投稿日:2025年8月21日

保証期間の定義不足で発生する顧客クレームと契約条項の明確化方法

はじめに

製造業の現場では、製品を提供する際に「保証期間」を設けることは当たり前の商慣習です。

しかし、その保証期間の定義があいまいなまま契約を締結してしまうと、のちのち顧客とのトラブルやクレームに発展するケースが後を絶ちません。

本記事では、保証期間の定義不足が招く重大な問題と、製造業現場で実際に機能する契約条項の明確化方法について、現場目線と最新業界動向を交えて詳しく解説します。

また、バイヤー志望者やサプライヤーの立場で「なぜ買い手はここを気にするのか?」も意識し、現実的かつ実践的な知見を共有します。

なぜ保証期間は曖昧になりやすいのか

製造業の世界では、保証期間と一口に言っても、開始点や終了点、保証内容の範囲についての温度感は企業や業界ごとにさまざまです。

古くからの慣習やアナログ文化が根強い現場では、口頭約束や通念・前例主義が幅を利かせていることもしばしばあります。

「一年保証」では足りない理由

製品保証といえば、「納入後一年間保証」や「出荷後一年保証」といった表現がしばしば用いられます。

ところが、これらの言葉は意外に解釈の幅が広く、例えば
– 「出荷日基準」か「納入日基準」か
– 海外輸送の場合、船積み基準か荷受け基準か
– 一部納入・部分検収時はどうするか
– 付属品や消耗品の扱いはどうするか
など、細かな条件により認識が食い違います。

日本独特の“なあなあ”体質

特に中堅・中小メーカーでは、営業担当が顧客先の購買担当と“互いに暗黙の了解”で納めてしまうことも珍しくありません。

口約束で済ませてしまうことで、後で「そんな話はしていない」と揉めるリスクが常に潜んでいます。

デジタル化が後回しの現場

DXやクラウド契約が叫ばれる昨今でも、「契約書の実印は紙で」「仕様書はFAXやPDF」など、電子的証跡が残らない・共有できないため認識齟齬が拡大する背景があります。

保証期間の定義不足で生じるリスクとクレーム事例

保証期間の定義が曖昧だと実際にどんな問題が発生するのでしょうか。

ここでは現場でよく発生するリスクとトラブルの実例を交えて解説します。

典型的なクレーム事例

顧客から寄せられる典型的なクレームには下記のようなものがあります。

・「御社の出荷日から一年って言ってるけど、うちのライン稼働が三か月後なので保証満了が納得できない」
・「製品は問題なかったけど、付属ケーブルが初期不良だった。これは保証対象のはずだ」
・「定期メンテ中に欠陥とわかった。不具合発生日が基準か?」
・「海外拠点で使うから国内搬入から五か月後に設置。設置日から一年じゃないの?」
保証期間を明確に定めていないと、顧客側の使い方や管理体制によっていくらでも解釈違いが生まれます。

バイヤーの視点:自社内での“説明責任”

購買担当(バイヤー)は単に価格交渉役ではありません。

納入品に万一問題が発生した場合、自社の現場から「どうしてこんな条件で契約してきたんだ」と突き上げを食らう立場にあります。

保証期間の曖昧さは、社内の信頼にも関わる重大なファクターなのです。

サプライヤーの視点:現場の納得感

一方、サプライヤーにとっても
「仕様書通りに納品しているのに、なぜか保証期間の解釈でクレームを受ける」
「ずさんな取り扱いや後付け設備にも関わらず、すべてこちらの保証責任にされてしまう」
こうしたことは仕事のモチベーションや今後の取引にも悪影響を及ぼします。

明確な保証期間定義がなぜ必要か

製造業の取引契約書や売買基本契約において、保証期間の明確化は「製品仕様」「納入条件」「検収条件」のトライアングルと並ぶ最重要ポイントです。

契約書上の明文化=トラブル回避策

保証期間を明確に定め、それを契約書や覚書、仕様書等に記載することで、以下のようなメリットが得られます。
・解釈違いによるクレームの抑止
・トラブルが生じた場合の責任範囲明確化
・自社のバイヤーや現場からの信頼感向上
・サプライヤー営業活動時の業務効率化
製造業の現場では一件のクレーム対応に膨大な手間とコストが発生します。

