投稿日:2025年9月27日

データの正確性を保てず分析に使えない課題

はじめに:製造現場の「データ正確性」――永遠の課題

日本の製造業は、品質・コスト・納期を徹底的に追求してきました。
現場改善やカイゼン活動など、世界に誇れる現場力を築いてきた一方で、近年叫ばれる「デジタル変革」に対しては、まだまだアナログ体質が根強く残っています。
その象徴が、「データの正確性を保てず分析に使えない」――つまり「使えるデータが取れず、分析・改善・革新につながらない」問題です。

この背景には、長年続いてきた現場の慣習、紙帳票文化、ITリテラシーの問題、さらには経営層と現場の危機意識ギャップなど、さまざまな要素が絡んでいます。

この記事では、筆者が20年以上製造業の現場で見てきた「データの正確性をどう確保するか」というリアルな課題を、バイヤー・サプライヤー双方の目線も交えて解説します。

そもそも「データの正確性」とは何か?

現場目線で定義する「データの正確性」

現場のオペレーターが入力した生産実績。
検査工程の合否記録。
設備からリアルタイムに取得する稼働データ。

一口に「データ」と言っても、生成されるまでのプロセスは様々です。
しかし共通して言えるのは、「集められたデータが、現場の実際の状況をありのまま記述しているかどうか」。
これこそが「データの正確性」です。

たとえば、
– ロットNo.や数量の記録間違い(人的エラー)
– 機械のセンサー異常値が未補正のまま記録される(システムエラー)
– 過去データの修正や上書きが誰でも簡単にできてしまう運用
– 紙帳票の転記ミス
こうした問題が常態化している工場は少なくありません。
現場での日常業務のなかでも、「見た目上の値(帳尻合わせ)」が優先された結果、実態を正しく表していないケースも多々あるのが実情です。

「なぜ正確なデータが必要なのか?」――経営と現場での意識差

経営層やIT部門は「データを分析し、現場の歩留まりや不良率を数値的に把握・改善したい」と考えます。
しかし現場側には「分析で誰かが責任追及されるんじゃないか」「今まで一度もデータで指摘されたことがない」という空気感が根強く、データ入力が形式的・事務的になりやすい傾向があります。
これが「データの正確性が担保されない」最大の要因ともいえます。

なぜ「正確なデータ」がなかなか取れないのか?アナログ業界の根深い壁

紙文化・転記作業――昭和の伝統はいまだ現役

いまだ多くの工場では、「紙の実績表」「手書きの検査成績書」が健在です。
たとえ生産スケジューラーやMES(製造実行システム)を導入しても、一部のデータは係員が紙からシステムへ転記し直す、といった運用も日常的です。

このプロセスが
– 記載ミス
– 読み間違い
– 数値の丸めや書き換え
を生む土壌となっています。

「とりあえず現場が回ればいい」思考と「データ精度」の相克

製造現場には納期・品質維持といった「今、今日」の問題解決が求められます。
業務遂行最優先のなか「データの正確性」は二の次になりがちです。
たとえば
– 朝礼で「今日は○個生産しろ」と言われたが、トラブルで間に合わず出来高をごまかした
– 故障による停止も「通常稼働」として記録した
– コスト削減報告のために消費数値を調整した
こうした暗黙の運用が、データ品質低下につながります。

ITシステム導入の失敗パターン~システムだけ変えてもデータは変わらない

よくある失敗例として、「新しいITシステムは導入したが、現場の運用は変わらず、結局紙と並行運用。現場では面倒なのでシステム側の入力は人任せ」というケースが挙げられます。
このような状況下では、「どのデータが正なのか分からない」「信ぴょう性のないデータが乱立する」事態となり、ますます分析の信頼性が損なわれてしまいます。

現場が直面する「正確なデータ収集」の具体的な課題

1. 運用フロー未整理による属人化

「この記録はAさんがやってるけど、Aさんが休んだら誰も分からない」
「現場Bのやり方と現場Cのやり方が違う」
こんな属人化状態が実は多数存在します。

現場の経験者がルール化せずノウハウで運用しているため、入力のズレや記録洩れが頻発します。
これがデータ精度低下を招いているにも関わらず、「何となく回っている」ので放置されやすいのです。

2. 異なるシステム間でのデータ連携不備

工場ごと、工程ごと、さらには取引先ごとにシステムがバラバラだと、データの突合や集約が難しくなります。
「マスタが統一されていない」「異なる項目名で同じ意味のデータが存在する」といった混乱も往々にして起こります。

