投稿日:2025年8月23日

複数品の型締め同時成形でサイクルタイムを短縮する射出成形の工夫

はじめに:射出成形における効率化の常識を問い直す

近年、製造業界はデジタル化や自動化の波にさらされていますが、現場ではいまだに昭和のやり方が根強く残っています。

とくに成形現場では、「1金型・1品目・1ショット」という基本が当たり前でした。

しかし、人手不足や納期短縮、多品種化の圧力のもと、従来の常識を打ち破る工夫が求められ始めています。

本記事では、複数品の型締め同時成形という手法を使ってサイクルタイムを短縮し、射出成形の現場改善につなげる実践的なノウハウを解説します。

実際に大手メーカー現場で工場長として蓄積した知見、購買・品質・生産管理の視点を交えて、リアルな現場目線で掘り下げていきます。

射出成形の現場課題と従来の「常識」

現場で直面する多品種・少ロットの壁

かつてはヒット商品を大量生産し、安定供給することが大部分の主力業務でした。

しかし、顧客ニーズの多様化や市場の細分化で、「多品種・少量生産」への対応が不可欠になっています。

納期短縮や在庫低減を求められる中、成形現場では「段取り替え作業の増加」「金型交換の頻度増」「成形条件出しの手間増加」といった課題に直面せざるを得ません。

従来の成形段取りの限界

従来は、1つの金型で1種類の品目を成形するのが常識でした。

1回の成形時間(サイクルタイム)が短くなければ納期に間に合いません。

しかし、段取り替え1回ごとに1時間、時には半日もロスしてしまう現実があり、「もっと効率を上げられないのか…」というのが多くの現場担当者の本音でしょう。

複数品の型締め同時成形とは何か

発想の転換:1回の型締めで2品目以上を同時に成形

複数品の型締め同時成形とは、「1回の型締め・射出で複数製品を一度に成形する」技術です。

これまでなら「1トレーで1品種」が普通でしたが、トレー配置や金型設計を工夫することで、一度のサイクルで2〜3種類の製品を同時生産できます。

たとえば、同じ素材で色違いや微妙な寸法違いの製品を同じ金型フレーム内に組み込む、あるいは異なる部品を一度に射出・切り離す発想です。

採用事例:家電・自動車部品工場の工夫

実際、私が携わった大手家電メーカーの現場でも、同時成形によって「3部品同時生産」でサイクルタイムを大幅に短縮しました。

自動車部品工場でも、ユニット組み立てに使う複数パーツ(例えばAパーツ・Bパーツ)を同じ材料で同時に成形して工程数を減らす事例が増えています。

サイクルタイム短縮の実際の効果

段取り回数削減で工数大幅ダウン

複数品の同時成形によって、一番大きなメリットは「段取り回数の削減」です。

1つの金型で複数品をまとめて生産できるため、段取り替えの頻度が半分、場合によっては1/3に圧縮できることもあります。

段取り時間は1回あたり1時間が標準で、10ロット分の段取りが5回で済めば、それだけで5時間の作業短縮となります。

突発対応やラインの停止ロスを考えれば、10時間、20時間といった工数削減も可能です。

成形工程のリードタイム短縮

従来は1つずつロットを組んでいたところ、複数品目をまとめて生産することで、成形工程全体のリードタイムが圧縮できます。

とくに、1サイクルで複数金型箇所を活用するため、射出・冷却時間の「死に時間」を減らし、マシンあたり生産性を向上させます。

導入時の設計・現場の工夫

金型設計段階での留意点

複数品同時成形を実施するには、まず金型設計の工夫が必要です。

各製品ごとのゲート設計、冷却ライン配置、取り出し方法、安全面などを総合的にジャッジし、品質保証と成形性を両立させます。

たとえば以下のような注意点があります。

– 異なる品目の材料流動特性や厚みの違いをそろえる
– 歪み・バリ対策のため冷却バランスを取る
– 取り出しロボットなど自動化設備との連携

金型構造によっては、交換部品方式(インサートなど)で柔軟性を持たせる方法も有効です。

現場オペレーションの合理化

同時成形では、製品仕分けや不良判別の作業フローも新たに規定が必要です。

取り出し後の自動仕分け装置や、人手ミスを防ぐための搬送トレー工夫など、工程全体の最適化を意識しましょう。

品質検査工程では、品目ごとに求める規格が異なるため、「どの部分がどの品目か」を誤判別しないシステム(QRコード貼り付けやトレー仕切り等)導入が求められます。

品質保証の観点でのメリットと課題

品質安定への貢献

同時成形は「同条件で複数ジョブが進む」ため、成形条件のバラツキが低減しやすいというメリットがあります。

成形機の温度や圧力条件が一定で多品目を同時生産することで、品目間の品質差異が出にくくなり、安定した品質供給が期待できます。

逆に起こりうるトラブルと対策

一方で、「どちらか一方でNGが出た場合」に全体やり直しになるリスクもあります。

不良分析や原因特定の際には、『どの金型部位でどんな不良が出ているか』を正確に見極め、工程不良の早期フィードバック体制をつくることが重要です。

また、2種類の材料を流している場合には混入や誤投入リスクもありますので、自動検品やセンサー管理も視野に入れた運用が不可欠です。

発注サイド・バイヤー目線のメリット・交渉材料

サプライヤーとバイヤーのwin-win戦略

調達・バイヤーにとって、複数品同時成形の提案は大きなコスト削減・納期短縮につながります。

– 段取り時間・コストの削減
– 最小ロット・発注単位の柔軟化
– サプライチェーン管理モデルの最適化

サプライヤー側にとっては生産効率アップ、バイヤーにとっては在庫リスク減とスピードメリットが得られます。

見積・契約条件策定の交渉でも「同時成形対応ならコスト○%ダウン」といった新たな切り口ができるのです。

サプライヤーに求められる提案力

どの金型でどの組み合わせが可能なのか、複数品目を一度で生産することでどこまでリードタイムやコストが下がるか、テクニカルな試算や実証提案が不可欠です。

バイヤーから「一度に納品して欲しい」「多品種を分納してほしい」と要望が出た場合は、複数ショット成形の可能性を金型開発段階から話し合う姿勢が求められます。

昭和アナログ業界でも導入を進めるためのポイント

現場感覚と経営判断のバランス

伝統的な現場では、「いつものやり方」を簡単には変えたがりません。

しかし現実に使ってみると、作業ペースが上がり「もう前のやり方には戻れない!」と言う声が少なくありません。

現場主導での小さな試み(たとえば、トライアル的に両端の部品同時成形など)からスタートし、段階的な工法標準化を進めましょう。

「人の知恵」×「自動化」とのミックス

実際の導入現場では「100%自動化」よりも、人の知恵・工夫と機械化をうまくミックスした方が現場にマッチします。

昭和時代からのベテラン作業者の感覚・ノウハウを吸い上げつつ、新しい取り組み(同時成形・自動仕分け・工程分析など)を「現場の言葉」で小出しにしていくことが成功のポイントです。

まとめ:射出成形の未来への新たな地平線

複数品の型締め同時成形は、従来の成形現場の常識を覆す画期的な手法です。

多品種・短納期社会で勝ち残るには、「なぜ今まで1型1品しかできなかったのか?」を問い直し、現場の工夫と技術蓄積で「同時成形」の導入を考えるべきタイミングです。

発注・購買・製造・品質管理など、すべての立場で「やってみる価値」は大きいです。

ぜひ製造現場のチームで具体的にディスカッションし、自社現場で実践的な一歩を踏み出してください。

それがきっと、製造業の明日を切り開くキーファクターになるはずです。

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