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現場改善よりもデータ収集が目的化してしまう問題

目次
はじめに:なぜ現場改善が進まないのか
製造業の現場では、「IoT」「デジタル化」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」といったキーワードが飛び交うようになりました。
多くの工場でデータ収集が活発化し、現場には次々と新しいセンサーやシステムが導入されています。
しかし実際のところ、現場改善そのものが置き去りになり、目的と手段が入れ替わってしまうケースが後を絶ちません。
この「データ収集が目的化してしまう問題」は、いまだに強く製造業界に根付くアナログな文化と、現場オペレーションの現実を理解しないまま進められる上位戦略のギャップが原因です。
本記事では、実践的な視点からこの問題の本質を探り、これからの製造現場に本当に求められるデータ活用と改善活動の方向性について掘り下げて考察します。
データ収集が目的化する背景
「見える化」の罠と昭和のカン・コツ文化
製造業の現場で、データ収集の重要性が認識されるようになったのは事実です。
理由の一つは、「見える化」という流行ワードが経営層から繰り返し叫ばれるようになったことにあります。
しかし、長年昭和時代の「カン・コツ」で運用されてきた現場では、「とりあえずデータを集めておけばいい」という安易な考えが先行してしまいがちです。
データを取ること自体が目的となり、現場が「何のための見える化か?」を深く考えず、数字やグラフだけが並んで改善活動が停滞してしまうのです。
システム会社・IT部門主導の弊害
現場ではなく、IT部門やシステム会社主導でIoTプロジェクトが推進されるケースも多く見受けられます。
現場のオペレーターやリーダーの声が反映されず、「標準的なKPIを測定しましょう」「クラウド型が便利です」といった上からの施策が進みます。
その結果、現場で使われないシステムが増加し、「誰のためのデータなのか?」という本来の目的がますます見失われていく状態が発生しています。
現場の「管理負担」とベテランの反発
データ取得用の記録作業が増えることで、現場作業者の手間と負担が増します。
「これまでも日報書いていたのに、さらにタブレットや端末に入力しろと言われる」
「この数字を取って何になるのか分からない」
特にベテラン作業者ほど新規システムへの反発が強く、現場全体のモチベーション低下にもつながる恐れがあります。
データ収集と現場改善の本来の関係とは
データは「問題の種」を発見するための道具にすぎない
現場改善におけるデータの役割は、「問題(ムリ・ムダ・ムラ)」の“種”を発見するための道具です。
たとえば不良品が出た際、「なぜそのロットだけ歩留まりが悪かったのか」「どの工程・設備に異常があるのか」といった“現象”を深く掘り下げるために、客観的な証拠が必要です。
つまり、データはあくまで改善ストーリーの中で“使いこなす”ものであり、「とにかく全部データ化」すればよいわけではありません。
現場の「気づき」と「体感」こそが改善のスタートライン
最前線で働くオペレーターや、生産管理・購買担当こそが、日々小さな“違和感”に気づく存在です。
「この設備、昨日から音が変だな」
「最近、この仕入先の納期遅延が増えた気がする」
こうした現場感覚を数値で裏付け、チームで共通認識として議論できるようにする。
そのための“根拠”や“証拠”としてデータがあります。
私の経験では、「データで問題を見つける」のではなく「現場の違和感をデータで確かめる」アプローチの方が、はるかに有効です。
経営層・管理層と現場との橋渡し
データ活用の本当の価値は現場と上層部のコミュニケーションを「事実ベース」でつなぐことにあります。
「現場は忙しい、数字はどうでもいい」と言い張る昭和型工場長。
「数字で報告しろ、エビデンスが全て」と机上でいうだけの経営層。
この温度差を埋める橋渡し役を、現場目線で動ける中間管理職や調達担当者が担うことが重要です。
「現場改善よりもデータ収集が目的化」してしまう現象の具体例
例1:意味のない数値を集め続ける調達・購買部門
調達・購買部門では「調達リードタイム」「発注エラー率」「サプライヤー別納期遵守率」など、さまざまなKPIが設定されます。
ところが、現場の作業改善やサプライヤー交渉に活用されることなく、「月次報告資料」のためだけに集められる数字が多いのが現実です。
こうした“つくられたKPI”が現場で消化不良を起こし、「集めて終わりのデータ」になってしまいます。
例2:生産ラインへの大量センサー導入と現場の困惑
工場の自動化が進む一方、それに伴って大量のセンサーやIoTデバイスが導入されています。
しかし、データの“取得”だけが目的化し、
・どのセンサー情報がライン停止や不良品検出に直結するのか
・本当に必要なポイントにセンサーが設置されているのか
といった「現場目線の運用設計」がされていない例が多くあります。
「分析担当に出すためのデータ」ばかり溢れ、実際のラインの改善には役立っていません。
例3:品質管理の“日報主義”がDX化で悪化
品質管理においても、従来からの日報主義が「デジタル日報」になっただけで、根本的な改善アクションにつながっていない例があります。
現場のパトロールで手書きしていたチェックを、そのままタブレット入力に置き換えただけ——
データは蓄積されるものの「どこに異常な傾向があるのか」「改善点はどこか」といった分析や現場へのフィードバックが不十分です。
データに振り回されない現場改善の進め方
目的を明確にする:現場の“What”と“Why”を徹底追及
データを収集する前に、現場で「何を解決したいのか」をしっかり言語化することが最優先です。
・どんな現象を可視化したいのか?
