設計段階こそコスト削減の勝負どころ

製造業におけるコスト削減は、利益率向上や競争力維持に直接つながる重要なテーマです。
その中でも、設計段階からのコストコントロールは、後工程での改善に比べて何倍もの効果が期待できます。
とりわけ、中小製造業とバイヤー企業が「設計段階からタッグを組む」ことで、従来型のアナログな商習慣から一歩踏み出した大胆なコスト削減策や差別化が可能となります。
本記事では、現場目線の実践的なノウハウと、日本の製造業界古来の“昭和的な壁”をどう突破するかという観点を交えながら、設計段階における共同開発の意義と具体策、そして期待できるコスト削減のインパクトを解説します。

なぜ設計段階からのコスト削減が重要なのか

コストの8割は設計で決まる―よくある誤解とは?

多くの製造業従事者や生産管理を担当する方の間で「コスト削減=購買・生産段階での原価低減」と考えがちです。
しかし、実際には完成品のコストの8割近くが設計段階で既に決定されているといわれています。
図面が固まった後でいくら購買条件を詰めたり、生産効率を高めたりしても、抜本的なコストダウンには限界があるのです。

設計変更のコストインパクトが大きい理由

設計とは、製品に使用する部品の形状や材料、寸法公差、組立条件といった「すべての仕様」が集約されるタイミングです。
この時点で余分な品質や過剰な精度を盛り込んでしまうと、その後の購買から生産、在庫保有、品質検査、保守に至るまで全てが“重く高く”なってしまいます。
この初期段階こそ、共同開発による「設計最適化=未然コスト削減」が最も効いてくる局面なのです。

昭和的体質が障害?日本の中小製造業が抱える課題

「できたものを買う」から「一緒につくる」への大転換

従来の日本型取引慣行は、図面を最上流のメーカーが一方的に描き、それを中小のサプライヤーが受け取って見積もり、作るという流れが一般的でした。
ここには「あうんの呼吸」や「長年の付き合い」が色濃く残り、サプライヤー側は図面通り作る以上の創意工夫や改善提案の余地が少ない構造となることが多いです。

現場に眠る“知恵”の活用不足

多くの中小製造業は、長年蓄積してきた加工技術や現場改善ノウハウをもっています。
しかし、設計段階でその知見を活かすチャンスがなければ「ベテラン職人のひと工夫」「ライン生産の現場アイデア」がコスト削減や品質向上につながることはありません。
DXやIoTの波も、設計現場と製造現場の壁を越えて初めて真価を発揮します。

共同開発がもたらす設計段階のコスト削減メリット

1. 材料コスト削減の現実解

材料費は直接原価の大きなウェイトを占めます。
設計者が十分な材料知識を持たず「とりあえず標準品を選定」した場合と、現場サプライヤーと共同で材料削減検討を行う場合とでは、数%~数十%の違いが出ることもあります。
例えば薄肉加工が得意なサプライヤーと意見交換すれば“強度同等・軽量化案”が活き、必要最小限の材料で設計できるのです。

2. 工法転換による工数圧縮

共同開発の初期レビューで「フライス+穴あけ+タップ」のような複雑工程の部品も、「プレス+スポット溶接」や「ダイカスト」に置き換えることで、現場負担を大幅に削減できます。
下流工程で“簡単な作業”に分解できれば、部品コストの低減と納期短縮が両立します。

3. 組立性・検査性の向上

設計段階から現場エンジニアと議論することで、「組み立てながら同時に検査できる治具設計」や「フールプルーフ化した設計」など、人的ミスや検査工数の削減が実現します。
この手法は品質トラブルや再作業コストの大幅減にもつながります。

成功事例に学ぶ「設計段階からの共同開発」

切削加工→プレス化でコスト60%減

ある精密機器メーカーでは、従来切削加工だった金属カバー部品について、中小サプライヤー主導の工程FMEA(故障モード影響解析)を実施。
見積段階で「この形状であればプレス成形で十分形状と強度が確保できる」と提案され、量産イニシャルコストは上昇しましたがトータルコストで60%の圧縮に成功しました。
この事例のポイントは「最初から設計レビュー会議に現場サプライヤーのリーダーを招いた」ことです。

アッセンブル工程簡略化と「モジュール提案」

自動車部品サプライヤーでは、数社の中小企業でユニット化(モジュール化)問題をプロジェクト化し、「すべて現場職人が参加するモジュール設計ワークショップ」を開催。
溶接部品群をひとつの治具で一括加工できるよう設計し直し、顧客の組み立て工数3分の1、サプライヤー側のロジスティクス工数2分の1を達成しました。

昭和的“壁”を突破するためのポイント

設計部門とバイヤー、そして現場サプライヤーの「三位一体」

理想的な共同開発フローは、発注元の設計担当、調達バイヤー、サプライヤー現場責任者の三者が、ローンチ段階から同じテーブルにつくことです。
バイヤーは価格交渉の“鞘取り”役だけでなく、「設計QCD最適化会議の司会・ファシリテーション」にも積極的に関わるべきです。
このガイダンス役がいなければ、サプライヤー側も「自社都合」の提案しかできなくなり、全体最適が遠のきます。

現場目線ワークショップと“現代版あうん文化”の醸成

現場改善の最大エッセンスは「本音と本質」の両立です。
図面(紙)ではなく、試作サンプルや現場動画を持ち込んで議論するワークショップは、昭和的“経験値の暗黙知”を形式知に変える第一歩です。
定期的なリアルな場の創出を意識しましょう。

DX・デジタル活用で「壁の透明性」を高める

クラウドCADや共同設計プラットフォーム、現場IoTデータ可視化などDXツールは今や必須です。
現場作業の詳細を設計者・バイヤーが“リアルタイムで見える化”することで、古い「壁」は徐々に取り払われます。
業種・業態を超えて情報が共有できる環境整備を、会社規模に関係なく模索してください。

これからのバイヤーに求める「設計段階からの提案力」

サプライヤー目線での“コストの源泉”に気づく

調達購買担当者やこれからバイヤーを目指す方には、サプライヤー現場の“痛み”や“もどかしさ”を肌で理解してほしいです。
その上で「なぜこの仕様が高くなるのか?どうすればムダを減らせるか?」を設計者と一緒に掘り下げること。
こうした現場感覚に裏打ちされた設計提案力こそ、今後世界で戦うための日本製造業バイヤーの強みとなるのです。

環境変化とサステナビリティ思考も忘れずに

脱炭素やグリーン調達など、今後設計へ求められる外部要件はますます増えていきます。
サプライヤーとバイヤーが最初から「持続可能な材料・省エネ加工・資源循環」までを意識して設計に取り込むことで、将来リスク低減と社会的評価の向上も同時に達成できます。

まとめ:設計段階からの共同開発が“競争力”を決める

設計段階から中小製造業の知見や技術を巻き込むことによって、型通りのコスト削減にとどまらず、設計・調達・生産の全体最適化、現場力の強化、差別化技術の創出が実現できる時代となりました。
難しいのは“壁”を乗り越える最初の一歩です。
だからこそ、設計担当・バイヤー・サプライヤー現場が本音で議論し合い、「今なぜこのコスト改善が必要か」「どうすればみんなが得をするか」に真正面から向き合いましょう。
昭和から令和へ。日本の製造現場には、まだまだ価値ある知恵と可能性が眠っています。
今こそ設計段階からの共同開発に踏み出し、自社と業界の未来を切り拓いていきましょう。

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