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顧客至上主義が価格破壊を招くサプライヤーの末路

目次
はじめに:顧客至上主義という“正義”の落とし穴
製造業の現場では、かつてから「お客様は神様です」という精神が根付いています。
顧客の要求を最大限に満たし、信頼関係を築くことこそが商売の基本。
この顧客至上主義は、長らく多くのサプライヤーにとって“正義”であり、品質改善や現場改革の原動力になってきました。
しかし近年、この顧客至上主義が過剰に働き、サプライヤー自身の首を絞めている現実が見えます。
特に、調達購買の現場では「コストダウン要求」「仕様の細かい改訂」「納期短縮要求」が日常茶飯事となり、サプライヤーは顧客の要望にひたすら従うばかりの受け身な姿勢に陥りがちです。
それが過度な価格競争を誘発し、現場や会社の体力を奪う“価格破壊”を招いているのです。
昭和体質が残る現場と“サービス過剰”のリスク
製造業の多くはまだ昭和的な気質が残っています。
受発注はFAXや電話のやり取りが中心で、取引先との人間関係を重視する「御用聞き」的な体質が強い。
顧客から「こうしてほしい」「長年の付き合いだからなんとかしてよ」と頼まれると、無理をしてでも対応してしまう。
この“サービス過剰”こそが、サプライヤーにとって最大のリスクです。
現場で働く人たちは、「取引を切られたら困る」「次も注文をもらいたい」という思いから、コストを無視して業務をこなしてしまう場合が多いです。
昔ならそれで通用したかもしれませんが、今はグローバル競争と原材料費高騰の荒波の中、少しの無理が経営を圧迫し、利益なき受注に追い込まれます。
サービスとしての小さな無償作業の積み重ねが、会社の収益力を大きく削っていることに気づきにくいのです。
価格破壊のメカニズムを知る:誰のためのコストダウンか?
「コストダウン要求」は、購入側(バイヤー)が“仕事のできる人”と評価される重要な要素です。
バイヤーは、自社の利益最大化と調達コストの低減を命じられており、サプライヤーに対し「もう一声」「さらに値引きを」と迫るプレッシャーが強まる一方です。
これに対し、サプライヤー側は「これ以上の値引きは厳しい」と感じつつも、取引打ち切りが怖くて飲み込んでしまう。
こうして一社が無理な価格を受け入れると、他社もそれに追従せざるを得なくなり、負のスパイラルが始まります。
・材料やエネルギーコストの高騰
・人件費の上昇
・技能者の高齢化と若手不足
これら実態コストの上昇を無視した「形式的な値引き要求」に屈していては、やがてサプライヤーは省力化・効率化の余力を失い、品質低下、人材流出、倒産という“末路”に辿り着きます。
まさに、顧客至上主義が生んだ価格破壊です。
バイヤーの本音:常に代替サプライヤーを探している
バイヤーを目指す方、あるいはサプライヤーの立ち位置からバイヤーの思考を知りたい方に伝えたいことがあります。
それは、バイヤーにとって「サプライヤーとの良好な関係」は、決して“情”ではなく、“戦略”だということ。
現実の購買現場では、常に「今のサプライヤーがいなくなったらどうするか」「もし価格が合わなくなったら代替製品は?」と複数案を持つのが鉄則です。
信頼・実績は当然重視しますが、それは飽くまで「最適な条件」を提供するという前提での話。
常に市場調査を行い、新規サプライヤーの開拓も欠かしません。
つまり、「いつでも入れ替え可能」というプレッシャーの下で、サプライヤーの選定・交渉が行われています。
「うちは古くからの取引先だから大丈夫」と安心していたら、ある日突然、見積提示一発で仕事が“流出”するのは珍しい話ではありません。
“NG対応事例”から学ぶ、サプライヤーの失われた価値
私が現場で目の当たりにした、典型的なサプライヤー衰退パターンを紹介します。
・値引き要請に無理に応じた結果、現場の工程で省力化投資ができなくなり、設備老朽化が進行。
・納期短縮・小ロット生産を受け入れ続け、現場の生産性が悪化し残業・休日出勤が常態化。
・突発対応の多発で、本来守るべき品質管理が形骸化し、重大なクレーム発生につながる。
・「できません」と言えず、社員のモチベーションが低下しベテラン技能者が一斉退職。
ここまでくると、バイヤー側も「もうこの会社では任せられない」と判断し、実質的な取引停止が行われます。
「顧客至上主義」をはき違え、「本当に守るべき自社の価値」を見失った結果です。
令和時代、サプライヤーが生き抜くための逆転思考
これからの時代、サプライヤーには“言いなり”ではない新たな価値提案こそが求められます。
1.利益なき受注は自社と顧客の両方を不幸にする
顧客至上主義に依存し、赤字ギリギリで受注を取りに行っても、品質維持や安全投資ができず、結果的に顧客にも迷惑をかけることになります。
「適正価格」をしっかり説明し、無理のある依頼には「できません」と伝える勇気が最終的には信頼を呼びます。
2.課題提起型のサプライヤーを目指す
単なる価格競争ではなく、「現場のコスト改善事例」「自社技術でのソリューション提案」「安定供給のための協力依頼」など、顧客にとっての全体最適を自発的に発信しましょう。
業界全体の動向やリスクを根拠に堂々と“交渉”することで、バイヤーにも一目置かれる存在になれます。
3.“働く人”を守る経営判断を
現場の技術者や作業員こそ、サプライヤーの価値そのものです。
「この工程はサービスします」「この手間は無料です」と安易に譲歩することは、現場の士気や働きがいを損ないます。
長い目で見て、人の成長や安全・健康を守るための経営判断が、会社を守りバイヤーにも安定供給の安心をもたらします。
まとめ:顧客至上主義のその先へ
顧客至上主義は、確かに日本の製造業を成長させた美徳です。
しかし、時代が変わり、グローバル競争・人手不足・コスト上昇といった新たな現実の前に、従来の「御用聞き」スタイルだけでは企業は生き残れません。
自らの強みや価値をきちんと交渉し、適正な利益と持続可能な関係を築くことが、今後のサプライヤーが考えるべき姿勢です。
バイヤーも、単なるコスト削減だけではなく、パートナーとして最善の供給体制・品質・イノベーションをともに追求できるサプライヤーを求めています。
顧客から求められる“強いサプライヤー”とは、「自分たちの価値を誇りをもって主張し、業界全体の発展にも一石を投じる存在」なのだと私は強く感じています。
古き良き“顧客至上主義”の殻を破り、次の一歩をともに踏み出しましょう。
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