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港湾T/Sでの“Shut Out”発生時の費用負担とリルーティング判断

目次
はじめに ― 港湾T/Sにおける“Shut Out”の現実
製造業に従事している方や購買・調達担当者、バイヤー、更にはサプライヤーの皆様にとって、国際物流の現場は常に予測不能なトラブルとの隣り合わせです。
中でも港湾におけるトランシップ(T/S: Transshipment)で発生する“Shut Out”は、納期遅延や追加費用の発生といった形でサプライチェーン全体に大きな影響を及ぼします。
最近でも、コロナ禍・地政学リスク・海上運賃高騰など外的要因によって、従来見過ごされがちだった港湾T/Sのリスクが顕在化してきています。
この記事では、現場目線から“Shut Out”が発生した際の費用負担の在り方や、リルーティング(代替ルート選定)判断の実務について深掘りします。
“Shut Out”とは何か ― アナログ業界に根付く現象
Shut Outとは、トランシップ港で船積み予定だったコンテナが何らかの原因で予定船に積みきれず、次便以降に回されてしまう現象を指します。
“積み残し”と言われることもあります。
この原因は多岐にわたりますが、以下のような要因が多いです。
コンテナスペースの不足
世界的なコンテナ不足や運航スケジュールの大幅な乱れが起きた場合、予約していたはずの積み替え便にスペースが足りなくなるケースがあります。
遅延や書類不備
トランシップ港までの到着遅延や、インボイス・パッキングリスト・B/L(船荷証券)等の書類手違いによるタイムロスも、Shut Out発生の主要因です。
港湾現場のアナログ管理
一部の港湾では今なお手作業や紙ベースの管理が幅を利かせており、突発的な状況変化に柔軟な対応が難しい、という業界特有の“昭和体質”がShut Outを引き起こす背景にあります。
Shut Outがもたらすコストとダメージ
リードタイムの延伸
最短で到着するはずだった貨物が次週以降の便に回されれば、納期は1週間以上遅延するのが通例です。
これが生産計画に与えるインパクトは甚大です。
追加費用の発生
港湾での滞留により、以下の追加費用が発生します。
- デマレージ(港やコンテナヤードでの保管延長費用)
- 再積み替え費用やドキュメント変更手数料
- 現地トラック待機料や諸経費
これらは一過性のものではなく、貨物量や積み替え回数・期間によって雪だるま式に増えます。
ブランドイメージ・信頼への毀損
顧客納期対応が曖昧になることで、商談機会やブランド価値の低下にも繋がります。
費用負担の原則 ― インコタームズと実務の“溝”
一般的に費用負担基準は、インコタームズ(貿易取引条件)に準じます。
例えばFOB(本船渡し)やCFR、CIFなど輸送責任の所在が明確化されていますが、Shut Outのようなイレギュラーリスクまでは明示的ではありません。
従って実際の現場ではインコタームズと、契約書の細則・過去の商習慣が交錯し、“グレーゾーン”が生まれやすいのが実情です。
バイヤー・サプライヤー両者の立場
バイヤー側は「納期=信用」であり、サプライヤーがリスク回避や情報開示にどれだけ誠意ある対応をするかを強く見ています。
逆にサプライヤー側も、過度な責任転嫁や実費負担を回避したい思惑があり、互いの温度差は“トラブル未満トラブル”として定期的に顕在化します。
この点は、今なお多くの製造業現場で“昭和から続く交渉劇”の温床となっています。
現代の標準は共同負担+情報の透明性
先進的なメーカーやグローバルサプライチェーンを持つ企業では、「問題が起きたら、まずは関係者全員で負担割合や即応方法を協議する」「トラブル情報を包み隠さず早期共有する」体制が標準になりつつあります。
経験則からも、最終納品物責任はバイヤー・サプライヤーの協調によって支えられるべき、という方向が主流です。
