投稿日:2025年9月29日

顧客が勝手に認証品を代替品に変える危険な事例

顧客が勝手に認証品を代替品に変える危険な事例

はじめに:製造業に潜む“自己判断”のリスク

製造業の現場では、多種多様な製品と部品が組み合わさり、一つの製品が完成します。
その中で「認証品」と呼ばれる部品や材料は、法規制や品質要求に適合し、第三者機関から厳格な認証を受けたものです。
本来、これらの認証品は設計や顧客、または法令に基づき、厳密に使用が義務付けられています。
しかし、現場では「コストダウン」や「納期」、「一時対応」などの理由により、“認証品を別の部品へ勝手に代替する”という危険な行為が時折見受けられます。

この自己判断の代替行為は、企業にとって重大な品質不具合や法令違反、信頼失墜のリスクをはらんでおり、何より製造業全体の価値を損なう行為です。
では、なぜこのような事例が発生してしまうのか。
管理職や現場担当者、バイヤー、そしてサプライヤーの立場から深く掘り下げ、その背景とリスク、そして防止策を伝えます。

認証品とは何か?なぜ重要なのか

認証品の本質とは

認証品とは、UL(アメリカ)、CE(欧州連合)、PSE(日本)など、法規制や標準規格に準拠していることを第三者機関が認めた部品・材料のことです。
お客様との契約や、業界ガイドライン、官公庁向け製品などでは、これらを使用することが“前提条件”となることがしばしばあります。

例えば、工場の配電盤に使われるスイッチやケーブル、家電製品の中に組み込まれる電源モジュール。
こういった部品は「認証」を持っているからこそ、市場に流通させることができます。

認証品が担保するもの

認証品がもたらしている価値は下記の3つに集約されます。

・安全性:発火や感電、不良動作などの重大リスクを低減
・法令順守:市場ごとに異なる法規への適合性を保証
・信頼性:顧客や消費者が安心して使用できる裏付け

これらの根拠が「認証マーク」や「認証書」という形で目に見える化されているのです。

なぜ現場で“勝手な代替”が行われてしまうのか

コストや納期のプレッシャー

工場担当者や調達担当の多くは、常に「コストダウン」と「納期厳守」を求められています。
例えば、認証品が一時的に納入遅延となった場合、それを理由に生産ラインが停止することは避けなければならないと感じます。
その結果、「形状や性能がほぼ同じだから」として未認証部品に“急場しのぎ”の代替を行いがちです。

「問題が起きなければ大丈夫」といった風潮

昭和から続く日本の製造業界では、「前例主義」や「現場判断」が美徳とされる風潮が根付いている工場もまだ少なくありません。
目の前の生産目標が最優先され、長期的なリスクへの感度が薄れがちです。
「今までもこれで大丈夫だった」「見た目も中身も変わらないだろう」という安易な判断が現場レベルでまかり通ってしまう危険性があります。

認証の本当の意味を理解していない

実際には設計や品質部門が“なぜその認証品でなければいけないのか”を、現場の全員が深く理解できていないケースも多いです。
調達バイヤーやサプライヤーも「認証書類は通関のために必要」「書類さえ整えば良い」とだけ捉えていると、制度の主旨が形骸化します。

顧客が勝手に代替した危険な実例

事例1:UL認証された電源ユニットの無断交換

某組立工場で、アメリカ市場向けに出荷する産業用機械の電源ユニットを、納期理由からUL認証のない部品に勝手に差し替えた事件がありました。
出荷後に現地での法令検査で発覚し、数百台が緊急リコールに。
多額の輸送費用と現地サポート、さらには顧客信用の大きな損失につながりました。

事例2:CEマーク部品の偽造ラベル問題

別の国際案件では、調達コストを抑えるために認証外の部品にCEマークの偽造ラベルを貼って出荷していた事例も発覚しています。
これは明確な“違法”行為です。
製造企業だけでなく、サプライヤーやバイヤーもそのリスクを背負い、最悪の場合は刑事責任や出荷停止処分を受けることとなりました。

事例3:PSE対象電線の未認証品への置き換え

国内向け家電製造ラインでは、PSE認証品の電線が当日必要数量を確保できなかったため、同等品と称して未認証の電線を使用した例も報告されています。
出荷後、市場でショート事故が発生し、製品の全数回収・社告・経営陣の謝罪会見に発展しました。

認証品の勝手な代替のリスクとは

法令違反と契約違反

認証品使用は、しばしば法律や契約条件で義務付けられています。
これを無断で代替することは、明確な法令および契約違反です。

重大な品質事故・リコールリスク

認証品で保証されていた安全性や耐久性が担保されないため、人身事故や火災、環境事故などの重大トラブルにつながる危険性があります。
結果として製品回収(リコール)や多額の損害賠償、社会的信用失墜へ直結します。

ビジネスの持続性が脅かされる

現場判断で認証規格を軽んじる風潮が社内に広がった場合、企業としてグローバルマーケット参入や新規顧客獲得のチャンスさえも失う危険があります。
一度失った信頼は、なかなか取り戻せません。

勝手な代替を防ぐための本質的解決策

教育・意識改革の徹底

最も重要なのは、現場担当者はもちろん、調達、設計、営業、経営層まで認証品の意味とリスクを“自分ごと”として理解することです。
「なぜ認証品が必要なのか」「違反した場合のリスクは何か」を説得力のある失敗実例などと合わせて、定期的に内部教育することが不可欠です。

設計段階・調達段階での管理強化

・設計仕様書の中で認証品の指定・認証書添付義務化
・調達管理システムにおける部品毎の認証証跡管理
・サプライヤ開拓・評価時には認証維持体制や偽造防止体制まで確認

これらを仕組みとして組み込むことで、“うっかり”や“現場の好き勝手”を物理的に防ぎます。

万一の発生時には即座にオープンな報告・対応

違反行為が疑われる事例が発生した場合、ごまかさず迅速に管理者・品質部門へ報告し、顧客や当局への誠実な説明、原因究明と再発防止まで一貫して行う企業文化が重要です。

サプライヤー/バイヤーとの信頼関係の再構築

サプライヤー側が意識したいこと

大手メーカーへ納入する場合、「認証はお客様が求めるもの」という受け身だけではなく、「自社としてなぜ認証管理が必要なのか」まで考えを深めることが大切です。
また、認証情報の開示・宗久性の説明、トレーサビリティの徹底など、“攻めの品質管理”へ転換しましょう。

バイヤーが身につけるべき視点

単なる価格交渉や納期交渉にとどまらず、認証調達の背景や法規制の最新動向を能動的にインプットし、代替品提案時も「認証の写し」「使用実績データ」などをエビデンスとして確認する習慣が重要です。
また、顧客とサプライヤーの間で“認証維持を守ることの価値”を共通言語化することが、長期的な関係構築に直結します。

まとめ:昭和的“なんとかなる”はもう通じない

現代の製造業における競争力は、「ルールを守り抜く力」「安心・安全の哲学」を軸としています。
認証品の勝手な代替は、その根幹を揺るがしかねない行為です。
“コストや納期、目先の都合で勝手に判断しない”、その企業文化を現場から経営層まで徹底させましょう。

本記事が、現場を預かる方、これからバイヤーを目指す方、サプライヤーとして納入先を増やしたい方々、全ての“製造業の仲間”にとって、認証品の本当の意味や業界動向を再認識し、安全で強いモノづくりの実践につながる一助となれば幸いです。

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