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脱炭素・ESG要求をOEMで満たす:LCA/CO2算定と証憑管理

目次
はじめに:工場や購買現場にも迫る脱炭素・ESG要求
近年、製造業界では「脱炭素」「ESG(環境・社会・ガバナンス)」という言葉が急速に浸透しています。
これは単なるトレンドではなく、企業経営において避けては通れない課題になっています。
特に、大手メーカーや自動車業界を中心に、サプライチェーン全体にわたってCO2排出量の可視化と削減が強く要請されています。
従来、日本の製造業は品質・コスト・納期(QCD)を最優先してきました。
しかし、今や国際的なビジネスを勝ち抜くためには「サステナビリティ」「カーボンフットプリント」も新たなQCDの一角を占めるほど重要になっています。
この記事では、多くの方が直面している「LCA/CO2算定」や「証憑(エビデンス)管理」の実践的な取り組み方について、工場長・調達経験者ならではの視点から解説します。
LCA/CO2算定とは何か?製造業の現場における役割
LCA(ライフサイクルアセスメント)は、製品やサービスが原材料の調達から製造、流通、使用、廃棄までの一連のライフサイクルでどれだけのCO2など温室効果ガスを排出しているかを評価し、定量的に算定する仕組みです。
今後は、OEM(相手先ブランドによる生産)事業においても、取引先から「それぞれの部品や材料ごとにLCA算定値を提出せよ」と問われるケースが主流になります。
なぜLCA/CO2算定が重要なのか
サプライチェーン全体での排出量の把握と削減が社会的要請となっており、大手グローバル企業(例:トヨタ、ホンダ、パナソニックなど)は、Tier1企業や中小サプライヤーにまでLCA情報の提出を求めています。
過去は「間接材の調達」「原価低減」が主な重点テーマでしたが、今やCO2排出の“見える化”が新たな競争力の源泉になっています。
LCA算定の現場感:「ちょっと何を数えればいいの…?」
実態の現場では、LCA算定が急に求められても「何から手を付ければよいかわからない」という声が多く聞かれます。
なぜなら、昭和的なアナログ管理が根強い業界では、データの所在や基本的な材料情報の管理すらバラバラな場合が多いためです。
しかし、まずは「自社の製造プロセスでどんな材料をどれだけ使い、どんなエネルギー(電気やガスなど)が、どの工程でどれくらい消費されているか」を棚卸しすることから始めましょう。
OEMにおけるLCA/CO2算定の進め方と実務ポイント
1. 部品ごとの材料・エネルギーデータの整理
まずは図面上、部品ごと・製品ごとに使われている原材料(鉄、アルミ、樹脂など)とその使用量を明確にしましょう。
この際、ベテラン購買担当者や設計者との連携が不可欠です。
具体的には、以下のような手順が実践的です。
– BOM(部品表)のデジタル化
– 使用原材料のグレード、調達先(産地など)の記録
– 加工プロセスごとのエネルギー消費量(工程台帳や電力量計からの拾い出し)
– 表面処理や塗装など「見えにくい工程」も含めた棚卸し
2. 「証憑管理」=データの裏付けを確実に残す
OEM顧客(バイヤー)から問われることが多いのが、「CO2排出量の算定根拠(証憑=エビデンス)は何か?」という点です。
これは、単なる「自己申告」では許されず、材料メーカーのミルシート、エネルギー会社からの請求書、工場での稼働データなど、複数の証憑を組み合わせて裏付けることが求められます。
– 原材料の購入証明…伝票・ミルシート
– エネルギー使用実績…請求書、電力会社の明細書
– 物流・運送分…物流業者からの距離・量データ、車両の燃費実績
証憑がバラバラで管理されている場合は、「LCA/CO2算定対応専用のファイルサーバー」や「共通ナンバーで証憑を管理できる台帳」を作ることをおすすめします。
3. 内製データと外部サプライヤーとの連携
