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EPU景況指数と材料指数をダッシュボード化し値上げ要求の妥当性を判断

EPU景況指数と材料指数をダッシュボード化し値上げ要求の妥当性を判断
はじめに ー 製造業における価格交渉の新常識
昨今の製造業界において、サプライヤーからの値上げ要求は珍しいことではありません。
原材料費の高騰、エネルギーコストの増加、人件費の上昇など、背景にはさまざまな要因が複雑に交錯しています。
現場では「またか」「今回は本当に妥当なのか」と疑問を抱きながら受け止めている方も多いでしょう。
特に昭和から脈々と受け継がれてきたアナログ的交渉術や根回し文化の残る産業では、客観性や論理的な裏付けがなおざりになることもしばしば見受けられます。
そこで近年注目されているのが、経済政策不確実性指数(EPU景況指数)や材料指数といった客観的な指標を活用し、ダッシュボードで“見える化”して値上げ要求の妥当性を定量的に判断するアプローチです。
今回は大手製造業で培った現場目線と、業界に根付く動向を踏まえ、この新たな取り組みについて詳しく解説します。
EPU景況指数・材料指数とは何か
経済政策不確実性指数(EPU:Economic Policy Uncertainty Index)は、経済政策の不確実性や景気動向の先行きを数値化した指標です。
また材料指数とは、主に各種原材料の国際的な価格変動を反映する指標であり、仕入れコスト増減の可視化に役立ちます。
日本経済新聞や経済産業省、または業種ごとに算出される独自の材料価格指数など、入手元は多岐に渡ります。
これらの指数を定期的にウォッチすることで、市場全体の動きや自社の調達環境がどう変化しているのか、感覚値ではなく数値で捉えることが可能です。
なぜ今“見える化”が重要なのか
値上げ要求が飛び交う度に、各部門が都度ヒアリングや資料調査に追われる伝統的な対応は、工数がかさみスピード感にも欠けます。
また、現場の感情や慣習、立場論が交渉結果を左右しやすく、本質的なコスト評価やWin-Winの関係構築が難航するケースも後を絶ちません。
“見える化”は、こうした属人的かつ非効率なプロセスを打破し、社内関係者の納得感とバイヤー・サプライヤー双方の信頼関係を同時に高めてくれます。
第三者が見ても一目瞭然の明確な数値データが、あなたの現場力と交渉力に強力な裏付けを与えるのです。
ダッシュボード化による運用の実際
では、実際の現場でどのように指数をダッシュボード化して活用しているのでしょうか。
まず取り組みのステップを具体的に説明します。
1. 指標データの収集・選定
毎月・四半期・半期といった適切な更新頻度で、EPU景況指数や該当材料指数のデータを収集します。
取引材料が金属であれば「日本の鉄鋼材料指数」や「LME(ロンドン金属取引所)金属価格」など、その業界や商材ごとに関連性の高い指標を選ぶことが肝心です。
2. ダッシュボードの構築
ExcelやPower BI、Tableauなどのツールを使い、視覚的にわかりやすいグラフやチャートを作成します。
特に、以下の3つの切り口は押さえておきたいポイントです。
- 直近1年〜3年間の推移(トレンド分析)
- 現行価格と指標平均値のギャップ(乖離分析)
- 為替やエネルギーコスト、物流費など周辺要素も加味した複合表示
これによって、取引先からの値上げ要求が「市場全体の波に沿ったものなのか?」「突出した独自要因があるのか?」を明確に把握できます。
3. シナリオ別の経営インパクトを試算
単に指数の変動を示すだけではありません。
ダッシュボードに「当社年間購入量×単価変動率」「受注価格への転嫁可否」「利益インパクト」など、具体的な経営数字もリアルタイムで連動させることができます。
このように、変化の先にどんなリスクやチャンスがあるかを瞬時に見通せます。
4. 定例会議での活用と現場浸透
定期的な経営会議や調達方針ミーティングの際、ダッシュボードを活用して数字ベースで意思決定を行います。
また、現場担当にも最新版を展開し、日々の取引現場で自信ある交渉をサポートします。
単なる管理ツールに留まらず、“知る力”→“対話する力”→“利益を守る力”へとつなげていくサイクルが重要です。
昭和的アナログ商談の壁をどう乗り越えるか
「ウチの業界では、数字より義理人情と習慣がものを言う」という声は今も現場でよく聞きます。
確かに、長年の付き合いや現場に根付いた感覚・温度感を無視するわけにはいきません。
しかし、デジタル活用による客観性と納得感は、むしろこうした関係性を損なわず“深化”させる強みになります。
たとえば、取引先から値上げ要請書が届いた際に「市場指数の推移と比較した場合、御社ご提案の○%がこうした環境変化にどの程度準拠したものなのか、双方で客観的に確認しませんか」とオープンに打ち返す。
これはあくまで相手を責める材料ではなく、「共通言語」によって同じ土俵で建設的に話し合い、根拠なき駆け引きを排除して納得の着地点を探すという、バイヤーとしての責任感ある姿勢を示すことにつながります。
値上げが正当な場合と「理由弱い」場合の見極め
ダッシュボードを使うことで、次の2つのパターンを明確に区別できます。
-
全体相場が明確に上昇している場合:
材料指数やEPU景況指数が右肩上がりを続けていれば、値上げ要請も一定の妥当性があります。
ただし、供給先ごとコスト上昇幅に差がある場合は、個別要因(生産技術革新・省力化など)の合理的説明も引き出しましょう。 -
指数が下落、停滞、または相場と乖離:
客観的にコスト上昇根拠が乏しければ、「独自の事情」や「タイミング狙い」に過ぎない場合も多いです。
そうした場合は指数データをもとに冷静に再交渉を行ったり、時期を延期する交渉カードとして使えます。
ダッシュボード活用のための現場落とし込みポイント
現場レベルで本当に使われ、業績に利益をもたらすにはいくつかのコツがあります。
-
シンプルで直感的なグラフ表示:
難解で専門家しか読めない“資料”では意味がありません。
一目で判断できるビジュアル化が重要です。 -
定期発信と“現場スポンサー”の設置:
調達部門や生産管理部門で「このダッシュボード見るのが当たり前」という文化を作るには、
現場リーダーが率先して定例会議などで使い続けることが鍵です。 -
アクションへの直結:
「数値を見るだけ」で満足せず
・要請案件発生時には必ず比較
・利益影響試算も毎回必須
のプロセスをルール化することが推進力になります。
サプライヤー・バイヤー双方における意識のアップデート
サプライヤー側としても抗弁根拠が客観化されることで「正当性ある値上げ要請」が通りやすくなるメリットがあります。
逆に、「根拠の弱い値上げ要求」はバイヤーからロジカルに反論されるため、下手な値上げ連発で信頼を損なうリスクにもなるでしょう。
このように、データという共通土俵の上でこそ、公平かつ長期的なパートナー関係が築ける時代となっています。
まとめ:数字で現場価値を高める時代へ
昭和型の慣習や情に頼った商談から、データドリブンで本質・本音を語れる製造現場へ。
EPU景況指数や材料指数をダッシュボードで“見える化”し、経済環境に裏打ちされた判断軸を持つことが、これからの購買と調達の新しい常識です。
本記事が、製造業に携わる皆様の“納得できる値上げ交渉”や“健全なサプライチェーン構築”のヒントになれば幸いです。
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