投稿日:2025年11月6日

パーカーの袖口リブが劣化しにくい素材配合と縫製順序

はじめに

パーカーは、現代のカジュアルファッションに欠かせないアイテムです。
その中でも袖口リブ(カフス部分)は、着心地や見映えに大きな影響を与えるパーツになります。
しかし、袖口リブは摩擦や伸縮、繰り返しの洗濯によって劣化しやすい部位でもあります。
本記事では、袖口リブの劣化リスクを最小限に抑える素材配合と縫製順序に着目し、長年製造現場で得た知見、さらには昭和時代から続くアナログな製造慣習にも触れつつ、バイヤーやサプライヤー双方の視点で掘り下げて解説します。
製造現場の管理経験をベースに、実践的な現場目線での解決策も提示しますので、ぜひ参考にしてください。

袖口リブの劣化を引き起こす主な要因

摩擦と伸縮によるダメージ

パーカーの袖口リブ部分は、手首に密着し着用者の動きに合わせて何度も伸び縮みします。
また、袖をまくり上げる動作や着脱時の摩擦、洗濯による繊維の消耗など、日常的な使用で大きな負担がかかる部位です。
そのため、生地が伸び切ってしまったり、毛玉やほつれが発生したりといった劣化が非常に起きやすくなっています。

洗濯頻度と使用環境

パーカーはカジュアルウェアとして着用頻度が高く、洗濯も繰り返されることが一般的です。
洗濯時にはリブ部分の毛羽立ちや縮み、色落ちが起こりやすくなり、生地の目詰まりや硬化も進みがちです。
また、直射日光による退色や、汗や皮脂の汚れが取りきれないまま蓄積する点も、リブの劣化に影響を与える要因です。

劣化しにくい袖口リブ素材の配合とは

代表的なリブ素材と課題

昭和の時代から続く多くのパーカーブランドでは、コットン100%もしくはコットン+ポリエステルの混紡糸によるリブを多用してきました。
コットンは風合いが良く吸湿性に優れる一方、繊維が柔らかいため摩擦や伸縮によるへたり、毛羽立ちが起こりやすい欠点があります。
また、ポリエステル入りは耐久性が上がるものの、着用時の肌触りがやや劣る、経年で硬化しやすいというデメリットも見受けられます。

現場で評価される素材配合のポイント

袖口リブにベストな素材配合を考える際は、単に素材単体の特性を見るのではなく、実際の使用条件・目的に合わせたバランス設計が重要です。

  • コットン+ポリエステル(混率50:50〜70:30):
     柔らかさと吸汗性、耐久性のバランスが取れつつ、型崩れしにくい点がメリットです。
  • ポリウレタン(スパンデックス)混合:
     5%程度のポリウレタン(スパンデックス)を加えることで弾力性・復元性が格段に高まります。特に手首まわりのフィット感と伸縮回復力は大きく向上します。
  • アクリル混紡:
     撥水性や抗ピリング性(毛玉ができにくい特性)を加えたい場合、アクリル混を採用する事例もあります。
  • 長繊維系の糸使い:
     一部高級ラインでは毛羽立ちやすい短繊維(カード糸)を避け、滑らかで引っ掛かりにくい長繊維を使用しています。

現場の視点で言えば、全体として「コットン:ポリエステル=65:30」に「ポリウレタン5%」をブレンドした構成が、量産型でコストと耐久性のバランスが良い配合として広く使われています。
ベースは天然繊維の快適さを保ちつつ、化繊の耐久&伸縮性を活かす“ハイブリッドタイプ”が主流ともいえます。

袖口リブの目付・編み方による違い

いくら素材配合が最適でも、編み方や生地の“目付”によってパーカーの寿命は左右されます。
特にリブ部分は「表目×裏目」を交互に組む“畦編み(あぜあみ)”が多く採用されてきましたが、糸密度が甘いと簡単に伸び切ってしまいます。

現場ではリブ専用機で「針数(ゲージ)」と「目付(g/m2)」を細かく指定し、理想の厚みと復元性を調整することが標準化してきました。
目安としては190〜250g/m2程度、12ゲージ程度の細かさだと量産向けとして扱いやすくなります。
また、糸の撚り(ツイスト)を高めておくことで毛玉抑制や耐摩耗性も発揮できます。

