投稿日:2025年9月7日

契約終了後の保守対応範囲を巡る顧客クレームと防止策

契約終了後の保守対応範囲を巡る顧客クレームと防止策

はじめに

製造業において、機械設備や装置などの販売・納入後の保守対応は、顧客満足度を大きく左右する重要な要素です。
特に、保守契約が終了した後に発生する顧客からのクレームは、現場担当者やバイヤー、さらにはサプライヤーにとって大きな頭痛の種となりがちです。

本記事では「契約終了後の保守対応範囲を巡る顧客クレーム」をテーマに、現場感覚と実務知見を織り交ぜて問題点とその背後にある構造を掘り下げます。
また、長年アナログ慣習が根強く残る日本の製造業の現場で、どのような予防策や仕組みを講じることでクレームを未然に防ぎ、多様なステークホルダーがwin-winの関係を構築できるのかを解説します。

製造業現場で多発する契約終了後のトラブルとは

製造業の現場では、設備納入後にバイヤーとサプライヤー間で「保守・メンテナンス契約」を結びます。
一般的にこの契約は、設備の稼働安定、品質維持、生産ロスの最小化に不可欠です。

しかし保守契約は一定期間(例:1年〜5年)をもって終了します。
このとき、以下のようなトラブルがしばしば発生します。

・契約切れ後に設備が故障したが、無償対応を要求された
・契約書では終了と記載があるにもかかわらず「これまで通り対応してほしい」と現場からクレーム
・「部品在庫はあるはず」と現場から依頼殺到(実際は対応リードタイム発生)
・突発的なトラブルに駆けつけを要請されるも、技術者手配や経費負担を巡って揉める
・バイヤーと現場担当者で解釈の相違が発生し、混乱が起きる

こうしたクレームは、購買側・サプライヤー側に共通した “曖昧さ” や “慣習的な期待値” に根拠があることが多いです。
では、なぜこのような摩擦が生じるのでしょうか。

なぜアナログな製造業でトラブルが多いのか

日本の製造業は、昭和期から継続する「人に依存した関係性」「長期にわたる馴れ合い」「形式的な契約書」文化が強く残っています。
例えば、古参の営業担当や技術者が「前担当からの付き合いだから」と好意で対応範囲を広げてしまったり、「とりあえず来てよ」という現場の声に応えてしまいがちです。

また、購買部門として契約終了を通達したつもりでも、現場サイドに十分な説明が伝わらず、「何かあればすぐ来てくれるのが当たり前」という感覚が根強く残っています。
これが複数世代・複数拠点で情報共有が十分でない場合、契約書通りに動こうとする新担当者と、昔気質の現場担当者の間で認識ギャップが発生しやすくなります。

加えて、サプライヤー側も営業数字・関係維持を重視するあまり、明確な線引きを曖昧にして対応を続ける傾向があります。
これが後々、「やってくれるはずだったのに」というクレーム拡大を招く温床となってしまいます。

契約終了後のクレーム事例で見える根本原因

では、実際のクレーム実例をいくつか紹介しながら背景を分解してみます。

参照事例1)定期点検契約終了直後の故障コール
バイヤー:「契約終了したので有償になります」
現場:「今まで無料だったのになぜ急に有償?」
サプライヤー:「現場からの依頼で来たが、支払いは?」
→現場向け説明不十分。引継ぎ・周知の不徹底。

参照事例2)長期保守延長拒否に伴う部品供給クレーム
バイヤー:「予算都合で保守打ち切り」
現場:「部品は今後も供給してもらえるとの理解だった」
サプライヤー:「受注生産=納期がかかるが?」
→伝達内容や範囲、リードタイムの説明不足。

参照事例3)緊急対応要請と費用負担を巡るトラブル
バイヤー:「現場から急ぎ手配の希望、しかし契約外」
サプライヤー:「手配可能だが高額出張費見積になる」
→事前打ち合わせやコスト内訳説明の環境不備。

共通するのは、「契約書はあるものの運用や説明にギャップがある」「現場・バイヤー・サプライヤーで期待値のすり合わせが不十分」という点です。

トラブルを防ぐための5つの防止策

それでは、こうしたトラブルを未然に防ぎ、安定した取引・現場運用を継続するためにどのような工夫が必要なのでしょうか。
20年以上の現場経験から、実効性の高い防止策を列挙します。

1. 契約書・仕様書の作成時点で「終了後」の運用まで明記する

契約書は単なる締結のための文書ではありません。
「いつまで何をどう保障し、それ以降はどのような対応になるのか」について文書ベースで明記し、現場も参照できるようにしておくことが肝要です。
特に、以下のような記載を具体的にしましょう。