自社完結で情報が揃わない場合、主要なサプライヤーとの「共同LCAプロジェクト」が有効です。
調達バイヤー主導で「標準フォーマット」を作成し、情報収集を並行して進めましょう。
サプライヤー側にとっては「なぜその情報が必要なのか?」という背景を丁寧に説明し、顧客企業や最終ユーザーの要請醸成も図るようにします。
ここにバイヤーとサプライヤー間の信頼構築が生まれます。
4. デジタルツールの活用とアナログ管理脱却
今まで「エクセル」「紙帳票」で運用していた原価・工程管理と同様、LCA・CO2算定でもデータベース化が必須です。
最近では「LCAクラウド」「CO2算定SaaS」などのサービスも拡がってきました。
一方、その導入前に「自社のどの業務が属人的(あなただけしかできない)になっているか」を洗い出し、標準手順書や教育資料を整備します。
変革は小さな一歩からですが、これがアナログ業界に新たな風を吹き込む第一歩となります。
バイヤーが本音で求める「LCA/CO2情報」の実態
「言われたから出す」では通用しない本質競争
多くのサプライヤーが「OEM顧客に言われたから仕方なくLCA情報を出す」といった対応に終始してしまいます。
しかし、先進的なバイヤーの視点はもっと先にあります。
「LCA値を比較することで、より低環境負荷なサプライヤーを選定する」「今後の年間コストダウン要請は、CO2削減提案も含めて総合的な評価に変わる」ことが明らかになってきました。
CO2情報が「武器」になる時代へ
CO2情報を単なる負担や義務、ととらえずに「新たな提案の武器」にしていくことが、今後のOEMビジネスで生き残る鍵です。
例えば次のような打ち手が考えられます。
– 自社のCO2排出実績とその要因をデータで示し、バイヤーとの協議の俎上に乗せる
– 新しい加工方法・物流の見直しで、CO2削減分をコストダウン提案の材料とする
– 顧客のサステナブル認証や海外展開の要件に、自社のLCA/CO2対応を組み込んで提案
サプライヤーとして知っておきたいバイヤーの発想転換
「安さだけ」から「サステナビリティ総合評価」へ
単なる低コスト供給競争の時代は終焉を迎え、今後は以下の三位一体評価がバイヤー側の標準的思考になります。
– 従来QCD(品質・コスト・納期)
– CO2排出量・LCAデータ(環境対応力の定量化)
– コンプライアンス・サイバーセキュリティも含むガバナンス
このため、サプライヤーとしても「材料変更」「再生材活用」「再エネ電力調達」「物流経路の見直し」「デジタル証憑管理」など、多面的な提案力が求められます。
証憑管理が差別化の要に
バイヤーがサプライヤー選定で注目しているのは、「LCA・CO2算定の妥当性を支える証憑が整理されているか」という点です。
これが曖昧だとサプライヤーへの信頼は揺らぎ、監査や現地立会いの頻発につながります。
裏付けとなる証憑管理体制(ファイリングルールや定期的な棚卸し)ができていれば、そのまま新規取引やグローバル顧客への“信頼獲得”の強い材料となります。
まとめ:脱炭素・ESGで「取引され続ける」ためのアクション
サプライチェーン全体の脱炭素・ESG対応は、今後ますます本格化し、その流れは中堅・中小企業にも必ず波及していきます。
既存のアナログ管理から一歩踏み出し、「LCA/CO2算定」「証憑管理」「バイヤー発想の理解・提案力強化」を自社の新たな差別化軸に据えることが、グローバル市場で“選ばれ続ける企業”への近道です。
バイヤーを目指す方は「サプライヤーと共に歩むLCAプロジェクト」を自ら企画し、サプライヤー側の方は「自社の強みを証憑管理やサステナブル提案で発信できる体制」を早期に構築しましょう。
昭和的なやり方に固執せず、“データと証拠にもとづく新しい協働”を目指すことが、これからの製造業をより強く・しなやかにしていきます。
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