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原価の可視化と総コスト・マネジメント法によるコスト改善への活かし方

目次
はじめに:製造業現場における「原価の可視化」とは
原価の可視化は、製造業にとって永遠の課題です。
バイヤーやサプライヤー、現場の生産担当者・工場長など、業界に携わるすべての人たちが、「もっとコストを下げたい」「どこに無駄があるのかを知りたい」と考えています。
昭和から続く日本のものづくり現場は、いまだに紙とエクセルでの管理も根強く、デジタル化が遅れている面も否定できません。
しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション)やIoTの導入が進む現在、原価を正確に把握し、それを総コスト・マネジメントにつなげることが競争力を高めるカギとなっています。
この記事では、現場視点から、原価の可視化がもたらすメリットと、総コスト・マネジメント手法の実践的な手順について解説します。
また、実際の業界動向や、サプライヤー・バイヤー双方の立場での着眼点なども交えて具体的なコスト改善戦略を紐解きます。
原価の可視化の重要性とその現状
なぜ、原価は「見えない」ままなのか
多くの工場では、原価計算の主役はまだ紙伝票やエクセル管理です。
情熱的な職人肌の現場リーダーが「どんぶり勘定」を口にする現実もあり、現場ごとの実数値と経理側の数値がかみ合わないケースも散見されます。
また、外注先や資材の単価が流動的な昨今、正確な原価情報をリアルタイムで関係者が共有できている現場は、まだまだ少数派です。
この状態では、「なぜ利益が出ないのか」「何を改善すれば利益が出るのか」という問いに、明確な答えを出すのが難しいままとなってしまいます。
原価の可視化がもたらすメリット
原価を可視化することで、組織には以下のような変化が生まれます。
・コスト構造の“どこに無駄があるか”が明確になる
・業務プロセスのムダ・ムリ・ムラが数字で見える
・現場から経営層まで、共通言語で「コスト」を語れる
・改善効果の見える化で、次なるアクションの根拠が生まれる
実際、「どこから手を付ければよいかわからない」という停滞感から、「これをやれば利益が増える」と確信を持って改善に取り組む現場へと、組織風土が変わっていきます。
昭和型アナログ管理からの脱却
日本の製造業は、現場力と経験則で世界をリードしてきました。
一方で、工程ごとの原価や、設備稼働コストなどは「肌感覚」や「経験値」での采配となるケースも珍しくありませんでした。
しかし、グローバル競争の激化や、原料費高騰、慢性的な人手不足といった課題に直面する今、デジタルツールによる原価の見える化は、企業存続の“生命線”といえる時代になっています。
総コスト・マネジメント法の実践ステップ
STEP1:原価構成要素の正確な把握
まずは、「原価とは何か」を現場と共通認識することが大切です。
原価には大きく、以下の5つが関係します。
1. 材料費
2. 労務費
3. 経費(間接費)
4. 設備・減価償却費
5. 外注費
各要素を、部門横断型で棚卸しし、現状把握を徹底することからスタートします。
ここで重要なのは、「見えにくい間接費」や「手待ち時間」「仕掛在庫」などの見落としがちなコストも網羅的に洗い出すことです。
STEP2:データをもとにした“事実”の共有
原価構成が明らかになったら、現場・経理・調達・生産技術など複数部門で情報を共有します。
この段階では、「勘や経験」ではなく、現場から吸い上げたリアルなデータをもとに議論します。
例えば、材料歩留まり率や工程内不良率、設備の稼働停止による損失額など、数値で事実を掴みます。
また、「問題の起点はどこか」「どの工程が高コスト体質か」といったボトルネックも明らかにしましょう。
STEP3:コスト改善立案とシミュレーション
次に、洗い出したデータをもとに改善案をブレストします。
この際、いま流行のラテラルシンキング(水平的思考)で既成概念にとらわれず、従来のやり方を「本当に必要か?」「デジタル化で置き換えられないか?」と、徹底的に見直すことがポイントです。
例えば、複数工程を一気通貫で自動化、外注から内製化・もしくは逆に徹底外注化など、“枠を超えた”案にもチャレンジしましょう。
そして、改善施策ごとに投資額/効果額/回収期間などをシミュレーションします。
現場の肌感覚だけではなく、数値でも「やるべき理由」を示すことで、全社的な合意が得やすくなります。
STEP4:PDCAサイクルによるコストマネジメントの定着
どんなに素晴らしい改善案でも、現場に定着しなければ意味がありません。
