投稿日:2025年10月30日

職人ブランドがECでリピートを生むための顧客体験とアフターケアの仕組み

はじめに:ものづくり現場の「職人ブランド」にこそチャンスがある

製造業の現場で20年以上仕事をしてきた経験から、これまで「職人技」や「高品質」を誇りにしてきた日本の現場がいま再び注目されています。

特にEC(電子商取引)の普及により、従来、BtoBの商流で埋もれていた地方の優良メーカーや町工場の製品が直接エンドユーザーへ届きやすくなってきました。

一方で、ただ良い物を作れば売れる時代は終わりました。

「職人ブランド」としてリピート顧客を生み、長く選ばれ続けるためには、顧客体験とアフターケアの仕組みが不可欠です。

昭和時代から続くアナログな価値観と、現代のデジタル社会が交差する今、ものづくり現場の知見をどうやって顧客体験に変えていくのか。

この記事では、そのために必要な視点や実践方法を、製造業現場目線で掘り下げていきます。

「職人ブランド」に求められる顧客体験とは何か

「理解される体験」から「共感される体験」へ

従来の製品は、機能や性能を理解してもらうことを重視していました。

しかし、EC市場で競争力を持つためには、ユーザーの気持ちにまで踏み込んだ「共感される体験」の創出が重要です。

例えば、下町の鍛冶屋が仕上げた包丁と、量販店で売られている工業製品の包丁の違いは「物語の有無」です。

ECでは、職人のこだわりや製品に込めた思い、現場のストーリーも、動画や写真、テキストでしっかり伝えることが価値となります。

ユーザーに「自分の使っている道具には、こんな背景がある」と感じさせることがリピートの原動力となります。

業界特有のアナログさを生かす

製造業、特に長年の職人現場は、マニュアルや伝承に頼るアナログ文化が根強いです。

これがデメリットと思われがちですが、実は良質な顧客体験につなげる武器にもなります。

例えば、購入した包丁のメンテナンス方法を、実際に現場で研いでいる映像付きの説明書として同封する。

Z世代や初心者ユーザーにも「繋がっている」「サポートされている」安心感を与えます。

また、職人本人がユーザーの声にSNSやメールで答える、という昭和的な温かみとデジタルの利便性をMIXした体験が差別化のポイントです。

EC時代におけるアフターケアの重要性

ワンショット販売から「関係性ビジネス」への転換

従来のBtoBであれば、一度納品したらそれで終わり、という関係性も多かったです。

しかし、ECではリピート顧客の獲得が致命的に重要。

そのために「またここで買いたい」「困ったらここに頼ろう」と思ってもらうアフターケアが不可欠です。

職人ブランドの現場ができるアフターケア施策

1. 商品発送時に「メンテナンスカード」(メンテナンスのポイントや裏話)を同封
2. 小規模事業者でもメールやLINEなどで定期フォロー(使いごこち確認やアドバイス)
3. 定期的なワークショップや使いこなしセミナー(リアル・オンライン)
4. 「部品取り寄せ」や「修理」受付の柔軟な仕組み
5. SNSやブログで実際の利用者の声や改善体験を発信・共有

これらは、現場の声や小さな工夫を積み上げることで大手にはできない「体温」を感じさせます。

昭和から抜け出せないと言われる業界構造の中で、いかに変革するか

アナログな現場力をデジタルと接続する思考

多くの職人ブランドや町工場は、古い商習慣(FAX注文や電話応対など)を守っています。

一見、非効率にも見えますが、「一点もの」や「個別対応」が求められるマーケットではむしろ強みにもなりえます。

極端な効率化や一律なフローではなく、“顔が見える”関係性を、デジタルの導線(ECサイト、SNS、メール)と組み合わせることで「顧客体験の深堀り」ができます。

例えば、
・受注後の迅速な個別返信(メールやLINEでも「現場の○○が今製作中」と進捗を伝える)
・個別のカスタマイズ要望に、現場でどう工夫し対応したかを事例として公開
これらは単に効率だけでなく、“共創”や“Only One”の価値を感じるポイントです。

現場の目線を生かした「期待値コントロール」も、EC成功のカギ

“ECだから納期はすぐ” “写真通りのピカピカ新品が来る”ーーこうしたユーザー期待と、実際の職人現場の生産リードタイムや仕上げ精度にはギャップが生まれやすいです。

そこで重要なのが「ありのままを正直に伝える」期待値コントロールです。

例えば
・「1点ずつ手仕上げなので、納期○週間頂戴しています」
・「多少の鍛造跡や小傷は、現場職人の証です」
など、製品の本質や背景をEC商品ページやメールなどでしっかり告知する。

これにより、「思ったのと違う」というクレームを防ぐだけでなく、「納得して待つ」「 味わいを楽しむ」リピーターを生み出しやすくなります。

サプライヤー・バイヤー双方に求められる新しい視点

サプライヤー視点:「ブランド力」を磨くチャンス

従来は「競争力=コスト削減」「大手との取引量」と捉える事業者が多かったかもしれません。

しかし、ECを通じて「価値あるもの」を求める顧客に直接アプローチできる今だからこそ、「情熱」や「ストーリー」を筋金入りのブランド力に変えていくチャンスです。

・プロ現場で培った「差別化ポイント」
・信頼・安心・職人コミュニケーション
・ユーザーと一体となって改善を重ねる姿勢
これらは、大量生産・画一大量販売では生み出せません。

バイヤー視点:「パートナーシップ型」へ進化する調達

多くのバイヤーや調達担当者は、まだまだ「コスト重視」「何社かで相見積」だけでサプライヤー選定をしがちです。

しかし、これからは「共にブランド価値を作る」パートナーシップ型調達の視点が求められます。

・商品の背景や現場の工夫を実際に体験、共有し「共感」する
・アフターケア体制や長期的なクレーム対応力も評価する
・ユーザーの声や市場ニーズをサプライヤーにしっかりフィードバックし改善循環を生む
こうした関係こそ、ECの時代だからこそ求められる“縦割りでない”新しいものづくりです。

リピートにつながる現場発想の顧客体験とは

実際の現場でできる工夫と、ECで活きるノウハウ

【現場工夫の具体例】
・商品に「職人直筆のお礼状」や「裏話エピソード」同封
・「○○の手入れ動画」または「使い方講座」への招待URLを送付
・SNSやメールでの「問題ないですか?」気遣いフォロー

【ECならではの強み】
・利用者のレビューやSNS口コミが「ブランドの証」になる
・オンラインでの相談窓口開設で、アフターケアコストを最適化
・リピーター向け割引、会員限定セミナーや優待制度の導入
これらを丁寧に積み重ねていくことで、“スペック勝負”ではない競争力が生まれ、顧客の「愛着=ブランド」に変わります。

まとめ:職人ブランドの未来は、「体験」と「物語」にある

昭和のものづくり現場で培った「技」「想い」「誇り」は、EC時代でも大いなる宝です。

ただし、それを「体験」として伝え、「また頼みたい」と思わせるアフターケアの仕組みによって初めて価値が最大化します。

作り手と使い手、サプライヤーとバイヤー、現場とマーケット――すべての立場を繋ぐハブとなれるのは、「現場発・実践型」の顧客体験&アフターケアです。

職人ブランドこそ、いまこそ自信をもって現場の知恵と温かさを社会に届けてください。

製造業の底力は、まさにここから未来へと広がっていきます。

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