投稿日:2025年8月24日

社内用語辞書を共有ノートに作り教育と引継ぎの手戻りを防ぐ

はじめに:なぜ今こそ「社内用語辞書」が必要なのか

日本の製造業は長らく効率性や現場の改善を追い求めてきました。
しかし、現場で交わされる会話や日々流れていく情報の中には、外部の人間はもちろん、部門や役職が変わった社員でさえ意味がわからない「社内用語」が溢れています。

昭和から脈々と続くものづくりの歴史の中で生まれたこの独特の社内用語。
決して悪いものではありませんが、世代交代やDX(デジタルトランスフォーメーション)、グローバル展開が進む中で、大きな壁になってきています。

「言葉が通じない」ーー これが教育や引き継ぎの現場で多発する手戻りの根本原因です。

社内用語が引き起こす現場の混乱と“見えない損失”

社内用語あるある:例と現場のリアル

例えば、「リスケ」といえば納期の再調整を指すことが多いですが、ある工場では「作業順の組み替え」を意味します。
「バラシ」という一言にも、現場によっては「分解」だったり「注文キャンセル」だったり、解釈が異なります。

こうしたニュアンスの違いが、教育や引き継ぎのたびに小さなミスを生み、やがて大きなトラブルへと発展します。

暗黙知が引き起こす属人化と後戻り作業

長年携わってきたベテラン社員が多い現場では、「教えなくてもわかるだろう」という風土も根強く残っています。

ですが、ベテランの頭の中にしかない専門用語や業界ならではの言い回しは、若手や異業種出身者には伝わりません。

結局、「なんでそんなことも知らないんだ」とやり直しになる。
教育や引き継ぎの生産性は下がり、現場に余計な負担がかかってしまうのです。

共有ノートによる「社内用語辞書」の作成が改革の第一歩

なぜ「共有ノート」なのか

システムでの管理や膨大なマニュアルを作るのは理想的ですが、実際の製造現場でいきなりそこまでの改革は進みません。

その点、クラウド型の「共有ノート」は、GoogleドキュメントやOneNote、Evernoteなど手軽なツールで、誰もがリアルタイムに編集・閲覧できるのが強みです。

現場で「あれ?」と思ったその瞬間に用語や意味を書き加える。
これを習慣化することで、社内知識は日々アップデートされる”生きた辞書”となります。

用語辞書共有ノートの作り方・育て方

まずは定番の社内用語をリストアップ。
「指摘を受けやすい表現」や「現場で混乱しやすい用語」をピックアップしましょう。

例えば以下のような項目で表にまとめます。

– 用語(省略語も含む)
– 意味
– 使用例
– 想定される誤解
– 関連する業務や状況
– 変更・注釈(必要に応じてアップデート履歴)

最初から完璧を目指さず、現場からのフィードバックを元に随時追加・修正していきましょう。

現場全体を巻き込むフローの工夫

辞書を活用する文化を根付かせる上では、「若手がベテランに質問して追記」「引き継ぎ時に間違えた用語を追加」など、日常業務の中に自然と組み込む工夫も大切です。

また、部門ごとに分担して情報を集め、定期的なレビュー会議で内容を精査・統一することで、業務の標準化も実現できます。

「教育・引き継ぎ」の二大手戻りポイントをつぶす効果

新人教育での即効性

新入社員や異動者は、まず用語の壁にぶつかります。
辞書があれば、自分自身で調べるクセがつき、教育効率も大幅にアップします。

何より、ミスや手戻りが減るので、いきなり戦力化しやすい。
教える側も、「あの辞書を見れば大体わかるから」と精神的な負担が減ります。

引き継ぎの質向上

異動・退職時の引き継ぎ資料にも「社内用語辞書」への参照を必須事項に。
こうすることで、「あの人だけが知っている言い回し」「過去の記録に残っていない略語」の解析に右往左往する時間が大きく減ります。

事実、私自身も現場管理職時代に辞書ノートを導入した際、引き継ぎミスや教育の負担は体感で半分以下になりました。

業界伝統やアナログ文化との向き合い方

「昭和的文化」とイノベーションのジレンマ

製造業の現場では、暗黙の了解や昔ながらの呼び方が「職人気質」「粋」とされてきました。

しかし、その結果として新しい人材や関係者との間に、見えないハードルが生まれます。

業界用語や言い換えの文化を完全に否定する必要はありません。
むしろ、「伝統は残しつつ、誰でも再現できるマニュアル化」を目指すことが、今後の現場力強化、DX推進の土台となります。

「わかりやすさ」を競争力に変える視点転換

サプライチェーンのグローバル化や多品種少量生産の流れの中で、ベンダーやサプライヤーとのやり取りも加速しています。

この時、「自社独自の用語」をオープンにしたり、その意味を明確に解説しているかどうかは、調達購買のプロの目から見ても大きな競争力になります。

サプライヤー担当者から「言っている意味がわからない」「現場と話すたびに違う」と言われているうちは、本当の信頼関係は築けません。

「選ばれる工場」「提案されるサプライヤー」――その基本は、伝える力・言語の標準化が握っているのです。

バイヤー志望者・サプライヤーの皆さんへのヒント

“裏側”を知る強さ

購買・調達バイヤーやサプライヤーの方にとっても、「お客様(工場の現場)の専門用語」が即座に調べられる辞書の存在は、コミュニケーションの武器です。

「用語がわからない=業務全体がわからない」というイメージを持たれがちですが、辞書で自習すれば次の打ち合わせや提案がスムーズになります。
現場から信頼されやすくなり、交渉もうまく進めやすいものです。

社内用語辞書の“自社版”の作成もおすすめ

サプライヤー側でも、「納入先ごとの呼び方」「業界通例用語リスト」を作成し、社内で共有すれば、営業・開発・品質保証部門の連携も強化されます。

また、顧客からの問い合わせ履歴を元に「よくある用語の違い」などもまとめておくと、次回以降のやりとりが格段にスムーズです。

まとめ:日常の小さな“用語共有”が生産性を変える

製造現場における引き継ぎや教育の「手戻り」。
背景には、膨大な社内用語という「壁」が立ちはだかっています。

まずは一人でも始められる共有ノートの社内用語辞書化。
日々の業務で困った言葉、誤解を生んだ用語から一つずつアップデートするだけで、驚くほど現場の知識伝承コストは下がります。

そして、用語の標準化とその共有は、現場の働きやすさにも、サプライヤーとの信頼構築にも、大きな威力を発揮します。

「言葉が通じる現場」こそが、これからのものづくりの競争力の源泉。
今こそ、アナログな伝統を活かしつつ、スマートな情報共有文化へ。
この地道な一歩が、未来の製造現場を変えていきます。

You cannot copy content of this page