劣化防止に寄与する縫製順序と技法

現場が重視する“リブ付け”プロセス

袖口リブはパーカー本体に“後付け”される部位であり、縫製順序やミシンの種類が耐久性に大きく影響します。
昭和から続く古い工場に多いのが、「本体袖布を先に縫ってから、最後にリブを本体袖先に“かぶせて縫う”」方式です。
この場合、縫いシロ(あまり部分)の重なりが多く厚みも出がちで、着心地や見た目に影響することがありました。

一方、近年主流となっているのが「袖山〜袖下へと連続縫製し、その流れで間をあけずにリブを取り付ける一貫生産方式」です。
これにより縫いスジの段差を最小に抑えられるため、袖口がよりすっきりと仕上がり、摩耗時のほつれリスクも低減することができます。

縫い方・ミシンの選択

リブ付けの際は、「二本針環縫いミシン」や「オーバーロックミシン(ロック)」が多用されます。
リブを本体に対してしっかり固定しつつ、多少の伸縮が許容される縫い目構造なので、強い引っ張りや繰り返しの伸縮にも対応できます。
さらに、高耐久を狙うなら「カバーステッチ」を追加することで表面の縫い目保護・美観維持が可能です。

熟練の職人がいる現場では、リブ付け部分の地縫い糸をやや太め、強力なものに替えて補強することも一般的です。
このように、シンプルなパーツに見える袖口リブも“縫いの技”で耐久性はぜんぜん違ってくる…というのが昔も今も変わらぬ現場の実感です。

サプライチェーン視点:バイヤーが見ているポイント

品質だけじゃない「量産性」と「コスト」のせめぎあい

大手アパレルやスポーツブランドのバイヤーは、袖口リブで「伸び縮み耐性」や「サンプル時の復元性チェック」を必ず実施します。
その一方で、量産時の歩留り(ロス率)や資材費も並行してウォッチしており、「高耐久だがコスト高」「安いがすぐヘタる」のせめぎ合いに苦心しています。
実際の生産現場でも、「リブ部分を1cm長くすれば検品落ちが減るが、材料コストが2%上がる」「縫製順序変更でリブの傷みが改善するが、リードタイムが1日延びる」といった現場レベルのバランス調整が繰り返されています。

“バイヤーに選ばれる”ためにサプライヤーができること

サプライヤーはただ受注通りに納めるだけでなく、トラブルになりやすい袖口リブに関しては「耐久テストデータ」「洗濯20回後の寸法変化データ」などのエビデンスを提示できると、他社と差別化しやすくなります。
また、「(指定ゲージの機械だけでなく)代替編み機によるサンプル対応」や、「実サンプルの無償提供」で提案力を見せる事も重要です。
“バイヤーの困りごと”を理解し、その解決となる情報・技術を現場レベルで用意しておくことが、選ばれるサプライヤーへの道となります。

現場で支持される最強の袖口リブとは?

まとめとして、私の経験上「袖口リブの理想形」は以下の仕様となります。

  • コットン65%、ポリエステル30%、ポリウレタン5%の糸
  • 12ゲージ畦編み、目付200g/m2以上
  • 二本針オーバーロック方式+カバーステッチによる補強
  • リブ縫付は袖下〜袖先連続流し込みによる一貫工程
  • 仕上げプレスで変形・癖付けをリセット

昭和の時代から続く定番パターン(コットン100%、縫い目重なり多し)から少しだけ飛び出し、最新設備や素材力を組み合わせることで、まさに“現場に根差した最強リブ”が構築できるのです。
データや見本の提出によってバイヤーからの信頼も得やすくなり、製造現場の無駄なロスやトラブルも確実に減らせます。

おわりに

パーカーの袖口リブ。
たった数センチの部位ですが、コストや耐久、見た目、着心地――多くの要素が凝縮されたパーツです。
また、サプライヤーにも、バイヤーにも、さまざまな思惑や調整があり、製造業ならではの奥深い駆け引きと知恵の集積場所と言えるでしょう。
今回ご紹介した素材配合や縫製手法は、どれも“現場のリアル”から生まれ、進化してきた技術です。
新しい素材や編み機、縫製技術も次々現れていますが、ぜひ現場目線とユーザー目線、その両方を大切にしたモノづくりの実践に役立ててください。

バイヤーを目指す方は、現場視点の技術と現物を見極める「目」を。
サプライヤーの方は、バイヤーが重視する本質を意識した提案力を。
どちらにも“現場で使える実践力”が大きな武器となるはずです。

今後も製造業の進化と発展を、一緒に考え続けてまいりましょう。

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