契約時に少し時間をかけても「明文化」することが、総合的には最適化に繋がるのです。

法的観点からみた重要性

民法改正(2020年施行)以降、契約不適合責任や損害賠償の範囲がより明確化・拡大されてきています。

曖昧な保証期間は、最悪の場合、裁判や仲裁に発展した際に「契約書に書かれている内容」でしか自社を守れなくなる危険性があります。

現場で機能する契約条項の明確化方法

では、どのように保証期間を定義すべきなのか。

実践的なポイントを以下にまとめます。

1. 保証期間の“起算点”をはっきりさせる

保証期間のスタートは「出荷日」・「納入日」・「検収日」・「稼働開始日」など複数の基準があります。

契約上必ず、その定義を明記します。

例えば
「保証期間は、顧客指定納入先への納入日を基準とし、納入日より一年間とする」
「検収立ち合い日を起算日とし、起算日より一年間」
などのように、起算点を明快な“日時”とひもづけて特定します。

海外案件や分納の場合も注意が必要です。

2. 製品本体と付属品(消耗品等)の区分を明記する

製造業の製品には、本体・周辺機器・ソフトウェア・消耗品などが含まれることが多いです。

各々の保証期間や保証内容を
・本体:納入日から一年間
・付属品(ケーブル、アダプター等):納入時の初期不良に限り対応
・消耗品(フィルター、バッテリー等):保証対象外
というように、体系的に記述しておくとトラブルが激減します。

3. 保証の範囲と対象外条件も漏れなく記載

「通常の使用環境下で自然故障した場合に限る」「不可抗力・人為的破損・水害等は対象外」など、保証対象外のケースも具体的に列挙しておきます。

実はアナログ文化が根付いた現場ほど、「例外リスト」を漏れなく記載することが重要です。

4. 保証内容の限定—“どこまで修理・交換するか”

保証履行方法(無償修理、代替品送付、一部返金など)に関し、どのような手順で、どこまで対応するかを明記します。

「現地修理が原則」「輸送コストは顧客の負担」「機能限定の代替機は無償貸出」など、自社の体制・コスト見合いで現実的な条件に設定します。

5. 電子契約・仕様書とのリンクを図る

クラウド型の仕様書・契約書が普及してきた現代では、保証期間や保証範囲等のキーデータも電子化してシステム上で一元管理することが望ましいです。

購買・品質・生産管理・営業等、社内の多部署で共通認識が持てるため、旧態依然の“縦割り体質”から一歩前進できます。

業界動向と今後の課題

グローバル調達と保証期間のグローバル基準化

海外とのサプライチェーン連携が進む中で、「INCOTERMS(国際商業会議所輸出入契約条件)」等グローバル標準に即した保証定義へ進化してきています。

国内商習慣と国際基準との齟齬が今後の最大の課題となるでしょう。

デジタル契約・自動保証管理へのシフト

電子契約プラットフォームや製造業向けERPを活用することで、保証管理の自動化・可視化が浸透しつつあります。

アナログ依存から脱却し、契約条件の明文化とデータ共有、ナレッジの蓄積が「当たり前」になっていきます。

まとめ:納得と信頼を生むための明文化のすすめ

製造業界では依然としてアナログ的な慣習や“なあなあ”体質が根強く残っています。

しかし、保証期間の定義不足が招くリスクは、経営・現場の両面で計り知れないものがあります。

契約書や仕様書にしっかりと保証期間・範囲・対応方法を明記することで、サプライヤーとバイヤー双方が納得し、将来の信頼関係を構築できます。

昭和型商談文化から一歩進んだ“現場目線+デジタル思考”で、自社・業界全体の発展を目指しましょう。

今後バイヤーを志す方も、サプライヤーとしてバイヤー目線を理解したい方も、「保証期間の明確化」という基本を、これからの基準として捉えてみてください。

それが、次世代のものづくりを支える第一歩です。

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