・なぜ現状を変える必要があるのか?
・理想の状態はどういうものか?
この問いかけを現場のリーダー・担当者・管理職が一体となって議論し、データ収集の“意義”を納得感のある形にすることが大切です。
スモールスタート、そして現場で「使い切る」設計を
最初から大規模なシステム投資や全データ自動化を目指すのではなく、
「現場の一部ライン」「一部の手順」から小さく始めることが現実的です。
たとえば「特定工程の不良率が高いので、その工程だけ詳細データを集めて分析する」といったやり方です。
現場で使われ、改善活動の“一連の流れ”としてデータが組み込まれることで初めて、「データ=現場改善の武器」へと昇華します。
現場の“語り部”を巻き込み、組織的なラーニングを
成功している現場には必ず「語り部」や「キーマン」がいます。
自動機のトラブルを最初に気付くベテラン、生産性の帳尻合わせをしてくれる現場リーダー、サプライヤーの実情を垣間見る調達担当など、現場の“体感”をデータと結びつけることができる人物の存在が重要です。
彼らのナレッジを可視化し、定期的な現場報告会やカイゼン提案会など、組織横断での知見共有を推進しましょう。
「何を測るか」は、現場の仮説から逆算する
センサーやKPIの選定は、現場の「困りごと」や「仮説」に根ざしている必要があります。
例えば、
・「歩留まりが悪いのは、温度変化による影響ではないか?」
・「納期遅延は、現場の仕掛品管理にムリ・ムダがあるのでは?」
こうしたストーリーを現場で徹底的に議論し、それを“証明できる”最小限のデータ取得から始める。
この仮説検証サイクルこそが現場改善の原動力です。
サプライヤー・バイヤーが心得るべき「データとの付き合い方」
バイヤーは「現場と同じ言葉」で対話を
バイヤーを目指す方は、サプライヤーや現場担当と「腹を割った生の対話」ができることが何より重要です。
数値やKPIで相手先を管理する“上から目線”に終始せず、なぜそのデータが必要なのか、現場担当のオペレーションにどう活用できるのか、本音を引き出す力が問われます。
サプライヤー視点:バイヤーが「何を見ているか」を理解する
一方で、サプライヤー側も「バイヤーのデータ主義」に反発するだけでなく、「なぜこの数値が求められるのか」を推察し、自社の改善活動や現場運用にフィードバックする機会と捉えるべきです。
データを使ったQCD(品質・コスト・納期)管理の本質を理解し、両者が現場改善で“化学反応”を起こせる体制を築きましょう。
まとめ:データは現場改善の「道具」に過ぎない
昭和型アナログ文化が根強く残る製造現場で、DXやデータ活用ブームがややもすると「データ収集のためのデータ収集」という悪循環を生み出しています。
本当に目指すべきは、「現場の困りごと」を現場の当事者自らがデータを使いこなして解決し、日々の業務改善を自律的に継続する状態です。
データ収集はゴールではありません。
現場の肌感覚、違和感、現場の空気を言語化し、数字として裏付け、組織全体で改善を加速させる「道具」です。
これからバイヤーやサプライヤー、現場リーダーを目指す方は、「とりあえずデータ化」ではなく「現場課題への本質的アプローチ」と「本当に使い切れるデータ活用」の両輪で現場改善に臨んでください。
そうした現場目線の知恵と情熱の積み重ねこそが、日本の製造業がこれからもグローバルで生き残るための確かな礎になるのです。
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