投稿日:2025年10月1日

取引先を駒扱いする顧客が壊す協力関係

はじめに:製造業における「共創」の時代へ

製造業の現場で、取引先を単なる「外注先」という位置づけで扱い、あたかも駒のひとつのように接する光景は、残念ながら今なお多くの現場で見受けられます。

こうした「駒扱い」が企業や業界、ひいては日本のものづくり力そのものを蝕んでいることに、どれだけの現場リーダーが危機感を持っているでしょうか。

この記事では、バイヤー・サプライヤー両面の経験と、製造現場で培った人間観を交えながら、「協力関係を壊す駒扱い」がどのように現場を疲弊させ、なぜ今「共創」が求められているのかを深く掘り下げます。

また、昭和的な慣習が色濃く残る製造業界の現状も踏まえ、これからの時代に現場担当者や経営層が持つべき視点、実践的な対応策を考えます。

「駒扱い」とは何か?製造業の取引の現実

下請け構造の根強い現場

日本の製造業は、長い間「多重下請け構造」のもとで発展してきました。

元請け企業(バイヤー)と下請け企業(サプライヤー)の力関係は明白です。

価格決定権、納期調整、品質要求…すべてにおいて主導権はバイヤー側にあり、サプライヤーはその要求に応えることが、業界の「常識」でした。

この構造において、バイヤーがサプライヤーを「協力パートナー」と見做さず、「作業をこなす歯車」として捉えること、すなわち「駒扱い」することが、令和の現在も頻繁に発生しています。

