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切削加工で発生するバリの処理方法と設計段階での予防策

目次
はじめに:バリ問題は現場の永遠の課題
切削加工によって必ず発生する「バリ」は、製造現場で働く誰もが一度は頭を悩ませたことがある悩みの種です。
バリ処理は後工程に手間がかかるだけでなく、品質不良やコスト高騰の原因にも直結します。
しかも日本の製造業、特に昭和の技術伝承が色濃く残る現場では「バリは後で取ればいい」という経験則が支配的で、設計段階からの予防策があまり重視されていないことも多いです。
この記事では、20年以上現場で培った視点から、バリ処理の実践的な方法、現場でありがちな落とし穴、そして設計時にできる根本的なバリ発生の予防策まで、バイヤー・サプライヤー双方の失敗事例なども交えて網羅的に解説します。
そもそもバリとは?現場感覚で再整理
バリ発生メカニズムの基礎
バリとは、金属や樹脂を切削や打抜き、圧延といった加工をする際に、加工エッジや穴周辺に生じる意図しない突出部分のことです。
現場感覚で言えば、「手を怪我しやすい部分」「組付け後で見つかると最悪な迷惑もの」といった印象が強いでしょう。
バリは削りカスの残留、工具の摩耗、加工条件のミスなど、あらゆる要素から発生します。
バリの分類と特徴
バリは大きく以下の2つに分類できます。
1. 一次バリ(プライマリーバリ):加工完了時点で即発生するもの。材料がちぎれたりめくれたりした状態で残ります。
2. 二次バリ:一次バリを除去しきれず二次的・三次的に残る微小なバリ。品管検査や組立時に発見されやすいです。
実際の現場では両者が混在し、「どこまで処理すべきか」の線引きが品質とコスト、納期に直結します。
バリが製品・工程にもたらすリスク
品質面のリスク
バリは、組み立てや検査工程に重大なリスクをもたらします。
例えば、バリがあると部品同士の嵌合不良や摩擦増加、配線の断線、絶縁破壊などが発生します。
最悪の場合、現場で発見できずユーザー先でトラブルとなり、リコールや多額の損失につながることもあります。
コストと納期への影響
バリ処理は、加工以外に追加工数・工程・検査を必要とします。
そのため、看過したバリを後工程で発見した場合には、リワークや生産ラインの停止、納期遅延の原因にもなります。
これらは最終的な製品コストを押し上げ、価格競争力や利益率の低下に直結します。
特に近年は労務コストも上昇傾向にあり、現場では「バリ処理専門の人材」を確保するコストも無視できません。
現場で使われるバリ除去の主な方法
1. 手作業によるバリ取り
最も原始的ですが、いまだに現場の多くを占めているのがヤスリやカッター、バリ取り工具を使った手作業です。
柔軟に対応できる反面、作業品質や作業者のスキルに大きく左右されるため、人為ミスや処理ムラが出やすいのが難点です。
また、膨大な手間と時間がかかります。
2. 機械によるバリ取り
バレル研磨機やデバリング専用機を使った自動処理も広く普及しています。
生産量が多い場合、安定した取り切り精度が得られ、コストダウンにもつながります。
しかし、加工部位によっては届きにくい、材料を選ぶ、初期投資が高いなどの課題もあります。
3. ケミカル&熱的処理
化学薬品で微細なバリだけを溶解させるケミカルデバリング(化学研磨)、バリ部分のみを加熱して除去する熱バリ取り(セラミック法・爆発法)もあります。
いずれも特殊な材料や形状、バリの種類に応じて選定され、多品種少量・微細バリの除去に有効です。
昭和に根差したアナログバリ処理の問題点
日本の製造業では、長きにわたって手作業によるバリ取りが主流でした。
ここには「熟練の技術で微細なバリまで完璧に仕上げる」「バリ問題は現場に投げれば解決する」という暗黙の前提があります。
これが根強く残っている現場では、設計段階での未然防止や自動化投資が軽視されがちです。
また、サプライヤー側も「バリ取り作業は追加コストとしてバイヤーに交渉しづらい」ため、サービス残業や現場にしわ寄せがいきやすくなります。
設計段階でできるバリ発生の予防策
1. 加工工程の見える化・共有化
まず、製品図面や仕様検討の段階から「どこに、どんな加工をするか」「バリ発生箇所はどこか」を明確にし、サプライヤーや加工現場と情報共有することが重要です。
近年は3D CADや加工シミュレーションを用いて、設計時点でバリを可視化できるツールも登場しています。
2. バリが発生しにくい構造設計
設計段階から以下のような配慮を入れることで、そもそもバリ発生を低減できます。
・穴・切削部位の出口側に逃げや丸みを設ける
・突き合わせ部に微小な面取り(C面 or R面)指示を加える
・深穴や複雑形状を一体加工にしない
・工程数や工具交換回数を最小化する
これにより加工応力や工具逃げが最適化され、バリが発生しにくい形状となります。
3. バリ公差の明示・検査基準の設定
図面段階で「このバリは最大何mmまで許容する」など、バリに関する公差や検査基準(JIS規格や社内基準)を明示することも不可欠です。
バイヤー側がしっかりスペックインすることで、不明瞭な追加コストや「現場丸投げ」リスクを低減できます。
サプライヤー側も検査工数や処理品質を明確化しやすくなります。
最新の自動化・デジタル技術によるバリ対策
AI・IoTを活用した自動バリ検出
最近は生産設備にカメラやセンサーを組み込み、AIによる画像解析によりリアルタイムでバリの有無を判定する自動検査システムが普及しています。
これにより「人による見逃し」「記録管理のバラつき」などが低減されます。
加工条件・工具寿命のビッグデータ活用
切削条件(回転数・送り速度・工具種類・冷却液の種類など)をIoTでモニタリングし蓄積することで、「どの条件下でバリが出やすいか」をデータドリブンで予防できます。
急激な工具摩耗や異常振動も事前検知できるため、未然に対策可能となります。
バイヤー・サプライヤーの協働でこそ実現するバリゼロ化
コストダウンと品質向上の真の両立には協業が必須
よくある失敗事例として「調達コストを優先した結果、サプライヤー側への過度な価格圧縮で工程が雑になりバリ問題が多発」「バリ取り専門業者に丸投げした結果、工程遅延や品質低下を招いた」といったものがあります。
本来、バリ処理は発注側と受注側、設計と現場がタッグを組んで落としどころを探り、最適解を目指す工程です。
バイヤーは「単価値下げ」だけを主目的とせず、「最終工程までバリゼロ化で歩留まりがどれだけ改善したか」という視点でサプライヤーを評価できると、長期的なパートナーシップが築きやすくなります。
まとめ:バリ対策は現場力×設計力で未来が変わる
バリとは加工技術や現場の成熟度をはかるリトマス紙のような存在です。
日本の製造業は世界最高峰の技能と経験を有していますが、今後はデジタル化や自働化技術もフル活用し、現場任せでなく設計・調達・製造が連携して本気でバリゼロを目指す時代です。
最後に繰り返します。
切削加工によるバリ処理は「手作業ありき」からの脱却をめざし、設計段階からの工夫と現場改善、そしてバイヤー・サプライヤーの協業によって、生産効率と品質を両取りできる未来を切り開きましょう。
あなたの現場での一歩が、日本のモノづくりをもう一段高みに押し上げてくれるはずです。
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