実施後は、必ずPDCAサイクル(Plan・Do・Check・Action)を回し、コスト状況の変化を定点観測します。
コスト指標ごとに月次・週次でモニタリングし、「目標との差」を迅速にフィードバックしましょう。
改善の成果を「見える化」して共有することで、現場のモチベーションアップにもつながります。
原価改善を加速させるDXと自動化の活用
IT・IoTツールの導入効果
ここ数年、製造業でもMES(製造実行システム)や原価見える化ツール、IoTセンサによる設備モニタリングなど、デジタル化が広がっています。
例えば、生産ラインごとにリアルタイムで原価を収集し、自動でコスト分析できる仕組みがあれば、「どの工程のどのタイミングでコストロスが発生したか」を即座に掴むことができます。
各部門が同じデータを見ながら議論することで、部門間の壁も低くなり、コスト削減の施策もスピーディーに走り出せます。
工場自動化(FA)の原価削減インパクト
人手不足対策とコストダウンを同時に叶える切り札が、工場自動化(ファクトリー・オートメーション)です。
例えば、溶接や組立、検査など、これまで「人の勘」で担ってきた工程も、ロボット化や画像認識AIで置き換えることで、人件費と不良品コスト両方を低減できます。
自動化投資は初期にコストを要しますが、原価見える化ツールと組み合わせることで、「どれだけ投資分を回収できたか」もリアルタイムに評価できるため、安全かつ大胆な現場改革が実現します。
バイヤーとサプライヤー、それぞれの原価意識とコスト改善観点
バイヤーが考える“真のコスト管理”
購買担当やバイヤーは、「値引き交渉だけがコストダウン」だと思われがちですが、実際には異なります。
“総コストマネジメント”の視点を持つバイヤーは、サプライヤーごとの材料歩留まり率・品質ロス・物流コストまで俯瞰的に把握しています。
さらに、購買戦略として、サプライヤーとの共同改善(VA/VE活動)や、グローバルソーシングなど、多面的なコスト改善を推進します。
このようなバイヤーは、現場原価の深い理解があるため、
・「サプライヤーの現場で本当にコストを削減できるポイント」
・「自分たちの発注仕様や工程に無駄があるのでは?」
と、より本質的な課題抽出と施策立案が可能です。
サプライヤー側に必要なコスト理解と提案力
一方サプライヤーの立場で考えると、「なぜこのコストが必要なのか」「どうしたら原価がさらに下がるか」を明快に説明できることが大切です。
価格のみの値下げ要求に短絡的に応じるのではなく、
・工程効率化や不良率低減による間接的なコストメリット
・標準仕様化や資材共同調達によるスケールメリット提案
といった付加価値型の提案ができれば、競争力強化と受注拡大につながります。
原価の構造を「見える化」し、バイヤーとともに“ウィン・ウィン”な関係を作ることが今後ますます重要になります。
今後の業界動向と原価マネジメントへの示唆
昭和的体質からの脱却と、新しい原価管理の潮流
2024年以降も、調達環境の不安定化や、電気・ガスなどエネルギーコストの高騰、持続可能なサプライチェーンへの転換(SDGs対応要求)などにより、日本の製造業を取り巻く原価環境はより一層厳しさを増します。
それゆえ、「今まで通り」昭和的な管理スタイルや現場丸投げ営業スタイルは、早晩行き詰まりを見せるでしょう。
これからは、現場のリアルタイムデータを経営判断・バイヤー戦略に即活かせる“データドリブン原価経営”が主流となっていきます。
若手・未経験バイヤーやサプライヤーが身につけたい力
これからバイヤーやサプライヤーを目指す方は、エクセルや伝票処理だけで満足せず、「なぜこのコストが発生するのか」まで現場目線で“深掘りする力”を養いましょう。
また、ITツールや業務自動化の知識を持つことが、従来以上に強い武器となります。
さらには、部署を超えて他職種とコミュニケーションを取れる「横断型の調整力」が、これからの製造業に必須のスキルです。
まとめ:総コストマネジメントと現場力の融合へ
原価の可視化と総コスト・マネジメントは、製造業の競争力の根幹を成すものです。
「仕方がない」ではなく、「なぜ・どうすれば・どこで起きているのか」を深く問い続ける現場力と、数字をもとに全体最適を志向するマネジメント、両者の融合が未来の成長の鍵となります。
昭和型の“勘と経験”も大切ですが、それらをデジタル情報とリンクさせ、「新たなコスト改善の地平線」を切り開くことが、真に強い製造現場への第一歩です。
ひとりでも多くのバイヤー・サプライヤーの皆様が、原価見える化と総コストマネジメントを推進し、それぞれの立場から製造業発展の原動力となることを心より願っています。
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