3. 機械・センサー・IOT化の落とし穴

AI・IOT活用をうたうプロジェクトも、現実にはセンサーのキャリブレーション不備や、ノイズ混入により「本当に合っているのか分からない」データが量産されていることも。
現場での物理的な機器メンテナンスや点検体制が不十分な状態では、「装置自動記録=絶対正しい」にはなりません。
むしろ「現場の目」が入らなくなり、異常値や異変の発見が遅れるリスクも孕みます。

サプライヤー・バイヤーの立場から見る「使えないデータ」に対する苦悩

バイヤー:意思決定で困る「データの信ぴょう性」

調達購買部門はサプライヤーから提出された納品実績・検品結果・不具合報告などあらゆるデータをもとに意思決定します。

– 履歴上は「納期遵守」になっていても、現場で帳尻を合わせただけ
– 検査成績書の合格印は押されているが、信ぴょう性が不明
– 過去の不良率分析に使いたいが、そもそも数値の根拠が分からない
こうした「使えないデータ」しか得られない状況だと、発注先の最適化も、部品品質の向上も絵に描いた餅となってしまいます。

サプライヤー:現場負担と生産性低下のジレンマ

サプライヤー側は、バイヤーから細かなデータ提出やトレーサビリティの強化を求められる一方で、
– 「現場業務が滞る」
– 「人手が足りない」
– 「何のためのデータ化か分からない」
という現場負担に苦しんでいます。

特に中小企業の場合、専任スタッフがいないため、現場主任や班長が日常業務の合間に帳票整理やシステム入力を強いられ、本来業務に支障をきたしている場合も多いのが実態です。

データの正確性を保つために――現場目線の解決策

1. 現場で「なぜ正確なデータが重要なのか」を理解できる教育を継続する

形式的なIT研修ではなく、実際の業務改善事例や不良発生事例をもとに
– 「なぜ正確なデータが現場の負担軽減や品質向上につながるのか」
– 「誤ったデータがもたらす現場のダメージ」
– 「帳尻合わせをしなくてもいい風土づくり」
を繰り返し現場と対話していくことが最も重要です。

2. 記録プロセスの標準化・自動化・簡略化

可能なかぎりデータ記録を「人間の手から切り離す」仕組みが必要です。
バーコードやRFIDによる自動認識、設備・検査機からのダイレクトデータ取得を推進し、「入力作業」「転記作業」を極限まで減らすこと。
これにより現場負担を最小化しつつ、属人化やミスを防止できます。

3. 紙・Excel依存からの脱却――「つなぐ」IT投資

完全なシステム化が難しい場合でも、「現場の紙帳票をOCR・タブレットによるデジタル化」「スマホで現場から直接写真と数値をアップロード」など、既存業務への負担が少なく、徐々にデジタルシフトできる“つなぎ”の投資も有効です。
今どきのクラウドサービスやローコード開発ツールを活用することで、現場ニーズにあった柔軟な仕組みを短期間・低コストで構築できます。

4. 「現場起点」で運用ルールを設計する

現場が納得して運用できないルールや仕組みは長続きしません。
現場から「こうやったほうがミスが減る」「このままだと作業が止まる」といった声を吸い上げ、必ず試作・実績検証を重ねてから本格導入することが、データ精度向上には不可欠です。

今後の展望――「真のDX」とは「現場のデータが分析に使える」ことから

大手企業のみならず、中堅・中小製造業でも「脱・アナログ」が大きなテーマです。
しかし、その一丁目一番地は「正確な現場データをいかに取得し、有効利用するか」に他なりません。
AI活用・IoT化・SCMの高度化、どれも第一歩は「現場が正しいデータを集められる」ことから始まります。

これからのサプライヤー、バイヤーを目指す方は、ぜひ「現場起点のデータ精度向上」という視点を持ち、現場改善とDXを両輪で回せる人材となっていただきたいと願っています。

まとめ:データは「会社の知的資産」~現場を主役にした改革を

本記事で紹介したように、「データの正確性」には技術的要素だけでなく、人・組織・風土・マネジメントの問題が密接に絡んでいます。
短絡的にシステムを導入するだけでは、真の「使えるデータ」は生まれません。

現場が主役となり、負担少なく正確な情報が蓄積される仕組みづくり――これこそがアナログ業界からの脱却、そして日本の製造業の進化のカギです。

バイヤーもサプライヤーも、データを「今を守るため」だけでなく、「未来を創るため」の資産として、いっしょに意識向上と現場変革に取り組んでいきましょう。

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