駒扱いの事例:価格叩きと短納期強制

例えば、バイヤーが見積書を提出させたとき、理由も説明せず「他社はもっと安い」と一方的に価格引き下げを要求する。

また、設計変更や仕様の急変を一方的に伝え、サプライヤーの都合や現場負担を顧みず短納期の達成を強制する。

これらは氷山の一角ですが、現場では日常茶飯事です。

これらの「駒扱い」は、サプライヤーの士気を低下させ、結果として品質や納期のリスクを孕むことになります。

バイヤーとサプライヤー、それぞれの本音

バイヤーの論理:なぜ尽きぬ「コストダウン」の呪縛

バイヤー側には多くの場合、トップからのきついコストダウン要求があります。

会社全体の目標達成のため、調達部門はサプライヤーとの価格交渉に追われ、時に強引な要求をせざるを得ない状況も理解できます。

利益を確保し、社内評価を得るには、サプライヤーを「管理しやすい存在=駒」と考えるほうが効率的だ、という思考が根付いています。

サプライヤーの本音:「言われたことだけ」しかやらない理由

一方、サプライヤー現場には「こちらから提案しても文句しか言われない」「過去に破格のコストダウンを要求され、やる気が失せた」という声が絶えません。

「黙って上からの指示どおりにやる」という受動的な姿勢が慢性化し、「言われたことだけ」をこなすクローズドマインドが蔓延してしまいます。

このような状況下で生まれるのは、新たな発想や合理化提案の停滞、問題の先送りといった負の連鎖です。

昭和から抜け出せない「アナログ業界」の病理

業界慣習から生まれる閉塞感

多くの製造業現場では、仕様書や図面の変更をFAXでやりとりし、口頭伝達や暗黙の了解がまかり通っています。

この「アナログ慣習」は、情報共有の遅延や伝達ミスばかりでなく、現場同士の距離を遠ざける要因にもなっています。

顔の見えない関係では、お互いの苦労や制約を理解する機会が減少し、バイヤーはさらに駒扱いを強め、サプライヤーはますます殻に閉じこもります。

紙文化・コミュニケーション不足・継続的な属人化

デジタル化の遅れや、業務の属人化が解消されない現場では、問題が発生しても「なかったこと」にする傾向すら残っています。

たとえば、「段取り替えの工数感覚」「仕掛在庫の動き」「現場負担」など、エクセルや紙帳票だけでしか見えないリアルを、バイヤーは理解できていません。

このリアリティの不足が、協力関係深化の妨げとなっているのです。

「駒扱い」が壊す、本来のパートナーシップ

信頼の損失と技術力の磨耗

本来、サプライヤーとバイヤーは「価値共創」のパートナーであり、困難を共に乗り越え新しい価値を生み出す関係であるべきです。

しかし、「駒扱い」が横行することで、サプライヤーの技術力や持てる知恵が十分に活用されにくくなります。

例えば、サプライヤー側が持つ省力化提案や、設計難易度の低減ノウハウが、バイヤーからの一方的な態度により、情報共有されなくなります。

結果として、調達コストや品質、不具合発生率など、あらゆる面でボトルネックが増幅するのです。

リスクマネジメントの形骸化

取引先を「物を作る工場」「作業を担うだけの下請け」としか見ない場合、突発的なトラブル(自然災害や設備トラブル、人手不足など)へのリスクヘッジも不十分になります。

現場のリアルを理解していないがために、表面だけの「リスク対策」が機能しないこともよくあります。

結果として、全体最適からはほど遠い「局所最適」の迷路に迷いこむのです。

今こそ必要な「共創型バイヤー」の視点

バイヤーは「現場を知る」ことから始める

バイヤーに求められるのは「サプライヤーを管理する」から「現場を理解し共に価値を創る」へのパラダイムシフトです。

これには、実際にサプライヤーの工場に足を運び、現場の声を聴くこと、工場の課題や工程を自らの課題として捉えることが欠かせません。

コミュニケーションを密にし、「現場の困りごと」や「技術的な壁」に寄り添った調達を心掛けてこそ、真に信頼されるバイヤーになれます。

コストだけでなく「価値総量」を見る

「価格最重視」だけの考え方は、すでに限界を迎えています。

目の前のコストダウンだけでなく、「技術力の吸収」「リードタイム短縮」「リスク分散」「省資源化」「現場の知恵活用」など、調達の価値総量を可視化して評価することが、これからのバイヤーには必須です。

サプライヤーも受け身から攻めへ

提案型サプライヤーの意義

一方サプライヤー側も、「指示待ち」だけでなく、「自ら提案する攻めの姿勢」にシフトしなければなりません。

「工数低減案」や「新工法の提案」「素材代替案」など、現場目線でバイヤーにとってのメリットやリスクを説明する力を高める必要があります。

また、「やりすぎコストダウンの弊害」や「現場の限界」について、数字や事実で伝えることが自社防衛にもつながります。

コミュニケーションの積極化が現場を救う

バイヤー側が「駒扱い」を脱却できるよう、サプライヤー側からも積極的に現場の実情や、自社が持つ付加価値をアピールする努力が求められます。

「技術見学会」や「現場改善報告会」を自主的に開催し、バイヤー側の理解を深めることも有効です。

製造業バリューチェーンの「新たな地平線」へ

デジタル化とパートナーシップの掛け合わせ

近年、「製造業DX」や「サプライヤーポータル」など、デジタル化による情報共有の高度化が急速に進んでいます。

これを単なるIT投資に留めず、現場と現場が遠慮なく情報交換できる「オープンプラットフォーム」として活用することが、これからの製造業に求められる自律的な進化です。

「共創」からしか生まれない競争力がある

最終的なゴールは、「バイヤーもサプライヤーも、共に考え、共に稼ぐパートナーになる」ことです。

モノづくり現場の苦労、技術の深み、泥臭い知恵を遠慮なく持ち寄るからこそ、他社にはない独自性や、難問を乗り越える力が生まれます。

昭和的な「駒扱い」の発想から抜け出し、令和型の「共創」へ。

それが、次世代製造現場に求められる新たな地平線なのです。

まとめ:協力関係は「理念」ではなく「現場の実践」

取引先を駒扱いしていては、製造業のサプライチェーンは行き詰まります。

信頼のもと、お互いの現場を理解しあい、技術力・コスト・品質・納期・リスクの総合力を高めていくことが、今後の製造業の生命線です。

「駒扱い」をやめ、「共創」へと踏み出す第一歩は、バイヤーもサプライヤーも現場に目を向けることから始まります。

日本のモノづくりの底力を再び取り戻すために、今日から職場でできる小さな実践を、共に積み重ねていきましょう。

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