リルーティング判断の論点とコツ
Shut Outが確定・懸念される場合、最も重要な意思決定は「既存ルートで粘るか、リルーティング(別航路・輸送手段へ切り替えるか)」です。
コスト・納期・実現可能性の三本柱
この判断は簡単ではありませんが、以下の三要素で論点を整理すると良いです。
1. コスト:代替便予約、陸送手配、エア貨物への切り替え等でいくら追加コストが発生するか。
2. 納期:納入先に間に合わせるための際限と、バッファがどの程度許容されているか。
3. 実現可能性:代替手段(例えばサブライン、航空便、他港経由)は実務的・契約的に実現できるか。
リルーティングの具体的手順
現場経験からすると、以下のフローで判断を進めるのが有効です。
- 現地代理店や物流業者から最新のT/Sスケジュールとスペース状況をリアルタイムで収集する
- 納入先との間で納期遅延の許容範囲、場合によっては部分納入も含めて柔軟な協議を進める
- バイヤー・サプライヤー間で現情勢を早期に可視化し合い、公平な負担割合・即決できる権限委譲を明確化する
- 可能なら一部貨物のみエア便に切り替え、在庫危機をしのぐ
- 全ルートで手詰まりなら「リスク再発防止」のための根本原因究明まで一気に進める(現場への責任転嫁“だけ”は禁止)
デジタル化・アナログ現場の折衷案
昨今はIoTやリアルタイムトラッキングの強化、EDI(電子データ交換)の浸透で、港湾現場でも比較的早いアラート発報が可能になってきました。
しかし依然、ノーアラートで担当者の電話一本に全てが委ねられる“昭和流アナログ処理”の現場も多いため、危機対応マニュアルの社内・社外共有が業務効率化のカギです。
Shut Out対応で評価されるバイヤー・サプライヤーとは
製造業の調達現場で「信頼されるバイヤー」「選ばれるサプライヤー」とは、平時ではなく非常時対応、すなわちShut Outのようなイレギュラー時にこそ差が出ます。
情報感度と即応力
現場経験の長いバイヤーやサプライヤーは、現地情報をリスニング・ダブルチェックし、グレーゾーンを潰して業務を前進させます。
トラブル時は「情報キャッチの速さ」と「責任分担・救済案の柔軟な打ち出し」が信頼に直結します。
過去の交渉経験に基づいた“イレギュラー解決ノウハウ”
日常的に昭和体質のグレー対応を多く見てきた現場経験者ほど、文書化しづらい現場事情も温度感を理解し、「無理難題を一緒に乗り切る術」を体得しています。
こうしたバイヤー・サプライヤー間の“現場力”が、結果として全サプライチェーンの底力を底上げしています。
今後の方向性 ― 昭和から脱却したサプライチェーン改革を
港湾T/S発のShut Outリスクは、多くの製造業企業の悩みの種であり続けています。
今後は、「データに基づく透明性」と「現場主義のイレギュラー対応力」の両立が大きな差別化ポイントとなります。
特に、アナログ業界が多い製造業界においては、
・契約書へのリスク負担明確化条項挿入
・サプライヤー・バイヤー間でのリルーティング判断基準の事前すり合わせ
・トラブル発生時の感染拡大防止的な情報伝達ルール
を明文化し、実践レベルで運用できるよう整備することが重要です。
また、将来的な自動化(AI物流、ビッグデータ活用)も見据え、「人依存」を減らしながら、“有事には人が動く”現場力との最適バランスを目指すべきです。
まとめ
港湾T/SでのShut Out問題は、単なる物流トラブルではありません。
それは、サプライチェーン全体の“現場力”と“信頼のマネジメント”が試されている瞬間です。
ベテランも若手も、バイヤーもサプライヤーも、自社とパートナーの枠を越えた「共創姿勢」で乗り越えることで、製造業の競争力はさらに高まるでしょう。
今こそ、昭和的なアナログ慣習と最新システムのベストミックスで、“港湾Shut Outリスク”に立ち向かうべき時代です。
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