・契約終了後はサポート・駆けつけが有償になる明示
・部品供給の可否、リードタイム・見積基準
・緊急時はどの窓口にどんな条件で相談可能か
・電子データ化し、現場・バイヤー双方が随時アクセスできる状態に

アナログ現場でも閲覧しやすい「一枚まとめシート」や掲示物の工夫も有効です。

2. バイヤーと現場担当者の「セットブリーフィング」を徹底

購買部門は契約更新や終了時、サプライヤーの担当者だけでなく、自社の生産現場や設備担当者にもセットで説明を行うことが重要です。
とりわけ、交代や異動が多い現場組織では「現場責任者の承認・理解」「説明会の実施」「議事録・周知展開」など、情報ギャップを埋めるプロセスを必ず盛り込むべきです。

現場ヒアリングを行い、「実際はどんなトラブルや心配があるか」まで掘り下げたうえで合意を形成しましょう。

3. サプライヤーの「対応範囲ガイドライン」を作成する

サプライヤー側も「どこまで対応するか」「緊急対応や例外措置はどこまで可能か」のガイドラインをあらかじめ用意しましょう。
営業活動の武器としてだけでなく、新担当や後任にも引き継ぎやすくなり、会社としての方針ぶれを防げます。

・標準対応プロセス
・有償/無償区分の明文化
・契約外対応の費用事例、納期感覚
をドキュメント化し、顧客にも適宜開示できるようにします。

4. アナログ現場向けの可視化・仕組み化を推進する

昭和から続くピラミッド組織や紙運用が主流の工場・現場環境では、「目で見て分かる」「すぐ調べられる」可視化が必須です。

・契約終了/区間の赤札ラベル貼付や、設備台帳シール追加
・契約管理システムやデータベース整備
・現場PC、ライン掲示板へのQRコード展開
など、小さな工夫でも現場担当者の混乱を減らせます。
併せて「月次点検終了チェックリスト」「終了説明チェックリスト」なども実装することで、ヒューマンエラーも大幅に低減できます。

5. 定期的な見直し・監査・フィードバック体制の構築

どんな万全な仕組みでも、現場変化や担当者交代で抜けが生じやすいのが製造業の特徴です。
契約終了タイミングに合わせて、定期的な監査やフィードバックを実施し、問題があれば都度PDCAで改善を図りましょう。

・クレーム事例収集・分析
・再発防止策の検討
・サプライヤー・バイヤー合同勉強会
・現場からの小さな困りごと相談会

これらを根気強く続けることが、将来的なトラブル削減と現場力強化につながります。

読者別:知っておきたい「現場目線」の落とし穴

バイヤーだけでなく、サプライヤーや現場担当者の方が陥りやすいポイントも紹介します。

・「契約書に書いてあれば大丈夫」は誤解。運用現場への浸透がカギ
・無意識に「従来通り」対応してしまう企業文化に注意
・口頭/メールのやり取りの記録保存を徹底(証拠残し)
・現場の属人化を防ぐために、必ずドキュメントで運用化

また、サプライヤーの視点から見ると「顧客要求をただ無条件に聞くことで信頼獲得」と考えがちですが、長期的には営業負荷や品質リスクが高まります。
期待値調整と持続可能な関係維持が、プロ意識を持った信頼獲得には不可欠です。

今後の製造業の「契約と保守」のあり方とは

従来型の人頼みや慣習ベースから、DXや標準化が進む現代の製造業においては、契約終了後の保守対応範囲を明確化し、クリアなコミュニケーションを目指すことがますます重要です。

・クラウド契約管理システムの導入
・IoT設備によるトラブル予兆検知&自動通報
・チャットボット・FAQでの現場説明負荷低減
といったデジタル施策も有効になっています。

一方で、歴史ある工場ほど人間関係の濃淡や現場慣習も無視できません。
「人×デジタル×明文化」の三位一体でトラブルを予防し、現場力・競争力の強化を目指していくことが、生き残る製造現場の新たな標準となるでしょう。

まとめ

契約終了後の保守対応を巡るクレームは、製造現場の混乱や信頼低下に直結するリスクとなります。
しかし運用のちょっとした工夫や予防策によって、多くのトラブルを小さなうちに潰すことが可能です。

「契約書」「セット説明」「対応取り決め」「可視化」「定期見直し」という基本に立ち返り、アナログ現場も巻き込んだ全員野球での改善を進めていきましょう。

今後も製造現場の発展と、バイヤー・サプライヤー双方が納得のいく関係構築のヒントを現場目線で発信し続けます。

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